「女性登壇者いないイベントお断り」ビジネスリーダーたちが決断した理由

Slush2018

2019年の女性登壇者比率が約4割だった世界最大級のスタートアップイベント「Slush」。

撮影:西山里緒

日本の経営層ではまだまだ一般的な「リーダー全員男性」の光景。一方で、いまビジネスの現場で「女性登壇比率を上げよう」と主張する人たちが増えています。

彼ら・彼女たちはどのようにさまざまな反論や反発に対して説得し「男性中心主義」のビジネスにNOを伝えてきたのでしょうか? 3人のビジネスパーソンに「具体的に受けた反論」とその回答を聞きました。

1. この人、知名度ないけど大丈夫?

古市優子さん

約1万4000人の来場者を記録したマーケティングの国際カンファレンス「アドテック東京」を主催するコムエクスポジアム・ジャパン社長の古市優子さん。

撮影:西山里緒

マーケティングや広告に関する国際カンファレンス「ad:tech tokyo(アドテック東京)2020」を主催する、コムエクスポジアム・ジャパン社長の古市優子さんは、2019年のアドテック東京で初めて「女性登壇者比率3割」を掲げました。

それまでは女性登壇者比率を高める意識は社内で共有していましたが、具体的は数値目標は掲げておらず、2018年の比率は6%。

「女性登壇者比率3割」を初めて推進した時の風当たりの強さを「イベント登壇男女比率への違和感がないことに感じる激しい違和感」と題してnoteに記し、大きな反響を呼びました。

実力はあってもまだ知られていない女性リーダーを起用することに対し、既存の顧客(来場者)が離れてしまうことも懸念されました。周辺からはチケット収益が低下するのでは、との声もあったそうです。

懸念を打開した理由のひとつが、過去の来場者実績で「来場者が4割女性だった」こと。「来場者と登壇者のジェンダー比率のギャップが大きいことはおかしい」との共通認識を、主催側で持てたことは大きかったと語ります。

さらに「コムエクスポジアム・ジャパン」は本社がフランスの外資系企業。株主から「なぜ男性がこんなに多いのか?」と指摘されたことも「登壇者3割」を掲げる理由になったそうです。

結局、危惧していたチケットの売り上げは下がることはなく、2019年は過去最高の収益を記録。方針を明確に打ち出したことへのポジティブな反響も大きく、ブランディング効果もあったと振り返ります。

「まだ知られていない、数の少ない女性たちを選ぶことは時間もかかるし、ハードルも高いです。だからこそ、登壇比率を高められなかった人を叩くのではなく、高められた人を褒めていく構図ができるといいなと思っています」

2. 実力不足の女性を登壇させるのか?

若宮和男さん

女性主体の事業をつくるスタートアップ uni'que社長の若宮和男さん。

撮影:西山里緒

2020年7月に「ジェンダーギャップなイベントの登壇をお断りすることにしました。」と題したnoteが数万PVのヒットになり話題を呼んだ、uni’que社長の若宮和男さん。ほとんどの反応はポジティブだったものの、中には「実力主義でいいのだから、女性を優遇するのには賛同できない」という批判もあったそうです。

若宮さんは、こうした批判にはふたつの問題があると指摘します。

一つ目は、そもそも「実力主義」と言いながら、公正な競争から女性が排除されている現実。

2019年には東京医科大学が入試で女子受験生の点数を一律に減点し、入学者数を抑えていたことが発覚しました。ビジネスの現場においても、夫の単身赴任や長時間労働によって女性に過度な家事育児の負担が偏っているというワンオペ状況はまだまだ存在します。

これまでの構造がフェアでなかったからこそ、一定数の男性が「席」を辞退してその機会を奪われてきた「優秀な女性」に返上することが本当の「公平さ」ではないか —— 若宮さんはそう指摘します。

もう一つはより本質的に、いま「能力」と言われているものの評価軸自体が、現在のビジネスの現場で“評価されやすい”人によって作られたものである、という点。

「正解」が予測できない不確実な時代だからこそ、いまの評価軸では測れない、新しい価値観が生まれる素養を企業が持っておかなければ、長期的にその企業は生き残れないのではないか、と若宮さんは語ります。

「例えば、LINEやインスタグラムは『説明はうまくできないけどなんとなく可愛い/オシャレ』といった理由で大ヒットしました。数字で測れなかったり、いままでの価値観では説明できないところにこそ、イノベーションのタネがあります。だからこそ“理解できないものを決裁できない”モノカルチャーな企業は、ビジネス的に“リスク”と言えるんです」

3. 女性がなかなか登壇したがらないんですが…

アドテック東京

「女性登壇者3割」を掲げるアドテック東京。

画像:ad:tech tokyo(アドテック東京)2020公式ウェブサイト

前述のアドテック東京を主催した古市さんが「女性登壇者3割」を掲げて直面した問題のひとつが、「女性は実力があっても、なかなか登壇したがらない」ということだったそうです。

実際、Forbesのコラムによると「男性は60%の資格を満たしている場合に求人や昇進に応募し、女性は100%の資格を満たしている場合にのみ応募する」傾向があるというデータも出ています。なお、同コラムによると女性の自信は年齢によって強まっていくそうです。

「女性は、とても優秀でも『私なんて……』と遠慮してしまう方が多いですね。一度経験すればまったく問題ないのですが、最初の一歩は背中を押してあげる必要がある印象です」

4. 同じことを言っても、女性にはクソリプが来る

これは、先述のnoteの反響を受けて、若宮さんがある女性から言われたことだそうです。「男性であることですでに優先チケットを持っている」と認識したと、若宮さんは語ります。

「僕がおじさんで、こういうことを言うのがレアだから注目されやすいけれど、そうした社会の態度の違いには複雑な気持ちになりました」

一方で、男性という組織の内側にいるからこそ伝えやすいこともある、とも若宮さんは言います。同じように古市さんも「対立構造にせず、男性も(男女比率について)言いやすい雰囲気を作っていくことが大切」と語ります。

5. 「女性」の多様性だけでいいのか?

Grooves Work Technology Summit

女性登壇者比率が約5割だったイベント「Grooves Work Technology Summit」。

画像:Grooves Work

ダイバーシティーは、女性に限った話ではありません。それを体現するのが、人材紹介サービス「Crowd Agent」などを運営するgrooves社長の池見幸浩さんです。

grooves社が6月〜7月に主催した「Grooves Work Technology Summit」では、登壇者30人中の約半数が女性。

池見さんは、2018年に海外事業推進のためにマレーシア・クアラルンプールに移住。コロナショック後の6月、APEC(アジア太平洋経済協力)諸国を対象にビジネスサミット「Grooves Work Technology Summit」を完全英語かつ完全オンラインで開催しました。

この時に、マレーシア現地法人のスタッフらと決めたことが、「ジェンダーだけでなく、あらゆる角度からのダイバーシティを担保する」ということだったそう。ジェンダー、宗教・人種・国籍・年代だけでなく、オンラインイベントという特性上、登壇者の在住地のタイムゾーンも考慮した、と言います。

池見幸浩さん

「Grooves Work Technology Summit」日本語版で女性登壇者比率が約半数だったという、grooves社長の池見幸浩さん。

撮影:西山里緒

この決断にはマレーシアが多国籍・多宗教国家であることが大きく影響したと言います。

「多様性」への前提認識があったため、日本でも7月に開催した「Grooves Work Technology Summit」日本語版でも、登壇者の半数を女性にすることが可能になったそうです。

同じように前出の若宮さんも「女性」に焦点を当てることで、他のジェンダーへの配慮が薄れてしまったり、性のグラデーションの観点が消えてしまう、という懸念はあると言います。

一方で、いまの日本はジェンダーダイバーシティーに関しては、「映画が白黒カラーからフルカラーに変わっていくような」過渡期であるとも指摘します。映画が一色ずつ色を獲得してフルカラーになっていったように、少しずつ男女二元論だけではない価値観の「カラフルさ」も達成されていくのでは、とみています。

古市さんは、こう語ります。

「(いまは3割ですが)いつかはイベントの登壇者の男女比率を半々にしたい、と思っています。その先に『女性登壇者数』なんてことが注目されずに、(ダイバーシティーが)当たり前に実現できている社会があると信じています」


古市優子(ふるいち・ゆうこ)さん:慶應義塾大学法学部法律学科卒。サイバーエージェント新卒入社と同時に、スマートフォン黎明期のCyberZへ出向。2013年よりdmg::events Japan(現Comexposium Japan)に入社、iMedia News Summitなど新イベントの立ち上げ、ad:tech tokyoコンテンツ責任者を経て、2017年よりad:tech全体統括。2019年4月、同社代表取締役社長に就任、フランス最大手イベントオーガナイザーComexposium Groupにおける歴代最年少責任者となる。国内外での幅広いイベント主催及び参加経験を活かし、日本でのダイバーシティ&インクルーシブネスなカンファレンスの普及を目指す。

池見幸浩(いけみ・ゆきひろ)さん:1977年、大阪府生まれ。大手通信会社の社長室、会長室、内部監査室長を務めた後、資産管理会社勤務を経て2004年株式会社groovesを設立。2018年3月、マレーシアクアラルンプールにGrooves Sdn.Bhd.を設立し、海外事業を推進。

若宮 和男(わかみや・かずお)さん:uni’que代表取締役社長。ランサーズタレント社員。1976年、青森県生まれ。建築士としてキャリアをスタート後、東京大学でアート研究者となる。2006年、モバイルインターネットに可能性を感じIT業界に転身。NTTドコモ、DeNAで複数の新規事業を立ち上げる。2017年、女性主体の事業が少ない日本の現状に課題を感じてuni’que(ユニック)を創業。近著は『ハウ・トゥ アート・シンキング』。

(文・西山里緒)

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