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企業は守ってくれない「新しい働き方」の現実。 ギグワーカーを労働力搾取から守るためには?

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ギグワーカーの働き方に注目が集まっている。

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インターネット上のアプリを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」。すきま時間を活用して働けることから、新しい働き方として注目を浴びている。

新型コロナの影響を大きく受けた飲食業などで、職を失った人たちの受け皿としても機能している。その一方で、ギグワーカーは企業が雇用しているわけではないため、その働き方は労働法に守られていない。

ギグワーカーの雇用、賃金などの権利はどうやって保障されるのか。

約2万4000人のギグワーカーが登録している、マッチングプラットフォーム「spotgig(スポットギグ)」を運営するAXIS MOTION(アクシスモーション)社長の田中祥司氏に、ギグワーカーの現状について聞いた。

「将来的には権利保障されるべき」

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AXIS MOTION社長の田中祥司氏。同社が運営するプラットフォームには約2万4000人が登録している。

撮影:横山耕太郎

ギグワーカーの問題点の一つは、会社員と比べて、働く側が労働法で守られていないことだ。

アルバイトと違い、ギグワーカーは企業が雇用する労働者ではない。そのため労働基準法や労働衛生法、最低賃金法などを含む「労働法」全般の対象にならない。

長時間労働の規制や、有給休暇の制度がないほか、解雇された場合の失業手当、病気やケガで療養した場合の休業補償も受けられず、厚生年金にも加入できない。

企業からしてみれば、雇用保険への加入も義務ではないし、解雇規制も及ばないため、ギグワーカーを「切り捨て可能な安価な労働力」として使うこともできてしまう

田中氏は、ギグワーカーの権利の補償について、次のように話す。

将来的な方向性としては、プラットフォームの登録者を含むギグワーカーの権利は、保障されるべきだと思っています。

必要な保障の内容が、雇用保険なのか、それとも賃金の補償なのかは、今後考えていくべきことだと思います。保障する内容については、例えばIT系のギグワーカーと、spotgigのように非IT系のギグワーカーでも違うと思います」

賃金はどう守られるべきなのか?

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撮影:横山耕太郎

ギグワーカーは、働けなくなった場合のリスクも大きい。労働基準法の対象にならず、都道府県が定める最低賃金も適応されないからだ。

一方で、ギグワーカーを含むフリーランスで働く人の年収は「200万円~300万円未満」の割合が最も多いとされ、病気やケガなどで働けなくなった場合、死活問題になる。

「Uber Eats(ウーバーイーツ)の普及で、ギグワーカーという働き方への注目は高まっています。ただ、企業の都合のいいようにギグワーカーが使われるのは本意ではありません。

spotgigの時給は、最低賃金の1.8倍を下限に設定しています。例えば最低賃金が1000円の都道府県の場合、1800円以下の仕事は受けません。

従来の日雇いバイトは、高度なスキルが求められない仕事を単発で任せる形でした。それでは単価を買い叩かれてしまう。この悪循環を変えていきたいと思っています」

空いた時間に地元で働けるメリット

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spotgigの登録者と導入企業は、右肩上がりで増加している。

出典:AXIS MOTION

spotgigの登録者は増え続けている。ちょうど1年前(2019年8月時点)の登録者数は1万8763人だったが、2020年8月13日時点では2万3824人と約5000人増えた。登録数は増加傾向にあり、3月以降はコロナショックで問い合わせが増えているという。

「飲食や観光業でアルバイトをしていたものの、雇い止めになり仕事を失った人の登録も多い。ただ、仕事の増加よりも、応募者の増加が上回っているのが現状です」

同プラットフォームを利用する企業数も増え続けている。2020年8月の導入企業数は861社。前年同期の571社から約300社も増えた。

spotgigが仲介する仕事では、不動産業関連の業務が多い。具体的には清掃や建物の管理状態の調査、建売住宅の受付・案内業務などが多数を占める。

「会社から1キロ圏内の物件ならば、社員が自分で行けますが、10キロ、20キロ先になれば、現地のギグワーカーに頼んだほうが合理的です。ギグワーカーにとっても地元で働けるメリットがあります」

spotgigの登録者は、主婦や自営業者、50代以上のシニアが多く、専業のギグワーカーはごく少数という。

「子育て中の主婦でギグワーカーをしている人には、中長期的に勤務する仕事については『負担が重い』と感じる人もいます。

私たちが目指すのは、地域の中で真面目に働いてくれる人材を、事業者が共有できるようにすること。 プラットフォームとして、ギグワークを『専業』とすることを後押ししているわけではありません

どうスキルアップするのか?

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ギグワーカーのスキルアップをどう支援するかも問われる。

撮影:今村拓馬

保障が手薄なギグワーカーにとって、継続的に収益を上げるためのスキルアップも求められる。

コロナショックの影響で、ギグワーカーとして働く人の数は増えているものの、継続的に収益を得るのは簡単ではない。

約2年前からウーバーイーツの配達員をしているという20代の男性は、「コロナ後に一気に参入者が増え、注文の多い店の前には配達員が列を作ることもある。以前のようには稼げなくなっている」と話す。

継続的に働くためのスキルアップについて、プラットフォームはどう考えているのか。

「spotgigでは、登録年数や企業からの評価に応じ、より付加価値の高い仕事を任せるようにしています。例えば、はじめはビル清掃を担当していた方が、登録年数に応じてカギの交換業務や、建売り住宅の案内業務をすることで、仕事の幅を広げられるようにしています。長期的に働くことで、信頼が必要な仕事を任せ、単価を上げていく。

保障が少ない分、急に仕事がなくならないよう、やたらに登録者を増やさないようにしたり、登録者が多い地域では営業を強化したりしています

「雇用を守り、積極的にギグワーカーを取り入れる」

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世界ではギグワーカーの権利を保障する動きも出ている。

REUTERS/Callaghan O'Hare

アメリカでは、ギグワーカーを労働者とみなし、企業による保障を求める流れも出ている。

カリフォルニア州では2020年1月、ギグワーカーの生活を保障する法律が施行された。条件を満たせば、企業の下で働く労働者として、最低賃金の補償や、病気休業や失業手当を受け取ることができる。

ウーバーなどは同法律に反対し、法廷での争いを続けている。

日本でも今後、ギグワーカーの権利保障について、法規制が進む可能性もある。しかし一方で、コロナショックによる経営の悪化により、企業では、アルバイトなど人件費を削減する動きもでている。

「飲食店から『アルバイトでは雇用が守れないからギグワークでやってみたい』という声も聞いたのですが、それは本末転倒です。

ギグワーカーの単価を『より安く』と価格競争を起こしたり、『何かあったらすぐ切れる』と誇張したりすることは、雇用の破壊につながります。『今すぐ来てくれ、単発でなんでもいい』というギグワークの使い方では、格差を助長すると言われても仕方ないと思います」

それでも、ギグワークが秘めている可能性は大きいという。

「人口減少が進む日本では、これから労働人口が加速度的に減少します。限られた労働力を回すだけでは、日本は立ち行かなくなります。

人材の流動性を高める意味でも、オンデマンドに、すきま時間を使って、一人ひとりがスキルを活かして収益を上げられるのがギグワークの良さです。企業側には社員、派遣社員、アルバイトをしっかりと守り、その上で必然性がある業務に、ギグワーカーを積極的に取り入れることで、継続性のあるギグワークにつながると思っています

ギグワーカーという働き方が、企業にとっても、ギグワーカーにとってもメリットをもたらすものになるのか。

コロナショックで雇用が不安定になっている今こそ、ギグワーカーを守る視点をもって、考えていく必要があるだろう。

(文・横山耕太郎)

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