少年院出た子どもたち、2割以上が塀の中に逆戻り…社会に留まらせた意外なものとは

少年院

久里浜少年院の院生たち。少年院に入った人のうち2割が、少年院・刑務所へ逆戻りしてしまう。

提供:NPO法人なんとかなる

オレオレ詐欺や集団暴走、薬物使用……未成年でさまざまな罪を犯し、少年院に入る少年の数は現在、国内に約2100人。このうち22%が5年以内に再び罪を犯し、少年院や刑務所に逆戻りしている。再犯してしまう人と、しないで済む人の違いは何なのか?

NPOや社会的企業などが加盟する新公益連盟はこの疑問を解明しようと、再犯せず社会に留まっている元院生10人にインタビューを実施した。

元院生の話から浮かび上がった、彼らを外の世界につなぎとめる「錨」とは。

不良グループはブラック企業。虐待やホームレスも

インタビューは2019年12月〜2020年5月に行われ、このほど報告書としてまとまった。

筆者がインタビュアーを務め、話を聞いた元院生は20歳〜41歳までの10人。このうち9人が男性、1人が女性だ。未成年のうちに少年院に複数回入った人はいるが、全員が成人後は再犯せず、社会生活を続けている。

彼らが罪を犯した経緯はさまざまだが、目立ったのが不良仲間とつるむようになり、次第に薬物売買やオレオレ詐欺などに手を染める「ヤンチャ系」だ。薬物の売人(プッシャー)などをして18歳で逮捕されたマサヤさん(仮名・28)は不良グループを、上下関係の厳しい「ブラック企業」状態だったと振り返った。

「先輩に早朝、携帯電話で呼び出され、運転手をやらされるなど、自分の時間は一切なかった。捕まった時は変な話だが、これでグループから距離を置けると嬉しかった」

男子、商店街

不良グループ出身者や家庭環境に恵まれなかった人など……生きていくのに必死だった彼らにとって、社会は厳しかった(写真はイメージです)。

Matteo Colombo / Getty Images

彼は、留置場で久しぶりに熟睡したとも話した。

親から虐待を受けるなどして、家が安心できる場所ではなかった人も。母子家庭で母親が働きづめだったという人や、児童養護施設の出身者もいた。

ナオトさん(仮名・24)は、3歳で両親が離婚。父親の再婚相手である義母の虐待を受け、児童養護施設や自宅を行ったり来たりした。高校中退後、行き場を失い、眠るためにパチンコ店やゲームセンター、ネットカフェを転々とした。「夏場、銭湯代がかさんで困った」と言う。

彼はネットカフェや銭湯の費用を稼ぐため、同じ書店で約20回、一度に70〜80冊もの万引きを繰り返した。古本屋で売って金に換える。店員が見張っているのに気付いたが、店を変えなければとも思わず「逮捕されてもされなくても、どうでもよかった」という。彼にとって「外」は、執着すら持てないほど厳しい世界だったのだ。

少年院で出会った意外な「友」読書体験が宝に

読書

入院中に習慣となった「読書」は、彼らが社会に留まるのを助けてくれたという。

beeboys / Shuttertstock.com

興味深かったのは、少年院に入って良かったことは、という質問に対し、半数以上が「読書習慣が身に付いた」と答えたことだ。中には漢字がほとんど分からず、最初は辞書を引きながら読んだという人もいた。

暴走族に入っていた新井博文さん(33)は、18歳で警察官を殴って公務執行妨害罪などに問われ、加古川学園(兵庫県加古川市)に1年4カ月入った。期間中、乙武洋匡の『五体不満足』や大平光代の『だから、あなたも生き抜いて』などを読み、「世の中にはいろんな人がいると思えた」という。

彼は出院して数年後、「自分はこのままでいいのか」と悩んだ時も書店に行った。本を通じて知った国際NGO「ピースボート」の世界一周の船旅に参加。スタッフに誘われてピースボートに就職したことが、人生を大きく変えた。

新井さん(中央)はピースボートで地球を4周し、退職後1年間カナダでワーキングホリデーも経験した。旅の仲間が、再犯しない歯止めの一つだったと語る

本人提供

他にも経済関連の本を読み、出院後に投資を始めた人や、藤田田や堀江貴文などの著作を読んで起業を考えるようになった人もいた。娯楽の少ない入院生活が、かえって彼らを本に「ハマらせる」結果となった。

資格取得に向けた勉強が、自己肯定感を高めたという声も多かった。

前出のマサヤさんは「酷暑の中、汗まみれで勉強したことが自信につながった」と振り返る。窃盗や集団暴走などの罪で3カ所の少年院に入った経験を持つ望月優矢さん(25)も、「自分はバカだと思っていたが、資格をたくさん取ったことで、やればできると自信がついた」と話した。

ただ、少年院で取れる資格の多くは、建設機械の免許や給排水設備工事など「現場系」で、これらを生かした仕事に就いている人は、10人の中にはいなかった。元院生のヨシヒコさん(仮名・30代)は「やみくもに資格を取らせるのではなく、目指す将来の方向性を定めて、それに沿った資格を取得させるような指導が必要では」と首を傾げる。

「つながり」「やりたいこと」「衣食住」がカギに

育て上げネット

新公益連盟に加盟するNPOの中には、院内での教育支援や、少年院から出てきた子どもたちのサポートに取り組む団体も。

育て上げネットHPより

出院後、再入院・再入所しないための歯止めになるものの一つが「新しい人間関係」だ。取材した10人のうち4人は複数回の入院経験があったが、このうち2人は昔の不良仲間に戻って再犯していた。

望月さんは自分が再犯した理由を「孤独からだった」と考えている。最初の2回は出院後、地元を離れて就職したが、親しい友人もあまりできず結局地元に帰り「悪い仲間に取り込まれた」。

3回目の出院時は、触法少年の自立更生を支援するNPO法人「クラージュ」(東京)に身を寄せた。NPOと提携する会社に勤めて同年代の若者たちと寮生活を送り、海外旅行も楽しんだ。「楽しすぎて、忙しすぎて、再犯しようとも思わない」と笑う。

また新井さんは「1本の太い糸で社会とつながるより、100本の細い糸を作ることが、再犯するかしないかの分岐点ではないか」と指摘した。

「僕の場合は職場や家族、旅好きな仲間とのコミュニティだった。例えばサッカーが好きなら愛好会などに参加するのもいい。存在を認めてもらえて、『愛』を感じられる居場所をなるべくたくさん、諦めずに探し続けることが大事ではないか」(新井さん)

出院者支援のNPOを立ち上げたい、起業したいなど「やりたいことがあったから、再犯せずにいられた」との声も複数あった。

前出のヨシヒコさんは、少年院で法務教官と将来のキャリアを考え、医療・福祉系の仕事をしようと決めた。出院後、1年間土木作業員をして学費をため、専門学校に入学してからも夜、居酒屋で働いた。「始発で帰宅し、仮眠してから学校に通った」という。

昔の仲間がファッションにお金を使うのを、うらやましく思ったこともあるが、「もし再犯したら、必死で頑張ってきたことが全部無駄になるという思いで踏みとどまった」。現在は複数の介護施設を経営している。

寝る場所

最低限の生活ができる環境を整えることは、再犯しないためにも重要だ(写真はイメージです)。

Chanayut Sansri・EyeEm / Getty Images

ただ、目標に向かって進んだり、自分の居場所探しをしたりできるのも、食べるものと寝る場所が最低限確保されてこそだ。出院後家族の元に帰り、当面の衣食住が保証された場合の再犯は比較的少ない一方、家族の身元引き受けがなかった3人のうち、クラージュに身を寄せた望月さんを除く2人は再入院している。

「野良」を経験したナオトさんは最初の出院後、住み込みで建設会社に就職したが、けがを機に退職。結局またホームレス状態となり、大量の万引きを繰り返して少年院に戻った。

2度目は支援者につながり、住まいも確保した。「これまで盗んでいたのは、そうしないと飯を食えないし眠る場所もなかったから。帰る場所があるのが、罪を犯さずに済んでいる最大の理由かもしれない」と話す。

増加する集団行動苦手な入院者にどう対応

今回取材した出院者10人は、おしなべてコミュニケーション能力が高く、敬語で丁寧に自分の経験を語った。院内でも読書して知識を吸収し、資格取得に向かう意思と行動力があった。入院前、不良グループの先輩に可愛がられ、オレオレ詐欺のリーダー格や暴走族の幹部など、「上」の立場にいた人も多い。

だが法務省矯正局の小山定明総務課長は7月27日、報告書の完成を機に開かれたイベントで、「近年は暴走族やヤンチャ系が減り、集団行動が苦手でコミュニケーションに課題を抱えた入院者が増えている」と語った。粗暴犯の件数も減少傾向にあるという。

10人が更生できたのは、出院者の中でも能力が抜きんでた「エリート」だからなのだろうか。だとすれば、社会に留まるハードルは非常に高いことになってしまう。

小山氏はこうも話した。

「家庭で十分な力を付けられない子どもには、学習支援などのさまざまなサポートが用意され、支援の網の目は細かくなっている。しかしそれでも成長のチャンスを得られず、小さな網の目からこぼれ落ちた子どもたちが少年院に来ている」

こぼれ落ちた子どもたちは少年院で過ごした後、どこへ行ってしまうのか。今後、新たな疑問の解明が必要だと感じている。

(文・有馬知子

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