悪性腫瘍の形跡が見られるセントロサウルスの腓骨の化石。
Royal Ontario Museum/McMaster University
- カナダの研究者が、恐竜の骨の化石を分析し、悪性の骨肉腫だったと診断した。恐竜をがんと診断したのは初めてのことだ。
- その恐竜は「仲間に囲まれて」死んだと研究者は述べた。この研究結果は、恐竜の社会構造を明らかにする手がかりになるかもしれない。
デイビッド・エバンス(David Evans)とマーク・クロウザー(Mark Crowther)は、がんの恐竜が見つかる可能性は高いと考えていた。
カナダ、ロイヤル・オンタリオ博物館の古生物学者であるエバンスと、マクマスター大学の血液学者であるクロウザーは、現生生物でもっとも恐竜に近い種である鳥ががんになることを知っていた。また、恐竜時代に生息していたの他の生物にも、がんに罹患した形跡があった。カモノハシ恐竜に腫瘍の跡が見つかったこともあるが、それががんによるものだと確定はできなかった。
「恐竜の化石に見られる悪性腫瘍の診断は難しい。適切に診断するには、医学的な専門知識と何段階もの分析が必要だった」とクロウザーはプレスリリースで述べた。
彼らはカナダのロイヤル・ティレル古生物学博物館が所蔵する膨大な数の骨の標本の調査を行った。すると関節炎や骨折の跡、さらには「テニス肘」など、さまざまな症状を示す恐竜の骨が見つかった。そしてその中に1つだけ、探していた特徴を示す骨があった。その骨は、脛の上部にリンゴほどの大きさのこぶがあり、膝から足首にかけて奇妙な腫れが広がっていた。
この発見に基づく論文が8月3日、医学専門誌Lancet Oncologyに掲載され、恐竜における悪性腫瘍の初めての症例となった。この調査結果により、古代と現代の生物の生物学的な関連性の研究が進み、がんなどの病がどのような進化を遂げてきたのか、より深く知ることにつながるかもしれない。
がんという診断に至った理由
セントロサウルスの想像図。
Fred Wierum
エバンスとクロウザーが分析したのは、セントロサウルスの腓骨(膝から足首までを構成する骨)だ。セントロサウルスはトリケラトプスに似た、角のある恐竜で、7500万年から7700万年前に生息していた。
この恐竜ががんにかかっていたのかどうかを確認するために、病理学、放射線医学、整形外科学、古生物病理学などさまざまな分野の研究者で構成されるチームによって、骨のX線検査や顕微鏡を用いた病理検査などが行われた。
また、同じ種類の恐竜の正常な腓骨、19歳の人間の男性の腓骨との比較も行われた。この男性は、恐竜が患っていたと思われるがんと同じがんを発症していた。
2年にわたる調査の結果、その恐竜の骨には、確かにがんを患っていた形跡が見られた。人間の場合は若い人が発症することが多い悪性の骨肉腫だったと思われる。腫瘍は非常に大きく、侵襲性が高かったため、骨折してしまったようだと、エバンスは述べた。その言葉通り、骨の上部は失われていた。
「人間の場合、同様の骨肉腫を治療せずに放置すると、死に至る可能性が高い」と論文に記載されている。
だがこの恐竜の場合、腫瘍が死因ではなかったようだ。この骨は何千もの他の骨とともに、カナダの「ボーンベッド」(骨を大量に含む地層や堆積物)で見つかった。セントロサウルスの群れが洪水で死んだと思われる場所だ。病気の恐竜は、他の恐竜の餌食になりやすく、群れに追いつけずに置き去りにされることもあったと思われてきた。だがこの骨の持ち主は、群れの恐竜に世話をしてもらっていた可能性があるとエバンスは考えている。
「他の恐竜の生活様式についても想像がふくらむ」と彼は述べた。
「この恐竜ががんにかかっていたのは悲しいことだと思うが、少なくともそれが死因にはならず、仲間に囲まれて死んでいったのだ」
[原文:A dinosaur has been diagnosed with cancer for the first time. Here's how the scientists did it.]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)