気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。 今回は「HOTEL SHE, OSAKA」など全国に5つのホテルを運営するL&G Global Business代表の龍崎翔子さんが登場。中編は、「飲みに誘えない」という龍崎さんの悩みから、話は昭和と令和のコミュニケーションの違いに発展する。
「飲みに行こうよ!」と気軽に言えない
龍崎翔子(以下・龍崎)
私、SNSで「いいね!」のやり取りはめっちゃするんですけど、「今度飲みに行こうよ」が全然言い出せないんです。自分自身、どんな予定でも、行く直前まですごく面倒臭いって感じちゃうんですよ。だから自分から誰かを誘えないのかも。
三浦崇宏(以下・三浦)
でも、すっげー必要だったら誘うでしょ。
最近気づいたんですけど、私、今まで人にあまりお願いごとをしてこなかったんです。人から頼まれるのは、わりと二つ返事でOKなんですけど、自分から誰かに「これ書いていただけませんか」「出演していただけませんか」って依頼したことは全然ないなって。
三浦
でも、依頼された側にとって「依頼者を助けてあげる」というのは、すごく気持ちのいいことだよ。
龍崎
うーん、確かに……。
三浦
依頼に応じることで、「こないだ三浦を助けてやったんだよね」と言ってもいい権利を得るというか。おれの話で言うと、後輩に飯をおごると彼らは一応恐縮してくれるんだけど、その時にはこう言うようにしてる。「その代わり、10年後にお前が偉くなったら、『あいつに飯おごったことあるんだぜ』って自慢させてくれよ」って。
龍崎
ふむふむ。
三浦
何かを依頼するというのは、相手に快楽を与えること。
龍崎
なるほど、なるほど。
三浦
飲みの誘い話に戻ると、きっと龍崎は「これは相手のメリットになるだろうか」「相手の時間をいただくことは失礼じゃないだろうか」ってすごく考えちゃうんだよね。だけど、龍崎のことを知ってる人からしたら、龍崎の依頼や相談に乗るというのは、すごく嬉しいことだよ。
龍崎
!
三浦
「こんなに素晴らしい人が、自分のことを頼ってくれたんだ」って体験は、ものすごく自尊心を高めるしね。もちろん、奥ゆかしさとか、相手のことを想像しても想像しても足りないと思う謙虚さは大事だよ。でも、それによって龍崎が人にお願いすることが減ったら、世の中の回るスピードが遅くなるじゃん。それはもったいない。
龍崎
ありがとうございます。
相手の時間を奪うことに敏感な龍崎さん。誘う行為だけでも思考が深い。
昭和のコミュニケーションは任侠の世界
三浦
頼ったり頼られたり的なコミュニケーションの話で思い出した。おれは1983年生まれで、平成と令和を両方生きてて、かつ昭和の偉大なモンスターと仕事をすることもたまにあるんだけど、昭和の連中ってマジだりい。マジやばいぞ(笑)。
龍崎
そうなんですか。
三浦
貸し借りが、もう数学レベルで厳密なの。
龍崎
へえ!
三浦
ある知り合いが、昭和のモンスタービジネスマンに会いに行ったら、いきなりブチ切れられたんだって。「この野郎、テメエんとこの社長はどれだけ不義理なんだ!」って。わけ分かんないから、会社に帰って自分とこの社長に聞いてみたら、何カ月か前にそのモンスターから人を紹介してもらったんだって。だから社長は早速モンスターに手紙と贈り物を贈った。ところが、後日再びモンスターに会ったら、またもブチ切れられた。
龍崎
え? なんで?
三浦
「テメエこの野郎、これは気持ちとかじゃねえんだよ。ビジネスなんだよ!」って。要は、モンスターが紹介した人のおかげで何かひとつ仕事が生まれたらしいんだよ。だから、社長はモンスターに礼状や贈り物じゃなくて、ビジネスでお金を戻さなきゃいけなかったわけ。意味分かんないでしょ(笑)。
貸し借りの概念が頑強な昭和の精神に、ミレニアル起業家たちはあきあき……しているのかもしれない。
龍崎
任侠の世界ですね……。
三浦
そう(笑)。「あいつに貸しがある。いつか返してもらおう」でビジネスしてる人が、昭和の世代には結構多い。
龍崎
そういえば、結構そんなことをおっしゃっている方もいますよね。昭和の世代ではないのに。
三浦
おれの友だちで、令和と昭和のハイブリッドなやつもいたりするよ。令和の「どうでもいいよ、そういうの」って発想と、昭和の任侠思考を両方学んでて、使い分けてる。オールドスクールの大物に対しては昭和のプロトコル(仕様)を採用して、例えば同じ世代の人に対しては、とにかく爆速で「ギブ&ギブ」精神。
龍崎
それはすごい(笑)。
三浦
彼は言ってみれば、野球とサッカーを同じフィールドでやってるんだよ。野球側からしたら「あいつ、すげえ足速いな」と思われる。サッカー側からしたら「あいつ、たまに手使ってね?」って言われる(笑)。
龍崎
ははは(笑)。
三浦
とにかく、昔の貸し借りベースの数学みたいな昭和プロトコルはもう終わるだろうから、これからは「与えまくる奴」のほうが絶対いい。実際、今30代以降で成果を出せてる人って、与えまくってる人でしょ。
龍崎
そうですね。
令和の時代のコミュニケーション
三浦
ただ、おれが令和のコミュニケーションについて感じるのは、龍崎の世代って、相手の時間を奪うことについてすごく繊細だよね。めちゃくちゃ気遣ってる。
龍崎
ええ。私たちはむやみに人を誘わないです。SNSで「頑張ってるね、また会おうね」で気持ち的には完結するんですよ。いちいち会って情報共有する必要があまりないというか。
三浦
それって必然的な変化だよね。昔は「会う」以外に連絡を取る手段がなかったから、「また飯でも行きましょう」が挨拶として普通だったけど。
龍崎
私も、おじさんに対しては「またご飯でも行きましょう」みたいなことを言うんですけど、同世代には「今度お茶でも」ってあまり言いません。
三浦
おれと龍崎が直接会ったのって多分3カ月前くらいだと思うんだけど、今日Zoomでこうして話してることには、全然久しぶり感がないよね。
龍崎
だからおのずと、「リアルで会う」は「SNSでできない話をするために会う」 という意味を帯びていく気がします。あるいは、一緒に何かの体験をするために会う。コミュニケーションのあり方がすごく変わってきてるなって感覚はありますね。私たちの世代では。
三浦
もう、「意味分かんない飯は食わない」でいいんじゃないかな。意味分かんない飯食うくらいだったら、「いいね!」で十分。でも、福岡の船に乗りながら食べる朝飯は絶対一緒に行きたいし、「この時間の、この窓から見える、この山の景色ヤバいから来て」は、あり。
龍崎
そうですね。「どこどこ行きたいから、一緒に行かない?」系の誘いはします。
三浦
龍崎の場合、おじさんとの仕事も結構多いから、それこそ、昭和プロトコルと令和プロトコルを使い分ければいいんだよ。
距離を詰めたい人は、ここ一番で飯に誘う
龍崎
おじさんとご飯行くって嫌じゃないんですけど(笑)、そっちに慣れたら慣れたで、いざ同世代を前にすると「あれ、普通はどう遊んでたっけ?」って我に返っちゃうんです。私、19歳で起業したので、同世代とただ遊んだのって、大学1年生の時の1年間しかなくて。「表参道でいつもつるんでる仲間」みたいなものへの憧れが、すごくあります。
三浦
「表参道でいつもつるんでる仲間」、それ、もはや幻想だよ(笑)。
龍崎
(笑)。でも、思ってしまうんですよ。どこに行ったらそういうものが生まれるんだろうって。お互いSNSでフォローし合ってるけど、今一歩仲良くなれてない人っているじゃないですか。
三浦
そういう時こそ飯に誘うのが効果的だよ。おれ、月に何軒かすごくいいお店を個室で予約しておくの。寿司屋とかね。それが6名の個室だったら、その店にどういう6人で行ったら楽しいかな?って考えて、「全然予約取れない寿司屋取れたんで、行きませんか」って誘う。距離がぐっと近くなるよ。
龍崎
いいですね!
三浦
飲み食いしてる時って脳内麻薬が出るから、自然とポジティブになるんだよね。ハイネケンのCMで、ビール飲みながらフェミニストの女性と反フェミニストの男性が会話してるやつもそう。だから距離を一歩詰めたい人を飯に誘うのは、すごくいい。
逆に、そこそこ距離は詰まってるし、これ以上関係性をメンテナンスする必要がない人とは、わざわざ飯を食う必要がない。
さらに距離を詰めたい時は短期間に何回も誘うかな。毎月1回、1年間行き続けるよりも、月に5回行くほうが相手と関係が深くなる。だから飯じゃなくても、本当にこの人と距離詰めたいなって思ったら、電話でもZoomでもいいから、短期間にいろんな相談ごとをするのがいいかもね。
龍崎
確かにそうだ。
三浦
あとはやっぱり、おれたちの場合は、仕事を頼むか振るのが一番だよ。
龍崎
そうなんですよね! 仲良くなるには、一緒に仕事をするのが一番早い!
(構成・稲田豊史、 撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
※本連載の後編は、8月21日(金)の更新を予定しています。
三浦崇宏(みうら・たかひろ):The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、Campaign ASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ): L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、CHILLNN, Inc.代表、ホテルプロデューサー。 1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON」をスタート。2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。2020年はホテル予約システムのための新会社CHILLNNを本格始動。ホテル宿泊券の販売サービス「未来に泊まれる宿泊券」や、新型コロナウイルスによって稼働率の下がったホテルと自宅が安全ではない人々をマッチングする予約プラットフォーム「ホテルシェルター」、オウンドメディア「HOTEL SOMEWHERE」などの事業を始めたばかり。