「初めてお父さんと夜ご飯うれしい」に官僚が涙、家族犠牲の働き方いつまで

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新型コロナウイルスの影響もあり、特に厚生労働省で残業が多い。

撮影:今村拓馬

「部下も鬱になったし私ももう来たくない。なぜ厚労省で死者がでないのか不思議なくらいです」

「(テレワーク時に)『初めてお父さんと一緒に夜ご飯が食べられてうれしい』と言われて泣いてしまった」

新型コロナの対応に追われている霞が関の官僚ら480人に行ったアンケートでは、悲痛な言葉が並ぶ。

民間企業や官公庁で働き方改革に関するコンサル事業を行う「ワーク・ライフバランス」では、6月19日~7月13日、全国の官僚に対しインターネットで、「コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査」を実施。厚生労働省や文部科学省など霞が関の官僚480人から回答を得た。

調査を行ったワーク・ライフバランス代表の小室淑恵氏は8月4日、環境省を訪れ小泉進次郎環境相と意見交換し、働き方改革の必要性を訴えた。

「残業300時間以上」の官僚も

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省庁別では厚労省、文部科学省、経産省の残業時間が長い。

出典:ワーク・ライフバランス「働き方に関する実態調査」

調査では新型コロナの感染が拡大した3~5月、「最も忙しかった月の実際の残業時間」について質問。

最も多かったのは「46時間~99時間」で33%、続く「45時間以下」が31 %だった。

一方で「過労死レベル」とされる100時間を超える残業をした官僚は、全体の約4割にも上る。

「100時間以上」の残業を行ったのは37 %(176人)に上り、「300時間以上」と回答した官僚も5人いた。

省庁別では厚生労働省で目立ち、「200時間以上」残業をした25人中、厚労省は半数以上の13人だった。

調査では「労働時間のばらつきが大きく、一部の人材に頼る働き方になっている。業務が属人化し、緊急時の対応力が弱くなっている」と指摘している。

「国会議員のためだけに出勤」

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国会議員への対応に時間を取られている官僚も多い。

出典:ワーク・ライフバランス「働き方に関する実態調査」

コロナ対応に追われる霞が関で、国会議員への対応に不満を募らせている官僚が多いことも明らかになった。

「国会議員とのやり取りで、官僚の働き方の質を高めるための配慮を感じる変化が起きたか」という質問には、9割が「そう思わない」と回答。

「国会議員とのレクが電話やオンラインに移行したかどうか」という質問では、8割が「そう思わない」と回答した。

自由記述欄には以下のような声があった。

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小泉環境相(右)と意見交換する小室氏。

撮影:横山耕太郎

「(国会議員が)不要不急のレクを設定してきたり、地元支援者への特例措置を求めたりしてくる」(法務省30代)

「緊急事態宣言が出ていても、党の会議に平然と呼びつける感覚は信じがたい」(文部科学省40代)

「政策を考える時間を最も阻害したのが議員対応。同じ内容を同じ党の議員からバラバラと問い合わせられた」(厚労省40代)

「基本テレワークだったが、国会議員のレクのためにだけ出勤せざるを得なかった」(内閣府40代)

「電話レクの後でわざわざ資料を持って説明に来させる議員もいた」(文科省20代)

「レクに行ったらマスクを外させられた」(厚労省40代、防衛省30代など)

「これまで対面しかなかった議員から、オンラインレク、電話レクの依頼になったことも数件あった。しかし全く定着せず、5月頃からは完全に普段通りに戻った」(厚労省30代)

オンライン化、環境省では成果

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出典:ワーク・ライフバランス「働き方に関する実態調査」

一方で、「大臣とのレクにおけるオンライン化とペーパーレス化」については、省庁で大きな差が出た。

環境省と経産省では、「オンライン化とペーパーレス化に移行した」と感じている官僚が、他の省庁よりも圧倒的に多かった。

またテレワークの活用についても、環境省が最も高く、総務省、外務省が続いた。

こうした結果を受け、小泉環境相は「1位を取ることよりも、1位で居続けることが大事。霞が関の働き方をリードしていきたい」と話した。

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「環境省が働き方改革をリードしていきたい」と話す小泉環境相。

撮影:横山耕太郎

一方で、リモートワークに関する自由記述では、課題も多く指摘された。

「在宅勤務といいつつ、PCに保存したデータを閲覧する方法が皆無のため、まったく業務が進まなかった」(厚労省30代)

「省内決裁は相変わらず、紙、対面、押印。幹部がテレビシステムを使う気がない」(厚労省30代)

「テレワーク時の通信環境が劣悪。ひどい時には1通のメールを送るのに30分近くかかる」(総務省20代)

「家族の犠牲の上に成り立つ霞が関の働き方」

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出典:ワーク・ライフバランス「働き方に関する実態調査」

テレワークができた官僚では、7割が「家族とのコミュニケーションが増えた」と回答している。

自由記述ではこんな声もあった。

「息子に『初めてお父さんと一緒に夜ご飯が食べられてうれしい』と言われ、今まで人並みの親らしい事をしてあげられなくて、申し訳ない気分になり泣いてしまった。

職員の家族の犠牲の上に成り立つ霞が関の働き方を再認識した」(厚生労働省30代)

アンケート結果を受け、前出の小室氏は以下のように話した。

「コロナをきっかけに民間企業では、リモートワーク導入など、働き方改革の山を越えた。でも霞が関だけは取り残されている。

アンケートでは、霞が関が人材を大切にしている職場とは言えず、このままだと人材流出にもつながってしまう。 優秀な人材が国の運営を担わなくなれば、利益を損なうのは国民。働き方改革に取り組むことで、人材を引き付けないといけない」

遅々として進まない霞が関の働き方改革。コロナショックで、これまで以上に長時間の残業を強いられている官僚も少なくない。

アンケートに現れている叫びに、一刻も早く向き合う必要がある。

(文・横山耕太郎)

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