Ascannio / Shutterstock.com
- マイクロソフトは、アメリカを含む複数の国で事業を展開する「TikTok」を買収する手段を模索していると明かした。
- トランプ米大統領は、国家の安全保障を含む懸念を理由に、同アプリの利用を禁止すると脅しをかけてきている。こうした懸念は、マイクロソフトによる買収に影響を与える可能性がある。
- ホワイトハウスのピーター・ナバロ通商担当大統領補佐官は8月3日、マイクロソフトと中国との関係を疑問視し、同社は中国事業の株式を売却すべきだと助言した。
- 中国のテクノロジー関連新規事業の専門家、ダンカン・クラークは、マイクロソフトは中国に同社最大の研究開発センターを展開しており、マイクロソフトと中国の関係は深いと指摘している。
マイクロソフトは、アメリカを含む複数の国で短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」事業を同事業の親会社「ByteDance(バイトダンス)」から買収する方法を模索しており、同社と中国との関係が非常に注目されるとみられる。
マイクロソフトは8月2日にTikTokへの関心を表明し、サティア・ナデラCEOが、国家の安全保障を含む懸念を理由にアメリカ国内でのアプリ利用を禁止すると脅しをかけてきているトランプ大統領と、この買収計画について話し合ったことを明らかにした。
ホワイトハウスのピーター・ナバロ通商担当大統領補佐官は8月3日、マイクロソフトの中国との関係を疑問視し、同社はすでに保有しているその他の中国事業の株式を売却すべきだと助言した。
ナバロ補佐官は、中国政府および軍がマイクロソフトの顧客であることを挙げ、反対する意向を示したが、同社に対し中国での事業から完全に撤退するよう求めたかどうかは明らかになっていない。
明らかなのは、マイクロソフトと中国とのつながりは深く、トランプ政権が中国との緊張を強めているなか、同社がTikTok買収の交渉を試みることで中国との取引が大きな論争に発展する可能性があるということだ。マイクロソフトはこの件に対しコメントは避けている。
中国はマイクロソフトにとって第2の研究開発拠点
マイクロソフトのサティア・ナデラCEOと中国の習近平国家主席。
Chesnot/Getty Images; Reuters
中国のテクノロジー関連新規事業の専門家ダンカン・クラークがBusiness Insiderに語ったところによると、マイクロソフトは中国で長年事業を展開してきており、中国と密接な関係を築いてきた。
1992年、当時CEOだったビル・ゲイツは中国の北京に最初のオフィスを設立した。マイクロソフト・チャイナは現在6000人を超える従業員を雇用しており、マイクロソフトにとって中国は、アメリカ国外では最大の研究開発拠点となっている。
そのマイクロソフトと中国の関係が、最近緊張し始めている。マイクロソフトのブラッド・スミス社長は2019年、アメリカと中国はいわゆる「テクノロジー冷戦」寸前の状態であると述べており、今年初頭にマイクロソフトは、世界人口の18%を占める中国から世界の売上高のわずか1.8%しか上げていないと明かしていた。
しかしマイクロソフトは、中国で事業を展開する大規模な外資系テック企業の中ではおそらく「最も世間から批判を浴びていない」企業でもある、とクラークは述べている。
例えば、グーグルは中国で現地の規制に従って検索エンジンを検閲することに抵抗を示し、何年も前に中国から撤退している。
しかしその数年後、検閲機能付き検索エンジン「Project Dragonfly(プロジェクト・ドラゴンフライ)」の開発に関与していたことが明るみに出て、グーグルはまた中国での事業展開を再開するのではないかと見られたことで、世間から痛烈な批判を浴びた。グーグルは2019年にプロジェクト・ドラゴンフライにはもう関与していないと主張している。
それとは対照的に、マイクロソフトはここ数年、中国で検閲機能付きのBingをほぼ妨害されることなく運用してきた。また、マイクロソフトは中国の現地事業者と提携してクラウドプラットフォーム「Azure(アジュール)」を中国国内で提供している。
「人々が思っているより中国とテック企業の結びつきは強い」
中国の習近平国家主席が2015年に初訪米した際、まずシアトルに立ち寄り、マイクロソフト本社を訪問しサティア・ナデラCEOと面会したほか、テクノロジー業界の数々のCEOたちと面会した。ちなみに、胡錦濤前国家主席は2006年にビル・ゲイツの自宅で会食している。
クラークによると、マイクロソフトは長い間、中国の技術者にとっての「研修の場」となっており、中国の一流大学の技術・工学系の卒業生は(マイクロソフト本社のある)レドモンドで働くことを希望することが多いという。
マイクロソフトは、シアトルのワシントン大学と中国の清華大学との提携で設立された「グローバル・イノベーション・エクスチェンジ(国際技術革新交流)」と呼ばれる、シアトルの同社本社近くの技術産業大学院(“中国のMIT”とも呼ばれる)にも資金提供している。マイクロソフトのスミス社長は、個人レベルで中国との友好関係の仲介役として尽力してきた。
マイクロソフトのOB・OGの中には、中国の一流企業を経営している人も多い。ByteDanceの創業者、張一鳴(チャン・イーミン)もマイクロソフトに短期間在籍していたことがあり、また、林斌(ビン・リン)は10年近くマイクロソフトに勤めた後、中国のエレクトロニクス大手Xiaomi(シャオミ)の社長兼共同創業者になっている。
さらに、2018年まで中国のテック企業大手百度(バイドゥ)のCOOを務めていた陸奇(チー・ルー)は、かつてマイクロソフトのサティア・ナデラCEOの上司だった人物であり、同社のCEO候補に挙がったこともある。
「人々が思っているより中国との結びつきは強いのです」とクラークは言う。「こんな話は枚挙にいとまがありません」
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)