梅雨が明けて、台風の季節になった。
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本格的に到来した夏。
気温が高くなってくると、思わず冷やし中華やかき氷、アイスなどの冷たいものを食べたくなる。
では具体的に、どれくらい気温が高くなると実際に売上が増えるのか。それを正確に知ることは意外と難しい。
冷やし中華やかき氷など、感覚的に納得しやすい例に限らず、気象データを元に商品の売上を予想し、収益の最大化、廃棄ロスの最小化、気候変動リスクへの適応を目指す取り組みが進んでいる。
いわゆる「ウェザーテック(WxTech)」の一例だ。
台風などの荒天時の「突発需要」を1週間先まで予測
2019年10月に台風が関東を直撃した際のスーパーの様子。
撮影:西山里緒
8月3日、気象アプリ「ウェザーニュース」などで知られるウェザーニューズ社は、夏の台風シーズンに備えて、小売・製造事業者向けに荒天時の商品の急激な需要変化を予測する在庫最適化エンジン「PASCAL」の開発を発表。
8月21日から、都内のスーパーマーケット「いなげや」の実験店舗に導入するとした。
実際のサービスでは、企業が持つ売上データや来客数データをウェザーニューズが持つ過去の気象データとすり合わせて相関関係を確認。これを、ウェザーニューズによる気象予報のデータと組み合わせることで、1週間先までの商品需要や来客数の増減を5段階で判定し、需要に見合った商品供給を目指すとしている。
荒天時の消費者行動も踏まえたアルゴリズムで需要を判定
PASCALを搭載した商品発注支援サービスの画面イメージ。
提供:ウェザーニューズ
気象データと売上の相関を調べて企業へとフィードバックするサービスは、ウェザーニューズはもちろん、いくつかの企業がこれまでにも提供している。
ただし、台風や大雪など、急激に天候が変化する際に起きる突発的な需要増を正確に予測することは、これまでのアルゴリズムでは難しかったという。
例えば、「気温の高さ」と「飲料水の売上」には、ある程度相関があることは実感としても分かりやすい。
ただしそれだけではなく、台風が予測されていれば、多少天気が悪く気温が下がっても、備蓄用に飲料水の売上が増すことが想定される。
今回、ウェザーニューズが開発した「PASCAL」では、従来の気象データを用いた商品の需要予測に加えて、台風や大雪などの荒天時に変動する消費者行動も踏まえたアルゴリズムの開発に成功したという。
ウェザーニューズの広報担当者は、
「2019年は、お盆休みに広島県に上陸した台風10号、9月8~9日首都圏で記録的な暴風となった台風15号、10月12~13日、大規模な河川氾濫をもたらした台風19号と、台風が立て続けに日本に上陸しました。台風接近時には商品需要が高まり、食料品や防災関連品が品切れになる小売店舗が相次ぎました。
このような流れの中で、一般的な商品需要予測サービスでは捉えられない荒天時の需要を捉えることへのニーズが高まり、今回PASCALの開発に至りました」
と、開発背景を語る。
また、小売業は災害時には食品や日用品を供給する社会的インフラにもなっていることから、今回のサービス開発は、業界に対する支援の強化という意味合いも強いという。
自社の観測インフラに蓄積された気象データを利用
撮影:三ツ村崇志
こういった需要予測の鍵となるのは、天気の予報精度などを定める気象データの「質」だ。
ウェザーニューズでは、気象予報を行う際に気象庁がもつ無人観測施設「アメダス」によって蓄積された気象データを利用するのではなく、自社独自の観測インフラで蓄積してきた気象データを利用している。
ウェザーニューズの2020年5月までの降雨の予報精度は約96%。気象庁の降雨予報精度は年平均値が83%であることからも、その精度の高さが伺える。
天候の変化は、私たちの日々の生活を左右する非常に基本的な要素だ。
「暑くなると、冷やし中華やアイスが売れる」
古くから感覚的にとらえられていたこういった出来事だけではなく、ビジネスにおけるあらゆるデータを気象データと掛け合わせることで、今後何が分かってくるのか。
ここ数年、極端な天候の変化を体験する機会が増えている以上、もしかしたら、WxTechの活用が今後のビジネスの重要な鍵となるのかもしれない。
(文・三ツ村崇志)