マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。
AP
- マイクロソフトのTikTok買収は、突拍子もないことに見えるかもしれないが、それはすべてデータに関係している。
- その買収が成功すれば、マイクロソフトは、これまで同社がほとんど目を向けてこなかった市場、つまり、Z世代スマートフォン利用者の市場に手が届くことになる。
- そして、マイクロソフトにとっては、もう一つ魅力的なことがある。TikTokは、ライバルであるGoogle Cloudの大口顧客なのだ。
マイクロソフト(Microsoft)がTikTokの米国事業を中国のByteDanceから買収しようとしていることは、一見すると奇妙で、狂気の沙汰のように思える。しかし、よく考えると、これはすばらしく戦略的な動きになるかもしれない。
なぜなら、この取引はデータ、クラウド、そしてマイクロソフトが次の世代に向けてYouTubeと同じくらい強大なもの(TikTokはアメリカで、少なくとも8000万人のユーザーが登録済みで、アプリのダウンロード数が20億回を超えていることを考えると、おそらくユーザーはもっと多いだろう)を、同アプリを禁止すると脅したりする政府のおかげで非常に安価に手に入れる機会を提供するからだ。
もしも買収が成立した場合、マイクロソフトの長年のライバルであるグーグル(Google)に対して一本取ったことになるだろう。
TikTok買収で、マイクロソフトはZ世代のスマホ利用者という、これまでほとんど目を向けてこなかった市場を得る。ユーザーがTikTokをダウンロードすると多くの情報を収集できる(ただし、プライバシーポリシーではユーザーが一部をオプトアウトできるとしている)。TikTokのプライバシーポリシーによると、その情報にはスマートフォン自体の情報だけでなく、ユーザーの位置情報、他のソーシャルメディアサイトやサードパーティーによって収集されたデータ、プライベートメッセージの内容、ユーザーが訪問した他のウェブサイトなどが含まれる。
マイクロソフトは、人気のあるスマートフォン用OSを持っていないし、その検索エンジン「Bing」は好まれる選択肢ではない。つまり、TikTokはマイクロソフトにとって、次世代の人々がスマートフォンで何をしているかを可視化するための最良の選択肢となり得るということだ。
そしてマイクロソフトはこのデータを利用して、オンライン広告やその他の無数の方法で、グーグルとフェイスブック(Facebook)の独占状態に挑戦することができる。
しかし、マイクロソフトにとって一番の利点は、この取引は、ライバルであるグーグルと同社の所有するGoogle Cloudを犠牲者にする可能性があるということだ。Google CloudはMicrosoft Azureに対する小さな挑戦者だが、グーグルはクラウドの分野で大きな野望を持っている。2019年5月にTikTokはGoogle Cloudと3年間の契約を結び、クラウドサービスに8億ドル(約845億円)以上を支払うとThe Informationが報じた。
マイクロソフトによるTikTok買収がすぐにその契約を無効にしないとしても、マイクロソフトはTikTokをGoogle Cloudから奪い取り、自社のクラウドサービスのAzureに移行させる可能性が高い。このような動きは、グーグルに失われた収益以上の打撃を与えるだろう。他の潜在的な顧客に対して、大きなワークロード処理と長期的なクラウド運用を実行することができることを示す巨大なユーザーを奪うことになるからだ。
しかし、この取引は日和見主義的でもある。TikTokは存在の危機に直面している。インドはすでにこのアプリを禁止しており、アメリカ軍やウェルズ・ファーゴのような一部の民間企業も、中国を起源に持つアプリがセキュリティ上の脅威となることを恐れている(同社は疑惑を繰り返し否定してきた)。さらにトランプ政権も、アメリカでそれを禁止すると脅している。
マイクロソフトは、十分な資金力を持ち、ビジネス的に買収の必要性を持つ数少ない企業の一つだ。そして、マイクロソフトは有利な立場から交渉していることをわかっているだろう。
TikTokもGoogle Cloudも、コメントの要請に対する返答はまだない。
[原文:If Microsoft buys TikTok, it could be bad news for Google Cloud]
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)