2020年度第1四半期決算説明会で「防御」を掲げた孫社長。
出典:ソフトバンクグループ
- ソフトバンクグループの2020年度第1四半期の決算は、前年同期比で減収増益。
- Arm売却などのウワサで揺れる同社だが、孫氏は現状は「防御」の姿勢を示した。
- その流れで、完全子会社の投資運用子会社も新設。余剰資金の運用を行っていく。
8月11日に63歳の誕生日を迎えたという孫社長。にっこり微笑む一幕も。
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ソフトバンクグループは8月11日、2020年度第1四半期(2020年4〜6月期)決算を発表。
決算説明会には孫正義会長兼社長が登壇し、コロナ禍の第二波に見舞われる中で、態勢を立て直しつつある同社の現状を語った。
営業赤字約1兆3646億円(最終赤字9616億円)が注目を浴びた5月の決算会見では、世界恐慌以来となる「未曾有の危機」と表現したのは記憶に新しい。
当期純利益は1兆2557億円の黒字。Sprint売却等に伴う一時益の計上が主な要因となった。
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対して今四半期の売上高は1兆4501億円(前年同期比2%減)、純利益は売却益などが中心とはいえ、1兆2557億円(同12%増)と劇的に改善。孫氏が重視する株主価値も向上したとし、「(売り上げや利益の開示がルール上必要だが)今後はこれ一本でやっていく」と、時おり笑みを浮かべる余裕すら見せた。
「防御=現金」4.3兆円の資金化を実施
4.5兆円の資金化目標は4.3兆円を達成。
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会見の注目ポイントは、全体を通したテーマとなったの「防御」の体制だ。「資金化の進捗」「Armの行方」、新たに設立する「運用子会社」、「株主価値の変化」の4点で語られた
戦国時代、武田の騎馬隊と対峙した信長の鉄砲隊が馬を防ぐための柵を築いた逸話を例に挙げ、
「戦うために防御を欠かすことはできない。ソフトバンクにとっての防御とは現金だ。現金があれば守りを固めることができる」(孫社長)
と語った。
4.3兆円の資金化でも株価の暴落はなかったとする。
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現金確保のためにソフトバンクGは保有資産の売却を進めている。
3月には最大4.5兆円規模と発表していたが、8月11日現在で95%の進捗となる4.3兆円を達成。当初の予定だった4.5兆円を大きく上回る見通しを示した。
巨額の資金化により「株価が暴落するのではないか?」との懸念もあったが、孫社長は悪影響はなかったことを強調。4月以降、アリババグループ、T-Mobile US、ソフトバンク(通信事業)の株価はいずれも下がっていないことを示した。
Armは「一部/全部売却」や「再上場前倒し」を検討
Armの知的財産(IP)を利用したプロセッサーの出荷数は年々増加している。
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保有資産の動きとして世界的な注目の1つは、米・NVIDIA(エヌビディア)が買収を検討中と報じられた英・Arm(アーム)の行方だ。
半導体メーカー向けにプロセッサーの設計デザインを提供するArmは、得意とするモバイル分野だけでなく、サーバー向け市場でもシェアを伸ばしつつある。こうした状況を踏まえ、ソフトバンクGは2023年の再上場を目指していたという。
孫社長は交渉相手の具体名は伏せつつも、「一部または全部のArmの価値を売却する」、または「2023年の再上場を前倒しする」という選択肢を挙げ、両方をにらみながら検討していることを明かした。
かつて孫社長はArmの未来を熱く語ることもあったが、あっさり手放してしまうのだろうか? この点については、「現金で全部売るのではなく、株式とのミックスで考えている」とも語っており、ある程度は影響力を残したいとの想いがあるのかもしれない。
「投資運用」の子会社を設立、ユニコーン探しに暗雲?
ビジョンファンドの累計投資成果は2020年6月末時点で「0.2兆円」。
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ビジョンファンド(SVF)が投資する86社はどうなったのか。
6月末時点で価値が増えたのは29社で1.8兆円、価値が減ったのは48社でマイナス1.6兆円となり、累計の投資利益は0.2兆円にとどまった。
だが、7月16日にIPOを実施したAI創薬ベンチャーの米Relay Therapeuticsの場合、323億円の投資額が1236億円へと1年半で3.8倍になるなど、当たれば大きい。他にも「5〜6社が具体的な上場準備に入っている」(孫社長)とする。
Relay Therapeuticsへの投資は1年半で3.8倍に。
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こうした「ユニコーン探し」を続ける一方、興味深い動きも見せた。それが投資運用子会社の設立だ。
余剰資金の運用を目的に、資本金600億円の66%をソフトバンクグループが、33%を孫社長が出資する。流動性の高い上場株などを中心に運用する予定で、すでに米Amazon.com、米Apple、米Facebookなど30銘柄を試験的に購入したという。
資本金600億円で投資運用子会社を設立。
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孫社長はその狙いについて、「ユニコーンハンティングや、SVF2、3と継続していく基本方針は変わらない。だが、中長期の情報革命を推し進めていく上で、AIの中心カンパニーとして、上場会社にもいくつか重要な会社がある」と語った。
コロナ禍の中で、GAFA+Mに代表される米国巨大IT企業は急速に時価総額を増やしている。ユニコーン探しを継続しつつも、投資先を分散することで安定収益を確保したいという思惑がありそうだ。
数々の懸念を払拭。ソフトバンクグループ株の割安さをアピールした。
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孫氏が重視する「株主価値」は24.4兆円に増加
孫社長が重視する「株主価値」は24.4兆円に増加。
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ソフトバンクグループが最重要の数字と位置付けるのが「株主価値」だ。これは同社が保有する株式の時価総額から純負債を引いたもので、8月11日時点では27.5兆円の保有株式から純負債を引いて24.4兆円と、3月末から2.7兆円の増加となった。
純負債/保有株式率(LTV)は11%と低く、健全性を強調。
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コロナ禍の中で財務への懸念も持ち上がったが、純負債の3兆円を保有株式の27.5兆円で割った比率(LTV)は11%。運用の目安は平常時で25%未満、株価暴落などの異常時でも上限は35%としており、財務の健全性を改めて訴えた。
今後についても、「新型コロナのワクチンが完成するまで、危機的な状況が続く間は、11%を守っていく」(孫社長)として、「防御」を続ける方針を示した。
(文・山口健太)
山口健太:10年間のプログラマー経験を経て、2012年より現職。欧州方面の取材によく出かけている。著書に『スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)。