ブルックス・ブラザーズは7月に日本の民事再生法に当たる米連邦破産法第11条の適用を申請した。
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- ブランド戦略の観点では、破綻に追い込まれたブルックス・ブラザーズやJ.クルーのような事例は、顧客を逃がさない方法について学べる教訓的なケーススタディだ。
- ルイ・ヴィトンは、何十年にもわたって変化を続けながらも、自社のアイデンティティを忠実に守っている老舗ブランドの一例だ。
新型コロナウイルスの影響による打撃を受けて小売業が苦戦を強いられるなか、老舗ブランドの破綻が相次いでいる。J.クルーは2020年5月初旬に、ブルックス・ブラザーズは7月に破産を申請した。
「アン・テイラー」「ロフト」「レーン・ブライアント」が一度に倒産し、「メンズ・ウェアハウス」「ジョスAバンク」を展開する紳士服ブランドもこれに続いた。
在宅勤務が増えたことで、これらのブランドが主に扱うオフィス用スーツなどの需要の落ち込みが一因となった可能性はある。しかし、コロナ危機以前にすでに苦境に陥っていたブランドにとっては、強制的な店舗閉鎖と消費者支出の低迷が運命の分かれ道になってしまった。
3億ドルの負債を抱えて売上が頭打ちとなり、スニーカーの商標権侵害訴訟も抱えていたブルックス・ブラザーズは、コロナ禍の前にすでに再建計画に乗り出していた。
『マッドメン』シリーズのドン・ドレイパーのような、マディソン・アベニューの広告マンがおしゃれなファッションを宣伝していた1950年代とは、今は大きくかけ離れている。倒産が増え、190万人の小売業労働者が失業するなか、こうした企業の状況は、コロナ後の厳しい時代を生き残ろうとする創業者にとっては戒めのような教訓となる。
ブルックス・ブラザーズとJ.クルーがなぜ顧客を逃してしまったのかを分析し、伝統と変化の両立により100年以上にわたって顧客の心をつかみ続けてきたブランド、ルイ・ヴィトンのケースを考察する。
顧客が求めているものを常に把握すること
デザイナーのザック・ポーゼン(左)は、ブルックス・ブラザーズと提携し複数のコレクションを展開。写真右は同社CEOのクラウディオ・デル・ヴェッキオ。
Monica Schipper/Getty Images for Brooks Brothers
シリコンバレーで成功するための服装はジーンズとフリースのベストだ。スーツやネクタイの需要は、カジュアルなブランドに取って代わられようとしている。
しかしブルックス・ブラザーズはそうした兆候を見逃しており、コロナ禍で51店舗の閉鎖を余儀なくされるずっと前から、ピンストライプのスーツやカフスボタンなど、2000年代初頭に流行したアイビーリーグのプレップスタイルのファッションを販売し続けていた。
Business Insiderのドミニク=マドリ・デービスは、過去20年以上にわたりアメリカの価値観や政治が変化するにつれ、白人の上流階級の伝統的なファッションは魅力を失ったと指摘している。
コアとなる顧客を失わないようにすること
ニューヨーク五番街の閉店したJ.クルーの店内。
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ブルックス・ブラザーズが時代に追いつくのが遅かったのだとすれば、J.クルーは「流行の先端を行く」という路線を走りすぎた。
2008年、J.クルーのクリエイティブ・ディレクターのジェナ・ライオンズは、瞬く間に人気ブランドの顔として、業界のアイコン的存在となった。
彼女の登場により、女性のファッションの定番アイテムとして華やかでファッション性の高い服装が注目されるようになり、ミシェル・オバマ元大統領夫人が愛用したこともあってこの路線はしばらくの間うまくいっていた。J. クルーの売上は2004年から2013年にかけて伸び率のピークを迎えていた。
しかし2014年になると利益は42%減少。アナリストからは「ブランドのデザインがコアとなる顧客の心に響いていない」と評価された、とBusiness Insiderのメアリー・ハンバリーの記事は指摘する。
企業の売上には新規顧客の獲得も重要だが、定期的に商品を買ってくれる常連客にアピールした方が長期的には価値がある。
J.クルーは基本に戻ろうと考えた。2017年にはライオンズが退任し、その後の数年間で、経営陣も何度も交代した。それでも売上が完全に回復することはなく、17億ドル近い負債を抱えることとなった。
2020年の初めには、姉妹ブランドのメイドウェルを発表し、必要な現金を投入しようと計画していたが、他の多くの企業と同様、これらのよく練られた計画も、コロナ禍の打撃を受けたために失敗に終わった。
次の世代に備えること
ルイ・ヴィトンは、320億ドルの価値を有する世界トップクラスの高級ブランドだ。
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フランスの高級ブランド、ルイ・ヴィトンは、消費者心理をうまく利用して成功した好例だ。ルイ・ヴィトンは、320億ドルの評価額を誇る世界トップクラスの高級ブランドであり、トレンドや消費者の関心の変化に合わせて、数十年にわたり変化を続けてきた。
しかし、同社はブランドのアイデンティティを守ることにこだわり続けている。
象徴的な「LV」のモノグラムロゴを例に挙げてみよう。1997年、デザイナーのマーク・ジェイコブスはロゴの下に書かれていた「Louis Vuitton」のフルネームを省いた。だが2015年には現在のクリエイティブ・ディレクターを務めるニコラ・ジェスキエールが、新しいツイストPMバッグのロゴをLとVを重ねて描いた洗練されたデザインに変更。独自のアイデンティティを損なうことなく、新しい路線での再ブランディングに成功した。
また最近では、ルイ・ヴィトンは、若者の間の「高級品離れ」にもかかわらず、ジェネレーションZ世代やミレニアル世代からも支持されていると称賛を受けている。
ルイ・ヴィトンは、カジュアルアブランドとのコラボレーションや、10代の顧客をターゲットにしたマーケティングキャンペーンを導入して差別化を図ることによって、このような成果を成し遂げた。
1854年創業のルイ・ヴィトンは、ブルックス・ブラザーズより36年若い。この2社はともに強固な伝統の上に築かれているが、長く続く力を備えた者と変化に適応できなかった者との対比は明確だ。
コロナ後も消費者から愛され続けることを望むブランドは、ルイ・ヴィトンを手本にした方がよさそうだ。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)