気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。 今回は「HOTEL SHE, OSAKA」など全国に5つのホテルを運営するL&G Global Business代表の龍崎翔子さん。若くして起業し、交友関係も広そうな龍崎さんのお悩みは、意外にも「コミュニケーション」。社交の達人、GO三浦のアドバイスとは?
龍崎翔子(以下・龍崎)
ご無沙汰してます。元気ですか?
三浦
めっちゃ元気。龍崎、メディアでよく見かけるから、あんまり久しぶりって感じがしないけど。
今回はリモートでの対談。
龍崎
私もですよ(笑)。今日ご相談したいのは、コミュニケーションの問題というか……。私、人と仕事以外の話ができないんです。わりと人見知りなんですよ。
三浦
分かる(笑)。
龍崎
仕事が大好きなので、仕事の話題の時はすごく話せるんですけど。世の中一般のトークみたいになった時に、あんまり面白いことが言えません。雑談というものができないんです。
三浦
何を話しても仕事の話になっちゃう、と。ヘミングウェイの『何を見ても何かを思いだす』じゃないけど、「何を話しても何か思いつく」。
龍崎
そうそうそう!
三浦
だからついうっかり、仕事っぽく「それってこういうことじゃない?」と言っちゃって、「あ、そういうの求めてないから」って顔をされる。
龍崎
超分かります! だって仕事関係者じゃない限り、相手は私の仕事になんて興味ないじゃないですか。そういう時、本当に話すことがない……。
三浦
まあ難しいよな。コミュニティが違うとルールも変わってきちゃうし。昔は「年齢」「土地」「資本」で人のいる場所がなんとなく区切られてたから、ほっといても同じような話で盛り上がれたけど。今は逆に、「年齢」「土地」「資本」が違ってても話ができる。龍崎、どこに住んでるんだっけ?
龍崎
今は北海道です。
三浦
おれは東京だし、歳は龍崎より12個も上。だけど話してて全然違和感ないじゃん。
何の質問をしても仕事につなげられる
龍崎
以前、美輪明宏さんが学生の頃、先輩に言われたという言葉に感銘を受けて。「ラジオのどのチャンネルも楽しめる人になりなさい」って。要は、誰とでも話を合わせられる人になりなさいと。
三浦
おれじゃん(笑)。
龍崎
そういう人になりたいんですけど、私は「仕事」という1局しかないんです。相手への興味はあるんですが、今の時代って、パーソナルな質問で相手にズカズカ入りづらくないですか?
三浦
難しくなったよね。おれ、昔は最低の人間だったから、「どんな恋愛してんの」とか「どんな人と遊んでんの」って、聞く必要ないのに普通に聞いてたもん。それが恥ずかしいことだというのを、齢36にしてようやく自覚し始めたんだけど。
龍崎
(笑)。じゃあ三浦さん、例えば若い女子とは、どういう話をするんですか?
三浦
普段、何買ってるの?とか。
龍崎
仕事につなげる気満々じゃないですか。ヒアリングですよ、それ(笑)。
三浦
そこまでダイレクトじゃないけど、世の中のことを知りたいんだよね。仕事につながる話だとしても、結果として相手が仕事の話だと思わないで楽しんでくれたら、それでいいんじゃない?
龍崎
でも、私がひたすら仕事の話をしたら、相手はただ「ふーーーん」ってなっちゃうんじゃないですかね? 互いのフィールドが圧倒的に違うと、会話が成り立たないなって。だから、いかに自分を相手と同じフィールドに持っていくか、みたいなことを考えはするんですけど、自分の守備範囲が狭すぎて……。もう、マジで話せるトピックがない!
ロジカルな話し方が印象的な龍崎さん。仕事以外の雑談が本当に苦手なようです。
三浦
でも、おれたちはいつも仕事のことを考えてるんだから、むしろ何の質問をしても仕事につなげられるはずだよね。例えばおれだったら、丸紅の同級生に対して、「商社って社内恋愛率がすごく高いって聞くんだけど、実際何パーくらいなの?」とか。
龍崎
確かになあ。
三浦
向こうにとっては面白い世間話であっても、こっちにとっては仕事の話、なんてことはいくらでもある。そういう質問はいくらでも考え出せるでしょ。おれたちみたいに24時間仕事のことを考えてる人間は、それが逆に武器になるんじゃない?
龍崎
うんうんうん!
三浦
おれの会社員時代の先輩にの嶋浩一郎さんという人がいるんだけど、かっこいいんだよ。皆がいる前では仕事の話をほとんどしない。本当にどうでもいい雑学の話しかしないんだよね。だけど、実はそれが彼にとって仕事ですごく大事なことだったりする。
龍崎
なるほどなあ。
会話のすべては受け手がリードする
三浦
一方で、話を聞く側の立場で考えてみると、世の中の会話って、すべて受け手がリードするわけよ。
龍崎
確かに。
三浦
だから会話してて「あいつ面白くないな」って感じるのだとすれば、相手の話をキャッチするアンテナが自分にないってこと。もっと言うと、仕事の話でしか盛り上がれないのは、仕事と無関係なそいつの話に反応する「受容体」が自分自身にない、もしくは少ないから。おれたちの武器って、具体から抽象化することじゃん?
龍崎
はい。
三浦
例えば、普通の人が「Aって実はBなんですよ」って聞いたら、「へえ、そうなんだ」で終わるけど、我々が「Aって実はBなんですよ」って聞いたら、「なるほど。つまり我々の仕事に即すると……」ってすぐ考えるでしょ。ほとんど病気みたいな人種(笑)。
龍崎
確かに(笑)。
三浦
おれたちは、誰のどんな話でも面白がれるはずなんだよ。
龍崎
なるほどなあ。
三浦
今朝、格闘家の青木真也さんと話したんだけど、格闘技は距離とリズムと角度が大事なんだって。おれたちもそう。会話において、「あれ、この距離で踏み込んでいいんだっけ?」とか考えるじゃん。おれが星野リゾートの星野社長と飯食ったとしても、距離とっちゃうと思うんだけど、龍崎だったらボーンと踏み込めたりするでしょ。
龍崎
いけちゃいますね。ギャルのふりして(笑)。
三浦
距離とリズムと角度を押さえた上でなら、結構わがままに振舞ってもいいと思うんだよね。おれたちは、相手に「面白い」と思ってもらえるくらいの経験はしてるじゃん? ある程度丸腰で自信を持って、聞きたいこと聞いちゃえばいいんじゃないかな。誰に対してでも。
誰が相手だろうと、流暢に話を進める三浦さん。観察眼を磨くことに余念がない。
その人が褒めてほしいことを見つける
龍崎
私、めちゃくちゃお決まりの、ワンパターンな会話スタートがあるんですよ。「名前、かっこいいですね。どこ出身ですか」「24歳でホテル経営してるんですか」。人生で1万回くらい説明してます(笑)。
三浦
吐きそうになるね(笑)。
龍崎
聞かれて嫌ではないんですが、答える過程が作業になっちゃってて……。楽しくないことはないけど、淡々と話してしまってるんですよ。だから、いざ自分が質問する側に立つと、「この質問、他の人にも聞かれたことあるだろうなあ」と思って避けようとしちゃう。そういう謎の縛りを作っているせいで、質問できることが超限られてしまうという。
三浦
分かるけど、質問でも「誰がしてるのか」で違ってくるよね。「24歳でホテルを経営してるんですか」を、700年続いてる和菓子屋の24歳の若旦那に言われたら、ちょっと違うよね。だから、他の人に聞かれたことがありそうな質問でも、龍崎に質問されたら違うってことはあり得る。龍崎は、自分が龍崎だってことを大事にしていいと思うよ。
龍崎
自信持っていいんですかね。
三浦
うん。その上で「その人が今まで一度も褒められたことがないけど、本当は褒めてほしいこと」を見つけてあげる。これが大事。
龍崎
それは超嬉しいですね!
三浦
この間ゆうこす……菅本裕子大社長に、GOのゼミに来てもらったんだよ。そこでおれ、彼女をこう紹介した。「ものすごい努力家で戦略家で、ビジネスにおいて、こんなにもインフルエンサーであることを武器に変えた人はいない」。彼女、ものすごく喜んでくれたよ。「かわいい」とか「インフルエンサー」とか「SNSの使い方がうまい」なんて、多分4億回くらい言われてきてるけど、「“戦っている”みたいな表現をされたことはないです」って。
龍崎
しかも、褒めが具体的ですよね。「すごい」みたいな抽象的な褒めじゃなくて。三浦さん、すごくちゃんと人を見てるんだなあ。
三浦
ありがとう。もう36歳だしね(笑)。
龍崎
ちなみに三浦さんは、実はどこを一番褒めてもらいたいですか?
三浦
服だね(笑)。あとはやっぱり、経営者として自分が取材されたりクローズアップされるよりも、若手も含めたGOの社員がクローズアップされる時が一番嬉しい。
龍崎
私もです。私が個人として前に出ている分、評価していただける機会に恵まれているのは確かなんですが、チームを褒めてもらえるとすごく嬉しい。あとは、髪の色かな(笑)。
三浦
髪の色(笑)。
龍崎
「今日、髪色いい感じだね」「化粧いい感じだね、盛れてるね」とか言われると嬉しいです!
※本連載の中編は、8月20日(木)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
三浦崇宏(みうら・たかひろ):The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、Campaign ASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ):L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、CHILLNN, Inc.代表、ホテルプロデューサー。 1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON」をスタート。2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。2020年はホテル予約システムのための新会社CHILLNNを本格始動。ホテル宿泊券の販売サービス「未来に泊まれる宿泊券」や、新型コロナウイルスによって稼働率の下がったホテルと自宅が安全ではない人々をマッチングする予約プラットフォーム「ホテルシェルター」、オウンドメディア「HOTEL SOMEWHERE」などの事業を始めたばかり。