2021年「厳選採用化」の次に起こることに備える……「選考の科学化」は諸刃の剣だ:就職・転職

品川駅の通勤風景

8月の品川駅の通勤風景(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

報道等を見ているとほぼ確実にリーマン・ショック後のような不況がこれから続く可能性が高い、という情勢になってきました(経済的なところは私も単なる一素人なので確定的なことはわかりませんが)。

人事目線でいえば、これまでずっと企業の人材採用は景気にほぼリンクしてきました。つまり、求人数や求人倍率は「どんと減る」ことが予想されます。

新卒採用でいえば、この6月のリクルートワークス研究所の最新調査で、前年20卒が1.83倍であったのが、今年21卒は1.53倍と(学生数をほぼ同じとすれば)、約8割の求人数にまで減りました。

リーマン・ショック翌年でも1.63倍であったことを考えると、それよりも低い数字です。今回のコロナショックはリーマン・ショック以上に経済的な影響が大きいと言われています。やはりその通り、企業の採用数激減による「厳選採用化」は現実のものとなりそうです。

何が起こるか? まず、単純に「企業に入社しにくくなる」

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写真はイメージです。

撮影:今村拓馬

さて、これだけだと「厳選採用」というのは「採用数が減る」ということですが、そのことによって質的にもいろいろな変化が生じます。

まず、採用数が減るということは、今まで採用していた中で評価上位者のみを採用すればよくなるため、採用基準が上がって、各社の入社難易度が高くなります。そのために、就職や転職を希望する人からみれば、今までよりも多くの会社を受験しなければいけなくなります。

すると、企業側からみれば、応募者が増えます。つまり、採用基準は上がるにも関わらず、一方で応募者は増えるため、結果として合格率がとても減るわけです。

今でも新卒採用における大企業の合格率は1%程度ですが、さらに低下する可能性もあります。

ここしばらくの「売り手市場化」によって、就職・転職希望者の活動コストは減っていましたが、就職・転職活動の社会的コストが高くなり、「就職活動が学業を阻害する」などという問題がまた言われ始めるかもしれません。

選考コストが増大し、選考の「科学化」が進む

ガラス板でブレーンストーミングをする人たち

Shutterstock/GaudiLab

応募の増加は、企業側にとっては、募集に苦しんでいたこれまでからすれば「うれしい悲鳴」ではあるものの、応募者が増えれば増えたで問題が起こります。

たくさん応募があればその中に優秀な人材もいるのでしょうが、それを見つけ出す「選考コスト」が増えてしまうのです。ゆっくりと選考していては辞退が増えますし、属性などでばっさりと落としていては優秀層を逃してしまいます。

これを解決するために、

「初期選考へ適性検査を導入し、ばっさりと応募者を減らす」

「面接パワーが不足するために録画面接/AI面接を導入する」

などが起こるでしょう。

ある意味「データ採用の促進」ですが、そのために企業は、これまでの採用者や自社のハイパフォーマーを分析して、科学的にデータを使った選考基準の策定が必要となるでしょう。

科学化・データ化すれば、きちんとやれば人間よりも精度の高い選考ができますが、中途半端なデータ採用を行えば、間違った人を正確に採ってしまうことにもなりかねない恐れがあります。

一方、「異能人材」がなかなか採れなくなる

集団面接の様子

Shutterstock/milatas

また、選考の「科学化」とは、別の言い方をすれば「ハイパフォーマー」の傾向を調べて、それに従って選考を行うことで、採用人材の「最大公約数化」を行うこととも言えます。

データ採用にも当然限界があります。

データ傾向からは外れてはいるが、会社にとって重要な役割を担ってくれるかもしれない「異能人材」を、他に傾向に合う候補者がたくさんいるのにも関わらず、直感に従ってリスクを取って採用することが、しにくくなります。

つまり企業の採用から多様性が減り、下手をすると低リスクの無難な人しか採らないようになる可能性があるということです。

企業側もここはあえて、少数派の「異能人材」もきちんと意識してターゲティングした「ポートフォリオ採用」(求める人物像や採用基準を細かく分けて、採用目標設定した採用を行うこと)をしていくなど、注意しなければならないところです。

ふつうにやっても応募者がたくさん来る中ではしにくい経営判断ですが、少数の異能人材のためだけに工夫した採用チャネルもコストをかけて実施した方がよいでしょう。

採用経験者が減り、組織の採用力が低下する

誰もいないオフィス

Shutterstock/luchunyu

最後の「厳選採用化」の問題点は、採用経験者が減ることです。

ふつうに考えれば、厳選採用=少数採用=効率化志向=低コスト化となるので、採用担当者数は減らされることが多い。実際、私のクライアントでも、厳選採用化に伴って、採用チームを解散したり、一人を残して現場へ異動させたりするところがいくつもあります。

しかし、これによって、社内の手練の採用経験者が激減してしまいます。これまでもこういうことは不況期に繰り返されてきましたが、いつか来る好景気期に必ず「採用担当者不足」「組織としての採用ノウハウ不足」という状況を招きます。

今回の不況がいつまで続くかわかりませんが、中長期的には日本は少子化で「売り手市場」「採用競争市場」であることは変わりません。良い採用担当者がいることは採用力の大きな要素です。

ですから、短期的な対策で、自社の採用ノウハウを雲散霧消させてしまっては大変もったいないのではないかと思います。

短期的な視野で右往左往せず粛々と採用活動を

通勤風景

撮影:今村拓馬

まとめますと、「厳選採用化」は少数採用ですから、要は「採用がしやすくなる」ことにもみえる面もあり、「コストをかけない」「効率的に行う」という方針になりがちです。

しかし、あまりに極端にその方針を進めると、本稿で述べたような様々な問題点が生じます。

再度景気が向上し「売り手市場化」した際には、これまで以上に人が採りにくくなる可能性があるということです。

私のお勧めは、会社の体力が許す限り、この不況のタイミングでも採用活動量を減らさずに、粛々とすべきことをしてはどうかということです。せっかく募集がしやすくなるのですから、データ分析もしやすいですし、面接などの選考機会も増えて担当者のスキルやノウハウ育成もしやすい時期です。

そして、言うまでもなく、不況期は優秀な人材が最も採用しやすい時期なのです。

ここで、今まで採用できなかったようなレベルの高い人材を確保して、来たる景気向上に備えてはどうでしょうか。


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(文・曽和利光)

曽和利光:京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長を歴任し、2011年に株式会社人材研究所設立。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。近著に『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』。そのほか『コミュ障のための面接戦略』、『人事と採用のセオリー』などの著書がある。

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