【レビュー】Apple Watchの新OS「watchOS 7」PB版で「睡眠記録」と「手洗いタイマー」を試した

watchOS 7 Public Beta

Apple Watch向け次期OS「watchOS 7」の進化ポイントはどこか。

出典:アップル、撮影:小林優多郎

  • 一般向けには2020年秋リリース予定の「watchOS 7」のパブリック・ベータが公開。
  • 「手洗いタイマー」「睡眠トラッカー」など昨今のトレンドを反映した機能も搭載
  • 文字盤にまつわる機能も強化され、アプリ開発者に新たなチャンスが生まれそうだ

Apple Watch向けOSの新バージョン「watchOS 7」のパブリックベータ・テストが始まった。

スマートウォッチは時計でありながら、「人の活動とリンクする」ことで大きな価値を生み出すものだ。とくにwacthOS 7の新たな機能は、「動きから情報を認識する」という考え方のものが増え、生活情報との連携が強くなっている。その価値がどうなったかをチェックしてみよう。

なお、パブリックベータ・テストは誰もが参加できるものではあるが、あくまで「テスト」であり、未知の不具合によって機器が一時的に使えなくなったり、データが消えたりする可能性が否定できない。

Apple Watchのように「日常的に付けている」「データの蓄積が重要」な製品では、特にベータ版の日常的利用はおすすめできない。また、利用許諾上は画像などの公開も許されていない。今回は特別な許可を得て、テスト機材を用意した上で記事を制作している。

「手洗い」を自動認識、十分な長さ洗うよう促す

手洗いタイマーが働く様を動画で確認。Apple Watchの操作は一切していない点に注目。

コロナ禍における、watchOS 7の目玉機能の1つは、「手洗いタイマー」だろう。

感染症対策として手洗いが有効なのは今や誰もが知っているが、「手洗いはちゃんとした形で時間をかけてやらないといけない」ことも周知されてきた。とはいえ、実際に「数十秒かけて手洗いを徹底できるか」というと、そうはいかないのも実情だ。

そこで助けになるのが「手洗いタイマー」だ。といっても、タイマーをセットする必要はない。Apple Watchが自動的に「手洗い」の動きを認識してタイマーをスタートし、トータルで20秒間の手洗いを促す。終了タイミングは音と振動で知らせてくれるのでわかりやすい。

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手洗いを認識するかどうかは設定可能。手洗いを検出すると、20秒のタイマーがスタートする(写真左)。手洗いが終わると写真右のような表示が。

手洗いの記録はiPhoneの位置情報とも連動しており、自宅に戻ると手洗いをするように通知してくれたりもする。

日常の手洗いの回数や時間なども、Apple Watchを介して「ヘルスケア」情報の中に記録されていくので、改めて自分の「手洗いの徹底度合い」を確認できる。

従来から、Apple Watchは特徴的な動きを認識してタイマーや運動量の記録を自動的に行う機能を持っていた。新機能は、それを手洗いに応用したと考えればいい。

ただ、かなり上手くできているようで、手洗いをせずに「手洗いっぽい手の動き」をしただけではタイマーは動かない。マイクも併用して認識している、とされているので、水の音とモーションの合わせ技なのだろう。

Apple Watchにもついに「睡眠トラッカー」搭載

フィットネス機能

ダンスや筋肉トレーニング、体幹トレーニングなどの記録も可能になった。そのためか、iPhone側での管理アプリの名前が「アクティビティ」から「フィットネス」に変わる。

動きを認識する機能は、これまで主にスポーツに使われてきた。今回のバージョンアップでも、ダンスや体幹トレーニングに拡張されている。

だが、今回の新機能で一番の注目は、動いていないときの様子を認識する機能「睡眠トラッカー」だ。

フィットネスアプリの睡眠画面

watchOS 7の「睡眠トラッカー」機能で記録した睡眠の状況。設定した「就寝時間」と検出した「睡眠時間」がシンプルに記録されている。

動きや心拍などから睡眠の長さや深さを認識して記録する「睡眠トラッカー」は、いまや特別な存在ではない。専用の機器は多数販売されている。Apple Watchへの搭載は「後発」と言える。

ではどんな機能になったのか? 特別な検知をして睡眠を精緻に分析する方向性なのか、というと、そうではない。就寝時間と睡眠時間の記録が基本で、いわゆる「レム睡眠」「ノンレム睡眠」の表示も行わない。

Apple Watchの睡眠設定画面

Apple Watchをつけて眠り、それが設定した「就寝時間」内だと、睡眠を自動検出して記録する(写真左)。睡眠目標時間は設定可能。Apple Watchからも、iPhoneからも設定できる(写真右)。

アップルが注力したポイントは、iPhoneと連動し、「睡眠に至る準備」をすること、そして日々の睡眠を記録していくことだ。

watchOS 7の睡眠トラッカー機能は、iPhoneのアラーム機能と深く結びついている。毎日の就寝時間・起床時間を決めておくと、就寝時間の30分前(長さは設定可能)に通知をしてくれる。

睡眠のリマインダー

設定した就寝時間の30分前になると通知が。落ち着いてゆっくりと眠りにつく習慣づけが狙いだ。

その間に着替えやリラックスできる音楽の再生、ストレッチなどの「就寝前のルーティン」をこなしましょう……という考え方だ。アップルが睡眠の準備時間に着目したのは、リラックスして眠りやすくして、眠りの質を高めるためと推察できる。

iPhoneのスクリーンショット

就寝前に同じ音楽を聴いたりストレッチしたりする場合には、「ショートカット」機能を使って自動実行することもできる(写真左)。就寝時間設定は「アラーム設定」と紐づいており、何時から何時まで眠るのかを、iPhoneからわかりやすく設定できる(写真右)。

あとは、Apple Watchをつけたまま眠るだけ。起きる時はApple Watchがアラームになって起こしてくれる。すべての記録や動作は自動化されていて、一度設定すれば、あとは特に何もしなくてもいい。

もちろんiPhoneのアラームからは、「いつもと違う時間に寝起きする」スケジュールを設定することもできる。この辺の一貫性はとても良い。起きると、今日の天気などがiPhoneに表示される。

iPhoneのロック画面

Apple Watchのアラームで起きた後にiPhoneを見ると、今の天気や気温などが表示されている。

これまでApple Watchが睡眠トラッカーを搭載してこなかったのは、バッテリー消費の問題があったからだろう。

今回の機能では、相当その辺に気を使っている様子が見える。画面は自動的に消え、文字盤も機能もシンプルに、表示の明るさも抑えられたものになる。睡眠の設定を中断しない限り、アプリも、デジタルクラウン(龍頭)を回して睡眠モードから抜けないと呼び出せない。

気になるバッテリー消費だが、実測では8時間の就寝で15〜20%の消費だった。この値は、製品版では改善される可能性があることを付記しておく。ちなみに、睡眠トラッカー機能は、バッテリー残量が30%以上でないと利用できない。

これはなかなかに微妙な値だ。スマートウォッチの課題は「いつ充電するか」にある。睡眠トラッカー機能を入れると、「寝ている間に充電」するのは難しくなる。

一方で、Apple Watchの充電は、30%くらいなら30分で充電できる。入浴中や食事中などの時間を使って充電するクセをつける必要はありそうだ。

“アップル以外”が文字盤をつくって配布、開発者の自由度が拡大

タキメーター

針やメーターが複数あるクロノグラフの文字盤には「タキメーター」が登場。機械式クロノグラフにある時間を伴った計算のための仕組みで、1時間あたりの移動距離や生産数の算出に役立つ。

もう1つ、watchOSの大きな改善点が文字盤の強化だ。種類が増えたり、「写真」のウォッチフェースでカラーフィルターをかけられるようになったりもしているが、より重要なことは「アプリ開発者にとってのチャンスが増えた」ということだ。

カラーフィルター

写真を表示する文字盤では、写真にカラーフィルターをかけられるようになった(写真左側)。文字盤へのカラーフィルター適応は、Apple WatchからだけでなくiPhoneからも行える(写真右)。

従来、文字盤はアップルがつくってOSと一緒に提供するものだった。だが、watchOS 7では、アプリ開発者が制作し、AppStore経由で配布できるようになる。

また、文字盤の中に「機能」として組み込まれる要素である「コンプリケーション」では、従来「1アプリで1種類」とされていた制約がなくなる。結果として、Apple Watchのデザインやカスタマイズの幅がさらに広がるのだ。

現状は開発途上であり、パブリック・ベータにはアップル以外が開発した文字盤は存在しないのだが、文字盤の「流通促進」を目指した機能は使える。

文字盤の共有

watchOS 7の文字盤編集画面に、新たに「シェアボタン」(四角に矢印)が現れる。ここをタップすると、メッセージなどで知り合いに文字盤を送れる。

文字盤を「シェア」できるようになったのだ。実際にはAppStoreからダウンロードするのだが、デザインやコンプリケーションの組み合わせなどをカスタマイズした情報がシェアできるので「自分が使っていて気に入った文字盤を他人にも教える」のに使えるわけだ。

SNSなどで良いアプリの情報が広がるのと同じように、“良い文字盤”の情報が流通するようになっていく可能性がある。

(文・西田宗千佳


西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

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