トランプ米大統領は8月3日(現地時間)、中国企業バイトダンス(字節跳動)が運営するショート動画「TikTok」が9月15日までに米企業に買収されなければ、アメリカでの事業を禁止すると発言した。
また、米マイクロソフトなどによる買収を容認し、買収が成立した場合は、米財務省に利益がもたらされる必要があるとの考えを示した。
同日(日本時間)にはホワイトハウスでTikTokとマイクロソフトの責任者による買収協議が行われたとの中国メディアの報道もあり、米政権が企業活動に露骨に介入する前代未聞の事態となっている。
そんな中、バイトダンスの創業者でCEOの張一鳴(Zhang Yiming)氏が全従業員に宛てた手紙の全文が中国のSNSで流出し、拡散している。その長い文面には、アメリカでの事業を手放すことや従業員が苦しんでいることについて、グローバルアプリを育て上げたCEOの苦渋がにじんでいる。
以下、手紙の全文を紹介する。
米大統領の命令に向き合わざるを得ない
バイトダンスの張一鳴CEO。2012年に20代で同社を創業し、グローバル企業に育て上げた(2020年3月、アメリカで撮影)。
REUTERS/Shannon Stapleton
この数カ月、当社はさまざまな苦難の渦中にいます。皆さんもこの数日で多くの噂や憶測を耳にしたでしょう。現状、TikTokの米国事業は対米外国投資委員会(CFIUS)に強制売却されるか、米政府に事業を禁止される可能性があります。
政治、世論の環境が複雑さを増し、一部の市場でバイトダンスに対する外部圧力が高まっています。数週間、私たちはどうすれば最良の結果を得られるか、昼夜にわたって残業も厭わず議論を重ねてきました。その詳細はこの手紙では明かせませんが、従業員の皆さんと同じ方向を向くため、自分の考えを伝えさせてください。
CFIUSは当社が2017年末に行った(米動画アプリ企業)「musical.ly」買収に関する調査を実施し、我々は1年近くにわたって、調査に協力してきました。
バイトダンス側は一民営企業だと繰り返し主張し、数々の技術ソリューションを用いて米側の懸念の払しょくに努めてきましたが、CFIUSはTikTokの米事業売却を譲りませんでした。バイトダンスは一貫してユーザーデータの安全およびプラットフォームの中立性と透明性を確保してきたため、我々はこの決定を受け入れられませんでした。
しかし、現在の環境を考慮した場合、我々はCFIUSの決定と米大統領の命令に向き合わざるを得ないと同時に、あらゆる可能性を検討しました。そうして当社はあるテック企業と協業に向けて初歩的な協議を行い、TikTokがアメリカのユーザーにサービスを続けるための方法を模索しています。
解決方法を探る中で、バイトダンスは以下の3点を考慮しました。
1、ユーザー
TikTokはまさにバネッサ(TikTokの米ゼネラルマネジャー)が動画で伝えたように、バイトダンスの商品にとどまらない、世界のユーザーのコミュニティーです。だから、私たちははこの「資産」を死なせる選択肢はありません。私たちはあらん限りを尽くして、他に替わる存在のないTikTokを守り、TikTokのユーザーエクスペリエンスが何ら影響を受けないようにしたいです。
2、チーム
TikTokは多くの人材を引き付けています。社内の仲間たちの努力の結晶であり、従業員の皆さんにとっては仕事であり事業です。今回の危機に対応しているアメリカの社員へのプレッシャーは増大する一方で、私はいつも、彼らが米国企業で働いていれば、このような苦しみを味わうことはなかったと感じています。
ただ考え方を変えれば、この危機に力を合わせて対応することで、国・地域の違う従業員が相互理解を深められているとも思えます。我々は今後のことを判断する上で、チームの利益と成長を大切なことと考えています。
3、企業
当社は「inspire creativity & enrich life」(創造力の刺激と生活の質を高める)というビジョン実現に向け努力を続けます。商品を進化させるように、企業としても前進を続け、優秀なグローバル企業を目指しています。
TikTokは「窓」「キャンバス」「橋」
トランプ米大統領は3日、「9月15日までに米企業に買収されないと、TikTokの米事業を禁止する」と発言した。
REUTERS/Jonathan Ernst
バイトダンスははまだ最終的な決定を下してはいません。世間はTikTokに注目し、さまざまな噂を立てる状況がしばらく続くでしょう。外部の声が騒々しくなり、苦境に直面する中で、従業員の皆さんはモチベーションを失わず、長期的な実力をつけることに集中してほしいと願っています。
複雑な局面に際して、我々が適切な決定を行い、従業員を十分にサポートをすると信じてください。バイトダンスはイノベーションと揺るがぬオペレーションを通じ、ユーザーに最良のサービスを提供し、企業として高成長を維持し、危機に際して「最も間違いのない」判断をします。
TikTokは既に世界のカルチャーの一部になっています。ユーザーにとって窓であり、キャンバスであり、橋でもあります。数億人のユーザーが私たちのつくったプラットフォームで創作活動を行い、お互いにつながり、多くの娯楽や情報を得ています。これだけ多くのユーザーが私たちのプラットフォームで創作、経営活動を展開し、自己実現をしています。
こういうことを考えると、私はTikTokに未来しか感じません。バイトダンスは多くの信頼を得ていると確信している。
これまでと同じように、困難に直面したときこそ、私たちのチームは団結します。従業員の皆さんも楽観的かつ弾力的に対応できるでしょう。従業員の皆さんの努力や、このような優秀なチームと一緒になって難しい問題に挑戦できていることも、私にとって力の源になっている。
最後に改めて。バイトダンスは信頼に値するグローバル企業としてやってきました。何も変わっていません。巨大な変化の時代にも一層努力をします。この苦境も、意味のある旅の一部です。
一鳴
(文・浦上早苗)