macOS11 Big Surパブリックプレビュー版をインストールしたMacBook Pro13インチ(2020モデル)。
撮影:伊藤有
最新のmacOS、macOS11 Big Surのパブリックベータ版の配布が始まった。
この記事では、特別な許可を得て開発中の画面を掲載しながら使用感などをお届けしていきたい。
現行のmacOSは、OSXの発表以来、例年アップデート続けながら、バージョン10.xxの小数点以下の更新をずっと続けてきた。今秋に正式版が登場予定のBigSurでは、そのバージョン表記が初めてバージョン11に変わる。これは、アップルにとっても非常に大きなアップデートだ、という意味だ。
出典:アップル
ただ、Big Surの「大刷新」のほとんどは、同じく年末に登場する、iPadなどと同じarmベースのプロセッサーを使った「アップルシリコン版Mac」への対応の意味あいが強い。
その点では、既存のMacに組み込んだパブリックベータ版の第一印象は、「この調子で完成すれば、既存のユーザーには、例年通りの“新機能・刷新”を楽しむ」というOSになりそうだ。
注意:パブリックベータ版はあくまで開発中のソフトウェアを先行体験するものです。深刻な不具合が発生する可能性があるため、通常利用する環境へのインストールは一切推奨しません。
iPadOSとの垣根を下げる? スッキリシンプルなUI
Big Surのホーム画面。画面右端のウィジェットは、トラックパッドを右端から左にスワイプすると出現する「通知センター」に格納される。。
撮影:伊藤有
実はBig Surのインストールには丸一日トラブル解決に費やすほどの一悶着があった……のだが、それは後半に。無事インストールが完了すれば、パブリックベータとしては比較的安定して動いている印象だ。
使い始めてすぐに気付くのは、見た目のユーザーインターフェイス(UI)のデザインの端々に、新しさがあるということ。ただ、まるっきり新しいというのではなく、どこか「慣れた」感じもある。
どことなく、iPadOSの雰囲気に似ているからだ。
アップル公式のBig Sur解説ページをみると、デザイン、機能双方に細々と手が入っていることがわかる。ユーザー目線でまず見た目の変化で言うと、
- ウィンドウの角丸処理がさらに丸っこくなり柔らかな印象に
- ウィンドウ上部のバーがなくなり、情報の表示領域が広くなった
- 通知センター、コントロールセンターがiOS14風に
- アイコンが従来を踏襲した新デザインに
といった点が、特に目新しさを感じる部分だ。
これは特に、ダークモードではない、通常カラーのUIでより強く感じられる。ダークモードだと黒いウィンドウの印象が強く、あまり「変わった感」がないのだ。
デザインが丸く、iOSからの「機能の輸入」も
ウィンドウ枠の角は従来よりさらに丸まった角丸処理に。また標準ブラウザーのSafariではプライバシーボタン(画面左)が追加。Webサービスのユーザー追跡をブロックし、ブロックした件数を通知するようになった。
作成:伊藤有
iPadOSの雰囲気に似てると感じるのは、iOS14/iPadOS14世代のコントロールセンターや、ウィジェットのデザインを踏襲しているからだろう。
これは正確に言えば、iPadOSがmacOSっぽくなり(Dock機能やタッチパッド対応)、macOSもiPadOSっぽくするという近年のアップルの方針からくるもの。タブレットOSとデスクトップOSのUI面の垣根を取り払う意味があるのだと思う。実際両者の用途は、日常領域ではかなり近づいている。
ファイル操作をするFinderの画面比較。機能は同じでも、ボタン類がシンプルに整理されていることがわかる。
作成:伊藤有
Big Surは普段使いする限りは見た目以外あまり変化がない。が、通知を見たり、ちょっとした設定を触ったりという操作が結構変わっている。
気に入っているのは、コントロールセンターの考え方だ。
表示されているバーやボタン類の操作だけでなく、もう一段奥に別の機能が隠れているという階層構造になっている。
頻繁に使う設定箇所を集めた「コントロールセンター」。ディスプレイをクリックすると、ダークモードの切り替えなど比較的よく使う設定変更にショートカットしてアクセスできる。以前のmacOSにはなかったもので、iOSからの「輸入」ということになる。
作成:伊藤有
階層が深いUIは基本的にはあまり好まないが、Big Surのこれは「色々な場所に散らばっていた設定を、極力移動を減らしてアクセスしやすくする」という効率化の理念がある。実際に快適な使い心地だった。細かな話としては、画面遷移のアニメーション処理も気持ち良さにこだわっている感覚がある。
一方、従来のmacOS Catalinaとは設定へのアクセス導線が変わっているので、使い始めた初日は、どこに何があるのか、覚える手間はあるかもしれない。
なお、性能面では、アップルはSafariのアップデートとして、消費電力の抑制によってバッテリー駆動負荷も減少するなどとしている。
BigSurとiPadOS、アイコンは別バージョン
左からBig Surのアプリ一覧画面、iPadOS 14、現行macOS CatalinaをインストールしたMacBook Pro
撮影:伊藤有
Macを使いながら毎日目にすることになるアイコンは「一見するとどこが変わったのかわからないけど、新しい」という不思議な感覚の刷新だ。そこで、従来のBig Sur、プレビュー版のiPadOS14の2つを並べてみたのがこちら。
同じ世代のアップデートであるBig SurとiPadOS14。デザインが同じかとおもいきや、影の付け方が違ったり、全然別のアイコンだったりと、共通化されたわけではないことがわかる。「連絡先」はそれぞれまったく違うデザインで、過渡期であることを強く感じる。
作成:伊藤有
アイコンが基本的にiOS/iPadOSのような四角い形状がベースになる一方、iOSほどのっぺりとしていない(陰影がある)ところに、新しさを感じる秘訣があるようだ。
上の画面がBig Sur、下がiPad ProにインストールしたiOS14(いずれもパブリックベータ版)。アイコンが四角になったことでiPad やiPhoneと統一感がでてきたが、デザインはまだ共通にはなっていない。
撮影:伊藤有
不思議なのは、同時期の更新になるiPadOS14とも、微妙にアイコンのデザインが違うこと(iPadOS14はアイコンの影など奥行きがない)。
このまま、「似ているけど別物のデザイン」のまま更新し続けるとも思えないので、どこかの段階で統一される予感はある。
アップルシリコン版にも期待
Big Surのウィジェット管理画面。現時点ではアップル標準ばかりだが、サードパーティ作成のウィジェットもApp Storeから入手できるようになるようだ。
撮影:伊藤有
既存のMacで使うBig Surは、冒頭に書いたように例年通りの「年に一度の模様替え」的に楽しめるアップデートになっている。
連休中、原稿を書きながら触っていたところでも、ウィークポイントらしきところは見当たらない。普通に、使いやすい新しいmacOSとしてデビューしていくんじゃないか、という印象だ。
安定性についても、深刻な不安定さは見えない。時々文字入力のフォーカスを失う(入力できなくなる)場合があるが、ウィンドウを切り替えれば直る。
個人的な期待は、年末に登場予定というアップルシリコン版Mac向けのBig Surの挙動がどうなるか。
両者は全く違うプロセッサー(従来のMacはインテルx86系、アップルシリコン版Macはarm系)で動作する。Windowsマシンで言うと、Surface Pro7(インテルCPU)とSurface ProX(arm系のCPU)のような関係にある。
ある意味、Big Surの真価と言うのは、これを実現する「目に見えない内部」にあるとも言える。
アーキテクチャーの違いを、どこまで快適性を保ったまま吸収できるか。アップルシリコン版でも快適にサードパーティーアプリまで動くのかどうか。
期待も感じつつ、正式リリースを待ちたいところだ。
番外編:「何度やってもインストール失敗」そのとき試すツールと方法
Apple Configurator 2で親Mac(右)とBig Surをインストールする子Mac(左)を接続。「復活(Revive)」機能でT2チップを書き換えて解決した。
撮影:伊藤有
最後に、冒頭で書いた「インストールにつまづいた」という話について。
インストールに失敗すると言う症状は、英語版のデベロッパーフォーラムでも同様のトラブルが複数報告されている。
ただ、Big Surパブリックベータ版のレビューを執筆している他のITジャーナリストにも聞いたところ、何も起こっていない人もいる。
ということで、これは「もしインストールに失敗するトラブルが起こったら」というレアケースで試す情報ということで、参考までに。
今回、Big SurをインストールしたMacBook Pro13インチ(2020年モデル)は、工場出荷状態からのインストールだった。
トラブルの発生状況は次のようなものだった。
- テスト機は工場出荷状態に初期化したMacBook Pro13インチ(2020年モデル)
- 手順通りパブリックベータのインストーラーを入手、インストール開始
- 何度試しても、残り時間「10分」という表示が出たところで「macOSのインストール中にエラーが起きました」の表示が出てインストーラーが終了する
Big Surのインストールに失敗した際のエラー画面。この時点で3回ほどトライしていた。
伊藤有
インストーラーが残り10分時点で終了する症状は、再起動しても、初期化してOSを再インストールしても変化はなかった。
そこで、インストーラーログのエラー箇所から、気になる一文を頼りに米アップルのデベロッパーフォーラムを調べて解決策らしき手段の1つをみつけた。
それが、「Apple Configurator 2」を使ってApple T2セキュリティチップのファームウェアを「復活(Revive)」させるという方法だった(デベロッパーフォーラムでも「残り10分」のときに停止するとあり、症状は共通だ)。
結果的にこれが当たり。無事インストールできるようになった。ただ、なぜエラーが発生するようになったのかは結局不明なままなのだが……。
なお、この解決法はインストールするマシンとは別のMacが必要になる。手順は以下のとおりだ。
Apple Configurator 2の画面。
出典:アップル
- Big Surをインストールする機材(子Mac)とは別のMac(親Mac)に、AppStoreからApple Configurator 2をダウンロード
- Big SurをインストールしたいMacを、こちらの手順(英語)で外部からUSB-C接続できるようにしておく
- 親Macと子MacをUSB-Cケーブルで接続、Apple Configurator 2を起動、画面から子Macを選択して「アクション」→「詳細」→「デバイスの復活」
- 10分程度の処理が完了したら、子Macを起動。再度Big Surインストーラーを起動すると、無事に動くようになる
Big Surの正式版ではこうした問題は出ないはずだから、ある意味、開発途上のパブリックベータ版特有の問題なのかもしれない。パブリックベータを試すにあたって同様の問題がある人は、試してもいいかもしれない。
(文・伊藤有)