ソニー“コロナ決算”の救世主は「ゲーム事業」…営業益1%減、粛々と進める「変化への対応」とは

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撮影:小林優多郎

8月4日、ソニーは2020年度第1四半期の連結業績と、2020年度通期の業績見通しを発表した。

2020年度第1四半期の売上高は1兆9689億円(前年同期比432億円増)、営業利益が2284億円(前年同期比 25億円減)。新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けた時期としては、意外とダメージが少ないように見えるが、もちろんこれには理由がある。ゲーム事業と金融事業の好調でカバーしたのだ。

ソニー2020年第1四半期決算

ソニー・2020年度第1四半期業績。売上高・営業利益とも、コロナ禍の中で前年並を維持しているが、これはゲーム事業と金融事業があってのものだ。

出典:ソニー決算資料より

2020年度の業績見通しは前年から「営業利益2255億円減」

とはいえ、発表が延期されていた2020年度の連結業績見通しは、明るいものではない。売上高は8兆3000億円と前年並みに落ち着くものの、営業利益は6200億円と、前年同期比で2255億円(約27%)の減益となる。

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2020年度の通期の連結業績見通し。売上高は前年並を維持するが、営業利益は大幅に落ち込み、各事業分野でのマイナスも大きい。

出典:ソニー決算資料より

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セグメント別の前年度比(一番右)を見ると、どの事業の状況が苦しくなると見ているか、一目瞭然にわかる。

出典:ソニー決算資料より

オンラインで行われた発表会にて、同社副社長 兼 CFOの十時裕樹氏は、「変化できるものが生き残る。今年度はコロナの影響からのリカバリーを含めた戦略構築が重要な年」と語る。ソニーが見るチャンスとリスクはどこにあったのだろうか?

絶好調の「ゲーム事業」がソニー全体のマイナスをカバーした

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SIEが1月に公開したその時点のPS4をめぐる数字。月間アクティブユーザー(MAU)で1億ユーザーを超える優良プラットフォームであることが、ゲーム事業の巣ごもり期間の売り上げを大きく後押しした。

出典:ソニー

2020年度第1四半期、ソニーになにがあったのか? セグメント別業績を見れば一目瞭然だ。ゲーム事業の利益が圧倒的に大きい。

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第1四半期の事業セグメント別業績。ほとんどの分野で収益がマイナスに落ち込むなか、ゲームが大きく伸びてカバーした。

出典:ソニー決算資料より

映画・音楽などのコンテンツ領域や、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(いわゆるデジタル機器、以下EP&S)、さらには、昨年までソニーの稼ぎ頭の1つとされていたイメージセンサー関連(イメージング&センシング・ソリューション)事業まで、ほとんどが大きく売り上げを落としている。

その中でゲーム事業は、前年同期比で32%の大幅増収となる6061億円を売り上げ、営業利益も1240億円(前年同期比502億円増)と好調だ。これは、売上高こそ2019年の第3四半期(6321億円)より少ないものの、営業利益ではほぼ倍(535億円)という、極めて大きな水準だ。

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ゲーム分野。他事業が厳しい中にあって、前年同期比で32%もの大幅増収。PS5の立ち上げを後半に控えているが、通期での収益は落ち込まない、と予想されている。

出典:ソニー決算資料より

好調の理由は、新型コロナウイルスの影響による、いわゆる「巣ごもり需要」。だが、同時期に自社制作タイトル「The Last of US Part II」が全世界累計で400万本を突破するヒットとなった影響が大きい。ソニーが公開した決算補足資料によれば、第1四半期のみでPS4のゲームは9100万本が売れ、そのうち自社タイトルは1850万本となっており、利益貢献につながった。

しかも、ダウンロード販売比率は74%にも達している。さらに、ゲームの追加コンテンツへの課金は、ゲームソフト全体の売上(4324億7900万円)の57%にもあたる2469億700万円。ネットワークからの収益の急上昇は、利益率をさらに押し上げる。

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ソニーが「補足資料」として公開した書類より抜粋。ゲームのダウンロード販売比率は74%にまで高まり、ゲーム事業の収益性向上に寄与している。

出典:ソニー決算資料より

2020年末には次世代機「PlayStation 5」の発売を控えており、PS4は2019年から市場が緩かやな減速傾向にある……との見方が強かったが、「巣ごもり」と「ヒットタイトル」の相乗効果により、ソニーにとっては特にプラスな状況になった、と言えそうだ。

なお、PS5の立ち上げは「ハード、ソフトともに順調」(十時副社長)。マーケティング費用などに相応に大きな投資が行われるが、上半期のPS4のヒットによって、立ち上げリスクが大幅に軽減された、とみて良さそうだ。

映画には「2、3年影響が続く」、最初に打撃を受けた家電は回復基調へ

ソニー副社長 兼 CFOの十時裕樹氏

オンラインで行われた説明会でプレゼンテーションを行った、ソニー副社長 兼 CFOの十時裕樹氏。

出典:ソニー決算会見より

一方で厳しいのが音楽や映画だ。こちらは、新型コロナウィルスが制作に対する影響を与えている点が深刻だ。

「ドラマは映像配信事業者からの旺盛な需要があるのだが、撮影ができない。コロナの影響を抜ければ、ドラマについては回復が速いのではないか」(十時副社長)というものの、映画産業はまだ厳しい。

「制作や公開が再開しても、今度は公開のスケジュールが逼迫する。映画の場合、公開後に複数の収益がある関係で、影響は2、3年続くのではないか」(十時副社長)と読む。

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映画分野。制作や公開の遅延が悪い影響となって現れている。音楽も同様だが、特に映画については長期化の可能性が高い。

出典:ソニー決算資料より

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映画同様にダメージはあるものの、売上高の減収幅は映画のそれよりは小さい。

出典:ソニー決算資料より

第1四半期、同様に厳しかったのが「デジタル機器事業(EP&S)」だ。サプライチェーンや販売などに「最初にコロナの影響が出た」(十時副社長)のがこの領域だ。

ソニーの場合、この領域にはテレビやオーディオ機器、カメラにスマートフォンなど、「ソニーブランドの家電」がすべて含まれ、その全領域で新型コロナウィルス禍の直撃を受けた格好になる。売上高は前年同期比で31%の大幅な減少となる3318億円、営業利益は91億円の赤字となった。

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テレビやスマホ、デジカメなどの「ソニーブランド家電」領域は、コロナの影響を最初に受けた部門。そのため第1四半期の業績も厳しいが、今年後半に向けて回復が見込まれている。

出典:ソニー決算資料より

とはいうものの、十時副社長は「EP&Sは回復しつつある」とも話す。

「サプライチェーンはほぼ回復しており、需要も回復期。テレビは『巣ごもり』の影響か売れ行きが好調。デジカメも最初は非常に厳しい状況でしたが、直近ではかなり業績を戻しています。

現状、欧米や日本は需要が戻りつつある一方で、アジアや中南米など回復がまだ厳しい。状況に合わせた強い体質を作らねばならないのですが、リーマンショックの時とはかなり様相が違うのではないか、と考えています」(十時副社長)

危機感にじませる「ハイエンドスマホ急減速」と対策

一方で、強い危機感が感じられたのが、ゲームと並ぶソニーの稼ぎ頭である「イメージセンサー関連事業」だ。

イメージセンサー関連事業は、売上高は第1四半期で11%の減収だが、減益幅が大きい。前年同期で49%(241億円)もの大幅減益だ。2020年通期の予想でも、売上高は7%(706億円)の減収、利益は約45%(1056億円)の減益となる、1300億円にとどまる見通しだ。

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イメージセンサー関連事業。前年同期比に比べ減収減益。2020年通期では大幅な減収を見込む。

出典:ソニー決算資料より

なぜ急激な減益が起きるのか? 十時副社長は「コロナ後の、ハイエンドスマートフォンの売れ行き鈍化が目立つ」と説明する。

ソニーのセンサーはハイエンドスマートフォン向けに圧倒的なシェアを持つ。そこに複数のセンサーを搭載する「複眼化」やセンサーの「大判化」といった波があり、さらには距離センサーなどの「モバイル向けセンサー」の市場が立ち上がる……と予想されていた。

だが、「全世界的な景況感の悪化がスマホの売り上げに影響を及ぼしており、値段の高いものから中位、下位に移りつつある」(十時副社長)と言うのだ。同時に、モバイル向けセンサーとしての搭載需要も伸びていない。

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左端が2019年通期での、右端が2020年通期(予測)でのイメージセンサー関連部門利益。ハイエンド需要減退による成長減退と、新市場になるはずの「モバイル向けセンサー」市場立ち上がりの遅れが響いている。

出典:ソニー決算資料より

米中の対立悪化の関係で、ファーウエイ端末向けの需要がどうなるのか、という心配もある。

十時副社長は「個別の企業の案件についてコメントはしない」としつつも、「新たな顧客の拡大・分散は必要になる」としており、リスクの存在は否定しなかった。

結果としてソニーは、「今年後半から来年にかけては、出荷をミドルからローエンドの製品に最適化できるよう準備中」(十時副社長)。ただ、前述のような「複眼化」トレンド自体はミドル以下の機種でも起きており、そこを変える必要はない、と読んでいるようだ。

このハイエンド減速は「長期的な変化とは捉えていない」(同)とも語った。

過去、ソニーは何度か「スマホや携帯電話用イメージセンサーの減産に伴う特別損失」を出している。それはブレーキを踏んでハンドルを切り直すタイミングが遅かったからに他ならない。

冒頭に述べた「変わるものが生き残る」という言葉は、センサー事業での素早い対応に代表されるものであり、過去と同じ過ちは繰り返しさない……十時副社長はそう言いたいのではないだろうか。

(文・西田宗千佳

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