ドイツの自動車メーカー世界大手2社が出資する「Free Now(フリーナウ)」が大きな成長を見せている。
Screenshot of FreeNow website
- 欧州の配車サービス市場でウーバー(Uber)とシェアを争うフリーナウ(Free Now)は、他社で赤字操業が続くなか、欧州各地で利益を確保できていることを明らかにした。
- フリーナウはこの8月、ロンドンにおける2年間の営業ライセンスを獲得。一方、ウーバーは2019年11月に事業認可を取り消され、いまだに四苦八苦している。
- フリーナウは独BMWと独ダイムラーの合弁会社。モビリティの未来を切り開くことを目的に、両社が2019年に10億ドルを出資して設立した。
フリーナウはBMWとダイムラーの合弁会社で、欧州市場におけるウーバーの競合企業だ。欧州はパンデミックにより大きなダメージを負ったが、同社はイギリスはじめ欧州市場のほとんど営業拠点で黒字を確保できているという。
アメリカ発の競合大手であるリフト(Lyft)とウーバーがパンデミックで大打撃を受け、赤字を垂れ流していることを考えると、フリーナウの営業手腕は素晴らしいとしか言いようがない。
また、同社は最近、ロンドン交通局(Transport for London)から2年間の営業ライセンスを取得し、配車サービスの操業継続を確保している。
民間企業による配車サービスの営業認可取得は、ウーバーが2019年11月にライセンスを取り消されて以来、フリーナウが初めて。
一方のウーバーは、ロンドン交通局から「認可に適さない(not fit and proper)」として営業認可の取り消しを受け、裁判所に不服申し立てを行う予定だが、現時点ではロンドンでの営業再開の見通しは立っていない。
フリーナウは最近、やはりBMWとダイムラーが出資する配車サービスのカプテン(Kapten)と合併し、ロンドンでウーバーとシェアを争い、ロンドンタクシー(ブラックキャブ)と民間配車サービスを統合するプラットフォームへと成長を遂げようとしている。
欧州の主要市場にフォーカス
フリーナウUKのゼネラルマネージャー、マリウス・ザブロツキ。Business Insiderの取材に応じた。
提供:Free Now
フリーナウは自動車メーカー世界大手2社の合弁会社。BMWとダイムラーは2019年、フリーナウはじめ最先端をいくモビリティカンパニー5社に10億ドル以上を投資している。フリーナウは欧州市場でウーバーに代わる有望株と評価されている。
欧州で操業する配車サービスにはほかにも、エストニアのボルト(Bolt)や独メルセデス・ベンツが出資するヴィアバン(ViaVan)などがある。
フリーナウのゼネラルマネージャー(イギリス)、マリウス・ザブロツキはBusiness Insiderの取材に対し、具体的な数字は示さなかったものの、イギリスを含むほとんどの進出市場で利益を計上しており、欧州全体でみても黒字であることを明らかにしている。
さらに、同社はこのザブロツキの発言を記事公開後にアップデートし、イギリスと欧州市場の半分以上で「営業黒字」を計上しているとの表現に訂正。広報担当から以下のコメントが寄せられた。
「より正確に言うと、フリーナウはここ数カ月間営業黒字を継続している。言い換えれば、すべての営業支出と間接費を売上収益から除いた金額がプラスということ。以前出したザブロツキのコメントは、もともと営業レベルでの黒字を指していたという意味では誤りではなかったものの、表現が不鮮明であったがために(最終黒字との)誤解を招きかねないと考え、訂正する」
ザブロツキによると、フリーナウはこれまで、欧州最大級の都市に進出し、そこでトップシェアあるいはそれに準ずるポジションにつけることにフォーカスしてきた。現在、欧州17市場150都市でサービスを展開している。
4〜5月は売上減も、6〜7月で利益計上
パンデミックはあらゆる配車サービスにとって大きな打撃となった。
ウーバーの第2四半期(4〜6月)の売上高は前年同期比29%減。フリーナウも都市によって60〜95%の大幅な売上減を記録した。
「4月と5月はきわめて厳しく、他社の例に漏れず、欧州(のサービス提供都市)全域で大幅な売上減となったが、6月と7月は全域で営業利益を計上できた」
ギリシアなどいくつかの市場では、競合他社がパンデミック以前の水準までの回復に遠く及ばない状況のなか、フリーナウだけが前年比で利用増を記録した。
MaaSアプリ「シティマッパー(Citymapper)」のモビリティ指数によると、ロンドンでは人々の移動が通常時の水準の41%にとどまっている。
ザブロツキはフリーナウの今後について楽観的な見通しを語る。
「もし仮に人々の移動が完全に回復せず、パンデミック前の水準の70〜80%程度にとどまるとしても、われわれのビジネスはこれまで以上に成長していくと考えている」
ウーバーとの差別化にフォーカス
ウーバーのロンドンオフィス前で抗議の声をあげる個人請負のドライバーたち。「ウーバーがわれわれを貧困に追い込む」とのプラカードも。ドライバーの待遇改善は配車サービス各社にとって喫緊の課題だ。
REUTERS/Henry Nicholls
フリーナウはウーバーとの差別化を重視している。
ウーバーはここ数年、ドライバーの待遇について議会から、サービス利用者の安全性確保については規制当局から、それぞれ厳しい監視の目にさらされている。
「われわれはウーバーとはまったく異なり、安全性の確保にはきわめて厳しい姿勢で臨んでいる。ドライバーについても同様で、事故や事件から、利用者だけでなくドライバーも守ることにこだわっている」
ザブロツキはそう強調した上で、ドライバーの酷使濫用については一切許容せず厳罰に処する(ゼロ・トレランス)方針であることを明言している。
一方のウーバーは、アプリベースのビジネスを展開する会社が、ドライバーのような非正規雇用の労働者、いわゆるギグワーカーをどのように扱うのか、悪い見本として非難を一身に集めている。
ウーバーは現在、ドライバーを請負業者から従業員としての待遇に変更し、有給休暇の取得を認め、国の定める最低賃金を保証せよとの命令に対し、イギリス最高裁判所に上訴中。
また、一部のドライバーたちは(管理アルゴリズムに利用されている)個人データの開示を求めてウーバーを提訴している。
ロンドン市内のクラリッジス・ホテル前に並ぶロンドンタクシー(ブラックキャブ)。ウーバーの新規株式公開(IPO)に伴う投資家向け説明会が同ホテル内で行われた2019年4月の撮影。
REUTERS/Toby Melville
別の問題もある。とくにロンドンでは、配車サービスが既存のタクシードライバーにもたらす影響が大きな問題となっている。ロンドンタクシー(ブラックキャブ)のドライバーたちは、反ウーバーのロビイストとして声高に訴えを続け、しかも成果をあげてきた。
これに対し、フリーナウは個人請負のドライバーとブラックキャブのドライバーの両方に配車サービスプラットフォームを提供することで、議論に巻き込まれるのを回避してきた。
ザブロツキによれば、フリーナウのドライバーはウーバーと比べて柔軟性の高い働き方をしているという。
「われわれはドライバーが受け入れやすい、より自由な働き方を認めている。1日何時間働くか、他の配車サービス事業者にも登録して働くのか、いずれもドライバーの選択次第だ」
ただし、ドライバーには一定のパフォーマンスを維持する義務が課される。ウーバーでは(利用者からの評価で決まる)ドライバーレーティングがおよそ4.6(Business Insider調べ)を下回ると、プラットフォームを利用できなくなるが、フリーナウでも同様の措置をとっている。
ザブロツキによると、これは乗客の安全を守るための措置だという。
「とくに安全にかかわる事故やトラブルがあってレーティングを下げたドライバーについては、確実にプラットフォームから排除するようにしている。ドライバーは停職処分、ロンドン交通局にも通知する。常識ともいえるが、何より法的要請にもとづく措置だ」
将来の成長分野は「電動キックボード」
電動キックボード(スクーター)は世界中で市場を拡大しつつある。モビリティ・アス・ア・サービス(MaaS)の不可欠な要素と評価する向きもある。写真はパリの公道。
REUTERS/Christian Hartmann
フリーナウにとって将来の成長分野は電動キックボードだ。
ドイツやポルトガル、ポーランドなど欧州の一部ではすでにサービスを開始しており、ロンドンでも営業認可を求めて一度申請したが、却下されている。
ただし、イギリス運輸省は7月、電動キックボードのレンタルサービスを同国の公道で合法的に利用するための法的枠組みを(当初予定していた2021年から前倒しにして)発表。すでに1年間の試験運用を開始している。
「スクータービジネスはまだ端緒についたばかりだが、市場規模は非常に大きい。サービス展開済みの都市では開始直後から利益が出ている」
(翻訳・編集:川村力)