リモートワークで頭を悩ませている若手社員も少なくない。
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新型コロナウイルスの影響でリモートワークを導入した職場も多い。
ただ、リモートワークで通勤時間がなくなり、余裕が生まれたかと思いきや、「ムダな業務が増えた」「上司の監視で息苦しい」と、かえって非効率を感じている若手も少なくない
「オンライン化」したあいさつ回り
リモートワークでムダな業務が増えた人も(写真はイメージです)。
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「えっ、ログインするだけじゃん……?」
日系大手メーカー・営業職のカナコさん(28、仮名)は、思わず心の中でそうつぶやいた。
コロナ流行をきっかけにカナコさんの職場でもリモートワークが導入されて数カ月。カナコさんはモヤモヤを感じ続けている。
業務を効率化する絶好のチャンスであるはずが、カナコさんの「ムダ業務」はむしろ、増えているからだ。
カナコさんが直面したのは、四半期に一度、取引先を回る「あいさつ回り」のオンライン化だ。そもそも具体的な商談があるわけでもないのにお互いに世間話をするだけの「ごあいさつ」。
さらに、上層部同士が顔を合わせる「ごあいさつ」では、面会者のプロフィールや話してもらうことを社内で確認する「ごあいさつ事前ミーティング」が通例。その取りまとめはカナコさんの役回りだ。無意味とも思える慣習に、カナコさんは辟易していた。
「得意先を前に恥をかきたくないから、Zoomの使い方を練習するための社内打ち合わせを設けてくれ」
「ごあいさつ事前ミーティング」直前に、50代の上司にそう言われて、カナコさんがとっさに思ったことが、冒頭のひと言だったというわけだ。
まるでサポートデスク担当
カナコさんは、オンライン会議ツールの使い方を上司に教えることになったという(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
仕方なく「ごあいさつ事前ミーティング」の前の「Zoomの使い方勉強会」を自主開催したカナコさんだが、悲劇は続いた。
時間通りに上司がZoomに入ってこない。入っても音が聞こえず、接続不良も起こる。さらには、画面共有の仕方が分からない、ファイル共有サービスへの資料のアップロードの仕方が分からない、最新のデータはどれだ……。
まるでサポートデスクのような扱いに、カナコさんはイライラを隠せなかった。
より深刻な問題も起こっている。
カナコさんの職場では社の規定でSkypeを使うことが定められており、規定外のアプリはインストールすることすら許されない。
それでも取引先の企業がZoomを使う場合は、それに合わせざるを得ない。取引先がZoomを指定してリモート会議をする場合は、情報システム部門に個別に承認を取る必要がある。
社内で行う「Zoomの使い方勉強会」は、取引先の要請ではない。つまりは正当な理由だと認められないため、カナコさんは仕方なく、社内ルールを犯してプライベートアカウントでZoomをダウンロードし、上司に使い方を教えたという。
「この時間は何も売り上げに貢献していないし、本当にムダな時間。こちらもいい迷惑です。単純なツールも使いこなせない上司は全員クビにしたい」
残業「正直には申請していません」
リモートワークで勤務時間が長くなった人も多い(写真はイメージです)。
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都内のコンサル会社に勤めるシンジさん(30代・仮名)は、リモートワークにより労働時間が増えたものの、「正直には残業申請していない」という。
シンジさんの会社では4月下旬から、リモートワークが義務付けられた。
ただセキュリティーの問題で紙の資料は会社から持ち出せず、家のPC画面上で資料を読み取りながらの作業になり、能率は落ちたという。
同じ作業でもこれまで以上に時間がかかり、残業が増えたが、その分は休憩時間の申請を増やすなどして調整しているという。
「能率の悪化は、PC画面からの読み取りに慣れていない自分の原因でもある。上司には言っていませんが、勤務時間は短く申請しています。成果を出せてないのは事実なので、それはしょうがないかなと思っています。他の社員も同じようにしているはずです」
民間企業では、労使協定(36協定)を結び、残業時間の上限を法定の月に「45時間」としている企業も多いが、実際にはそれを超えて働く労働者も少なくない。
36協定には罰則規定もあるため、実際とは異なる勤務時間を申告させ「サービス残業」を強いる企業もあり、問題視されている。
上司からの監視「在宅より出勤したい」
在宅勤務の場合、出社するのは違い、勤務時間をどう管理するかも課題になっている(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
シンジさんもこれまで以上に雑務が増えたと感じている。
「チームではまだ若手なので、いろいろな雑務を頼まれる立場。リモートワークになったことで、誰が何をやっているのかを把握しにくくなりました。
そのせいでいろいろな上司から、別々に雑務を頼まれるようになってしまいました」
その上リモートワークに切り替わり、チャットでのやり取りやオンライン会議が増加。
そのため常に上司から監視されているような息苦しさも感じるようになった。
「チャットでの上司への返信はすぐにしないと怒られます。この前のオンライン会議では、参加が少し遅れた若手に対して、上司が『いま寝てたのか?』とからかうこともあり、緊張を強いられます。
上司とのコミュニケーションを考えると、正直リモートワークはやめて、早く出社したいですね」
残業でも6割以上が「申請せず」
リモートワークでは、7割が「仕事とプライベートの時間の区別がつかなくなる」と回答している。
出典:日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020」
リモートワークに課題を抱えている若手社員は少なくない。
日本労働組合総連合会が行ったアンケート「テレワークに関する調査2020」(全国の1000人が回答)によると、「テレワークで、残業代支払いの対象となる時間外・休日労働を行うことがあったか」という質問には、38%が「あった」と回答。
しかし、そのうち65%が「(会社に)申請しなかった」としており、56%が「時間外・休日労働をしても認められなかった」と答えている。
申請しなかった理由では、「申告しづらい雰囲気だから」が26%で最も多く、「時間管理がされていないから」が25%で続いた。
またアンケートでは長時間労働など、『テレワークで経験したこと』についても質問。以下のような結果になった。
・「仕事とプライベートの区別がつかなくなる」71%
・「勤務時間の間に定められた休憩時間がきちんととれない」53%
・「通常の勤務よりも長時間労働になる」51%
・「深夜時間帯(午後10時から午前5時)に仕事をする」32%
若手社員が抱えているテレワークの課題は、上司とのコミュニケーションが一因になっていることも多い。
テレワークの長期化が予想される今、不満を抱える若手の声に向き合う姿勢が求められている。