気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。 今回は「HOTEL SHE, OSAKA」など全国に5つのホテルを運営するL&G Global Business代表の龍崎翔子さんが登場。後編は、スタートアップの起業家としての悩みを、GO三浦がガチで答える。
本気で仕事の相談していいですか?
おう(笑)。
うちの会社、いま同時に30個くらいプロジェクトが動いてて、収集がつかなくなってきてるんです。GOに来る案件ってどうさばいてるんですか? その仕事を受ける、受けないの基準というか。
おれの師匠の1人であるWEB編集者の中川淳一郎さんが、フリーのための仕事の選びかたを本に書いてるんだけど、かなり参考になるよ。1.お金がいい、2.相手が好き、3.自分にとってのプラスの経験になる。このうち2つ当てはまってたら、やるべきだと。
なるほど。私の場合、「2.相手が好き」だからOK、OK、OKってどんどん受けちゃってるとこはありますね。1個1個はそんなに大した量じゃないんですけど、溜まるとすごい量になってキャパオーバーに……。採用させていただきたいです、それ!
GOでは仕事を受けるかどうかの基準を2軸定めてるよ。縦軸が「儲かる」かどうか。横軸が「社会に対する変化と挑戦」かどうか。両方満たす仕事なら絶対やるけど、悩ましいのは、「儲かる」けど「社会に対する変化と挑戦」にはなっていない仕事【A】と、「儲からない」けど「社会に対する変化と挑戦」になっている仕事【B】。
どうするんですか?
【A】は受けない。【B】は受ける。なぜなら、【B】は「お代わり」が来るから。その仕事を受けたことによって話題になり、共感され、リピートで仕事が入るから。でも【A】には「お代わり」がない。
その時は儲かるけど、結果的に「費用対効果、悪かったじゃん」みたいになるんですね。
「金はいいけどブランドに合ってない仕事」って、可視化されてないコストを払わなければならないことが、往々にしてある。だったら、お金は一瞬良くないけど、自社のブランドに合ってるものをやるべき。「お代わり」に期待して。
会社の話になると質問が止まらなくなる龍崎さん。
プロジェクト・マネージャーをどう育成する?
その基準、うちの会社もちゃんと持っておきたいなあ。そうだ、私たちの会社、PM(プロジェクトマネージャー)の育成が課題だなと思うことが多いんです。GOではどうやって育ててらっしゃるんですか?
GOはPMをビジネスプロデューサーと呼んでるんだけど、彼らに備わっているべきスキルは①予算のマネジメント、②スケジュールのマネジメント、③モチベーションのマネジメント。で、①と②ができてようやく二流なの。ただし、①と②にばっかり目が向いてしまうと、③がおろそかになる。
③モチベーションのマネジメントって、具体的にはどういうことですか?
エンジニアやクリエーターに、どっかで無理させなきゃいけないことってあるじゃない。その時、無理しなきゃいけない理由とか、無理によって何が返ってくるかを、ちゃんと説明できるかどうか。これがすごく大事。
なるほど。この3つが備わるように意識して育てるんですね。
別の言い方をすると、三流のPMは納品しか見てない。二流は納品のクオリティしか見てない。一流はプロセスのクオリティ、皆がハッピーにやれてるかどうかまで見てる。細かいことなんだけど、誰かの心が病んでないかとか、このプロセスでちゃんと部下は成長できてるかとか。そこまで見られれば、一流だよ。
PMのスキルはどうやってトレーニングしてるんですか?
評価マップを作ったほうがいいね。スタートアップは特に。ちょっと待って、今書くから。
すぐさまペンを取り、図解してくれる三浦さん。
うわあ、ありがとうございます……。
社員のスキルを図る評価マップがこちら。ものすごく分かりやすい!
縦軸のA〜GがPMの能力ね。例えば、A.お金の請求、B.見積もり作り、C.ガントチャート作り、D.イベント会場押さえ……とか。で、それらが何の業務を経験すれば身につくかが、一番左の①〜③。イベント運営を仕切るとCとDの能力が身につく、コンサル業務をやるとFとGが身につく……みたいなイメージ。
なるほど、なるほど。
で、横軸1〜5は各能力の習熟度。1:現場を回せる、2:部下2人をマネジメントできる、3:部下2人をマネジメントできて育成もできる、4:電通や博報堂など大手とやり取りできて相手がバカでも対応できる、 5:そのことについて講演できる——とかね。
超分かりやすい!
まずPMにこのチャートを渡して書かせ、その上長にも書かせる。二者に生じたギャップは本人にとっての課題になるよね。
褒める理由は「ブランドに則ったから」
すごくいいですね。ぜひ採用したいです! ところで、三浦さんは会社の代表として、それぞれのプロジェクトにどう目配りしてるんですか?
大前提として、世の中の組織は以下の4つで動いてる「THE TEAM」の麻野さんに教えてもらったんだけどね。
1.フィロソフィ。思想とか哲学ね。GOで言うと「社会の変化と挑戦にコミットする」。
2.プロフェッション。この仕事をすることによって自分の能力が磨かれるとか、この会社にいるとフリーランスよりパフォーマンスが高く出せるとか。
3.プリビレッジ。特権、恩恵ね。給料をもらえるとか、社会で有名になれるとか。
4.ピープル。GOにいるとバイブスいいぜ、仲間にいい奴が多い、みたいなやつ。
はい。
で、どんなプロジェクトもなるべく①のフィロソフィに寄せていこうと思ってる。 GOで働いてることが世の中を良くすることにつながってるし、良くしたい世の中の方向とあなたの思ってる方向は同じですよね、と。
そのフィロソフィは、どうやって社員に浸透させてるんですか?
順に説明するよ。GOって会社は、「使命」があって、「事業」があって、3ステップの企画プロセスがあって、「行動指針」がある。これね。
GOの行動指針5原則。この行動指針を浸透させることで、「その会社の人らしい」働きを推し進めることができる。
これらって、社員の皆さんは完全に把握されてるんですか?
把握してほしいと思ってるし、「お前ら毎朝これ読めよ」くらいは言うようにはしてるよ。で、社員の行動やアウトプットや事業を褒める時には、その文脈に必ず「うちのブランドに則(のっと)ったから」をワンクッション入れるようにしてるの。「儲かったから偉いね」じゃなくて、「GOのブランドに則ったから儲かったし、偉いね」って。
はいはいはいはい! それって、全社員の会議でやるんですか?
うん。毎週月曜日の朝11時から1時間半かけて、会社が動かしてる案件、売り上げ、利益率を社員全員に全部共有して、案件に至らないところがあれば、おれから「こういうふうにしてほしいんだよね」って話をする。で、最後に「今週ちょっと褒めたいのはこれなんだけど」って。
うわあ、素晴らしい。やろう! うちも真似しよう! この資料、いただいてもいいですか?
いいよ(笑)。
毎週、皆の前で褒めるっていいですよね。
やっぱり、褒めてマネジメントしたいんだよね。個別案件の会議だと、厳しいことも言わなきゃいけないじゃない。だから全体の、皆の前では絶対褒めてたい。
面で社会を変えていく
最後にもう一個だけ、いいですか? うちの会社、ありがたいことにホテル事業以外の周辺事業も、めちゃくちゃでっかくなってるんです。コンサル・クリエイティブ事業とか、教育とか。広告の協賛もいただけたりして。
素晴らしいよな。
だけど、ぱっと見、事業がバラついてるんです。事業ごとに評価基準も組織の組み方も違う。かつ人が少ないから1人辞めては補充、みたいなことを繰り返してて。その、一見してバラついてる部分を、どうやって1つのものとしてまとめ上げるかが、すごく難しいというか。私の中ではまとまってるつもりなんですが、外から見たらそうじゃないんだろうなと。
龍崎の会社が描きたい未来、世界をこういうふうに変えたいというビジョンはあるよね? 単に利益を上げるんだったら、一つの事業をやっていればいいんだけど、世の中を変えるにはそれじゃだめ。「面」を作らなきゃ。
「面」、そうですね。うん。
世の中を変えるのは一事業じゃできない。だから、コラボとか新規事業とかいった複数の事業で「面」を取って変えるわけでしょ。それを言葉にするんだよ。「私たちには変えたい世の中があって、そのためのいくつかの手段として、これとこれとこれをやってます」っていう説明の仕方ができればいい。
なるほど。ビジョンありきで、必要なパーツをはめるためにこんな事業をやっていますと伝える必要があるんですね。今日は超勉強になりました。対談の後半、完全に組織論の講義でしたね(笑)。ありがとうございました!
会社のこと考えるのって楽しいよね。
本当に。何をやっても、どんな悩みも、結局会社に行き着きます。
会社経営ほど一生続けられる趣味って、他になかなかないと思うよ。
(構成・稲田豊史、 撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、 編集・松田祐子)
三浦崇宏(みうら・たかひろ):The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、Campaign ASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。2冊目の著書『人脈なんてクソだ。 変化の時代の生存戦略 』が発売中。
龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ): L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、CHILLNN, Inc.代表、ホテルプロデューサー。 1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON」をスタート。2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。2020年はホテル予約システムのための新会社CHILLNNを本格始動。ホテル宿泊券の販売サービス「未来に泊まれる宿泊券」や、新型コロナウイルスによって稼働率の下がったホテルと自宅が安全ではない人々をマッチングする予約プラットフォーム「ホテルシェルター」、オウンドメディア「HOTEL SOMEWHERE」などの事業を始めたばかり。