Reuters
- アマゾンは、ユタ州の学校と提携し、同社のクラウド事業であるアマゾン ウェブ サービス(AWS)を利用したクラウドコンピューティングのトレーニングを無料で提供するという。
- アマゾンは以前、カリフォルニア州やバージニア州のコミュニティカレッジや公立カレッジと提携し、AWSを利用したクラウドコンピューティングの教育プログラムを提供していた。
- 一部の専門家は、企業が求めるスキルを学生や求職者にトレーニングしても、その企業での就職が保証されない可能性があり、数年以内にそのスキルが陳腐化すると時間が無駄になると警告している。
ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)は、子どもたちが小学生のうちからアマゾンに就職するためのスキルを身につけられるようにしようとしている。
アマゾンはユタ州の公立学校と提携し、同社のクラウド事業であるアマゾン ウェブ サービス(AWS)を利用したクラウドコンピューティングのトレーニングを無料で提供すると発表した。同社のリリースによると、教師に無料のAWSトレーニングプログラムを提供し、生徒や児童が自分のペースでカリキュラムにオンラインでアクセスできるという。
AWSの公共政策担当ディレクターであるジョン・スティーブンソン(John Stephenson)は声明の中で次のように述べている。
「需要の高いクラウド関連の仕事に就くために必要なツールやリソースを提供できると確信している。今回のTalent Ready Utahとのコラボレーションは、クラウドのスキルや関連資格を持つ人材を必要としている地元企業への人材供給に貢献するだろう」
これは、AWSのトレーニングへの投資を拡大している同社の動きの一つだ。同社は以前にも、カリフォルニア州やバージニア州のコミュニティカレッジなどと協力して、クラウドコンピューティングの教育プログラムを提供してきた。アマゾンは2017年に、14歳から17歳を対象としたAWSトレーニングプログラムをリリースしている。
クラウドコンピューティングに精通した人材への需要は高く、パンデミックでさらに高まっている可能性がある。求人情報のGlassdoorは給与、求人数、従業員の満足度で評価する、2020年の最高の技術職に「クラウドエンジニア」を選んだ。アマゾンによると、より多くの企業がリモートで仕事をするようになり、クラウドストレージへのニーズが高まったことから、4月のAWSの売上高は前年比33%増となった。AWSは、4月から6月までの同社の営業利益の3分の2を占め、eコマース事業を大幅に上回っている。
さらに、AWSソフトウェアのトレーニングコースで認定を受けることは、より多くの収入につながる可能性がある。あるベテランのIT企業社員はBusiness Insiderに対し、6つのAWS認定資格を取得して給与が40%増えたと語った。
一部の学生は、一流の技術者になれる可能性のあるAWSのスキルを身につけようと思うだろうが、専門家の中には、特定の企業に就職することを目的としたスキルを学ぶことに反対する人もいる。アマゾンはAWSのスキルを持った人全員を雇うことができないからだ。
Entangled Groupのストラテジストであるマイケル・ホーン(Michael Horn)は教育ニュースサイトのEducation Diveで、アマゾンが資格認定に進出したことで、学生が大学や短大の学位を取得しなくなる可能性があると語った。
「これらのプログラムが大学を脅かすものになることは想像に難くない」
アマゾンに特化したスキルを学んでも、仕事が保証されるわけではない
テック企業のリーダーたちは、学校で教えていることと雇用者が実際に必要としているスキルとの間にはギャップがあると長年言ってきた。
2020年4月、トランプ政権は失業中のアメリカ人に、仕事を見つけるために新しいスキルを学ぶことを奨励する「Find Something New」キャンペーンを行った。このプログラムは、アップル(Apple)やIBMを含む20の企業が全額出資しており、雇用主が学位の要件を緩め、スキルのトレーニングだけで応募者を採用することを奨励している、とブルームバーグは報じている。
アップルのティム・クック(Tim Cook)CEOはこのプログラムについて、「適切なツールがあれば、人々は自分と家族の人生をよりよい方向に変えることができると信じている」と述べている。クックは以前、アメリカの大学はビジネスリーダーが従業員に求めているスキルを教えていないと述べたことがある。
しかし、著述家で大学教授でもあるエレン・ルッペル・シェル(Ellen Ruppel Shell)によると、求職者に企業が必要だと言う特定のスキルを訓練することには問題があるという。市場の変化によっては数年以内に企業が必要としているスキルが変わってしまう可能性があるからだ。
自身の著書『The Job: Work and Its Future in a Time of Radical Change』で彼女は、40代の自動車産業の元従業員の再教育を目的とした先進製造業のクラスについて調査している。
その結果、従業員たちはプログラムを終え、会社が求めているスキルを身につけたものの、彼らに与えられた仕事は、家族を養うのに十分な給料を得られるものではなかったことがわかった。
また、2019年のある論文によると、「スキルの格差」は、ハイテク業界のリーダーたちが主張するほど大きくないという。
アメリカ経済学会(AEA)のエコノミストは、アメリカ人はIT企業が求める教育や職務経験を持っていたが、競争の激化で失業率が高くなった時、企業の雇用は減っていたことを発見した。また、11万4000人の履歴書を分析したところ、アメリカの求職者は必要なスキルを十分に持っていなかっただけではなく、不必要なスキルを数多く持っていたことも判明している。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)