家族が持病でも出社は強制…「リモートする人は劣っている」という空気も

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東京ではマスクをして通勤する人が目出つ(2020年7月30日撮影)。

REUTERS/Issei Kato

リモートワークから出勤に切り替える企業が増えている。

日本生産性本部が実施したアンケート調査(1100人が回答)によると、テレワークの実施率は、5月の調査では31%だったが、7月には20%に減少している。

しかし、出社を求められた社員からは、「家族が持病持ちで感染のリスクを減らしたいが、出社を強制された」「原則リモート体制で外出を控えているのに、会議に合わせて全員出社日がある」など、会社の対応を疑問視する声も聞かれる。

職場でマスクしない同僚

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「家族が持病を持っている」と説明しても、出社を求められる人も。

撮影:今村拓馬

「夫が持病を抱えているので、可能な限り在宅勤務にしてほしいと頼んだところ『そんなことをいうのはあなただけ。シフト制の在宅勤務体制なので公平性が保てない』と言われ、隔日出社を強要されました」

大阪の一部上場企業に勤める50代の女性・サチコさん(仮名)は、そう話す。

サチコさんの会社には新型コロナウイルス以前は在宅勤務制度はなかった。だが4月の緊急事態宣言後に急きょ制度を導入。

5~6月は在宅勤務が続けられたものの、7月中旬には全社員出社が義務化された。 サチコさんの夫は、持病のために服薬を続けており、感染症への抵抗力が低い。しかし、その事情は聞き入れられなかった。

「同じ部署の社員には、『息苦しいから』とマスクをしない人もいました。満員電車に乗って出社する以上に、職場での感染が心配でした。

時差出勤は実施されていたのですが、昼はみんなが一斉に食堂に集まり、パーテーションもありません」

「週に1度は顔を見せて」

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サチコさんの会社では、当たり前のように役員らも出社を続けているという(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

出社が必要な業務であれば納得もできたが、サチコさんの仕事は在宅勤務でもほぼ問題がなかったという。

「在宅勤務中も、週に1度は顔を見せに来いと言われ、ここまで感染のリスクが理解されないのかと……。

同じ業務をする社員の中には、率先して出社する人もいるのですが、仕事の内容ではなく、出社アピールをしているように見えます。 社長ら役員が出社していることもあり、社内には『出社せずリモートワークをする人は劣っている』という意識があると感じています」

サチコさんが勤める会社のHPには、感染予防として対策本部の設置や、在宅ワークの実施、マスク着用を徹底すると書かれているが、「対策本部なんて聞いたこともない」と言う。

会社への不信「転職を考えています」

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サチコさんは現在、転職を検討しているという(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

コロナの感染が再び広がっていることを受け、8月からは希望者には在宅勤務が許可されることになった。

しかし、在宅勤務を申請したのは、サチコさんの部署ではサチコさん1人だったという。

「元に戻ろうとする会社の対応を見ていて先行きが不安だと感じました。 前から会社の方針に違和感を持つことはありましたが、コロナ禍でそれが鮮明になりました。

今は、転職を考えています」

オンライン化せず「密」で会議

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マスクをしながら通勤は見慣れた風景になってきている(2020年8月3日撮影)。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

都内の人材派遣企業に勤務するハナさん(仮名、30代)が心配しているのが、会議で密状態になることだ。

会議室に15人が集まり、キャパいっぱいで情報共有のミーティングをしています。ミーティングの内容はオンラインでも十分なものです」

わざわざ出社しているのは、現場で働かざるを得ない派遣スタッフに対して、派遣元の企業として「出社する姿を見せるだけのパフォーマンス」のように感じている。

「社内でクラスターが発生したら元も子もない。無意味に出社させるのは、判断の優先順位が間違っています。トップダウンでテレワークに切り替えてほしいのですが、社員の思いは届きません」

リモート推進なのに「全員出社日」

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リモート中心でも、全員出社日がある会社もある。

撮影:今村拓馬

週の半分以上は在宅勤務をしているというメーカー勤務のツトムさん(仮名、30代)は、月に数回ある「全員出社日」に疑問を感じている。

職場には高齢のおばあちゃんと同居している職場の同僚もいます。僕は一人暮しなので、僕自身の健康上の心配というよりも、通勤時などに感染しても気づかず、周りの社員にうつしてしまうことが心配です。

ツトムさんの会社では、緊急事態宣言後に在宅勤務体制に。6月以降も出勤の必要はなく、会社で業務をしたい場合であっても、出勤日の半分は在宅が義務付けられている

にもかかわらず、月に数回のミーティングの日には、全員の出社が求められるという。

「会社で感染を広げないためにも、土日も外出は極力せず、家で過ごすことが多い。それなのに、わざわざ全員集まるのなんて、全く理解できません」

「社会的な責任を果たしていない」

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リモートワークから出社に切り替える企業も出てきている。

撮影:今村拓馬

出社の強要に憤るのは、その企業の社員だけでなく、家族も同様だ。

都内の大手メーカーに勤める夫を持つ女性は、社会人として、怒りがわくという。

夫の勤務先が在宅勤務へ切り替わったのは4月末、緊急事態宣言が発令されて2週間以上も経っていた。5月25日に宣言が解除されるやいなや、26日には在宅勤務は終了。

女性自身には呼吸器系の持病があるが、それ以上に夫の勤務先が社会的な責任を果たしていないことへの憤りの方が強い。

「そのことに夫が加担してしまっているように感じて心苦しいのです。再び感染拡大している中で、在宅勤務を認めない会社の対応は、社員の健康や安全に対しての配慮が足りない。それだけでなく、会社への信頼感を失わせ、優秀な社員の採用でも不利になると思っています」

全国的に感染拡大が続いている日本。本当に出社が必要なのか、そして出社を求める場合でも、社員が納得できる説明はできているか。企業の姿勢が問われている。

文・横山耕太郎

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