ジェフ・ベゾスは起業の際、どのようにしてビジネスの構想を練っていったのだろうか。
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- アマゾンは時価総額1.65兆ドルと、世界屈指の企業として知られる。
- ブラッド・ストーンの著作『The Everything Store』(邦題『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』)によると、アマゾンは「エブリシング・ストア」となるべく計画された。
- だが、CEOのジェフ・ベゾスは同社の立ち上げにあたり、まずは書籍の販売から始めることにした。書籍が一番現実的な商品選択だったからだ。
- 取扱商品カテゴリーがたった1種類だった頃から、アマゾンは現在の顧客体験をすでに作り上げていた。その顧客体験が確立されていたからこそ、取扱商品を多様化することができた。
夢は「何でも買える店」
アマゾンCEOのジェフ・ベゾスの資産額は1970億ドル(『フォーブス』調べ)。世界一の資産家だ。
アマゾンは、ベゾスの「エブリシング・ストア(何でも買える店)」を作りたいという夢から始まった。長い時間、元上司のデビッド・ショーと議論したアイデアだ。
『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー作家ブラッド・ストーンは、2013年に『The Everything Store』(邦題『ジェフ・ベゾス 果てなき野望)を出版し、ベゾスとアマゾンの物語を綴った。
ストーンによると、ベゾスとショーの目標は「メーカーと消費者をつなぎ、世界に向けてあらゆる商品を販売するインターネット企業」を作ることだった。
今やアマゾンの時価総額は1.65兆ドル。同社の株価はコロナ禍のさなかに急騰した。そうでなければ経済はもっと衰退していたはずだ。2020年8月6日、アマゾンは純利益が前年比で倍増し、52億ドルとなったと発表した。
アマゾンは2010年代に入り、世界に向けてアレクサを発表し、ホールフーズを136億ドルで買収し、eコマースを再定義し……と、大きな節目を何度か経験している。
しかしベゾスが最初にアマゾンの構想を思い描いていた時点では、文字通り「何でも」売る店というのは非現実的な目標だと認識していた。そこで、書籍という単独の製品カテゴリーに照準を絞ることにしたのだ。
書店からインターネット帝国へ
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ストーンの筆によると、ベゾスは音楽からオフィス用品まで最大20の商品カテゴリーを考えた。書籍が一番有望だと考えたのには3つの理由がある。
書籍はどこで買っても同じなので、顧客はどのような商品を入手することになるかすでに分かっていること。1990年代、アメリカの書籍業界には取次大手2社(イングラムとベイカー&テイラー)があったため、アマゾンはわざわざ何千もの出版社とやりとりをしなくてよかったこと。さらに、アマゾンは300万点もの書籍だって提供できたこと。どのような書店もそんなに在庫を持てはしない。
というわけで、書籍の「エブリシング・ストア」は理にかなっていたのだ。
「これほど多様な商品があれば、オンラインでしか実現できない店舗を作ることができるわけです」——ストーンはベゾスがレイクフォレスト大学で1998年に行ったスピーチを引用している。
アマゾンがサービスを開始した1995年当時、同社は「地球最大の書店」を標榜していたと、『ロサンゼルス・タイムズ』は報じている。サービス開始から2カ月後には毎週2万ドルを売り上げ、2年後には250万点以上の書籍を取り扱っていたことはBusiness Insiderでも以前取り上げた通りだ。
取扱商品カテゴリーがたった1種類だった頃から、アマゾンは現在の顧客体験をすでに作り上げていた。つまり「アマゾンで買えないものはない」という体験だ。ベゾスは事業についてのアイデアを練り上げ、その上で商品を多様化し、需要に応える方法を探ったのだ。
倉庫前で待機するアマゾン・プライムの宅配車(米マサチューセッツ州、2020年7月撮影)。
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ジャングリーとプラネットオールを買収した1998年、アマゾンは書籍以外にも取り扱いを拡大し始めた。
「アマゾンは変化の時を迎えており、商品の幅を広げる検討をしている」とベゾスは『ニューヨーク・タイムズ』に語っている。この記事の中で、アマゾンは「インターネット上、一番成功した事業者」と表現されている。
ベゾスがつくった会社は、西暦が2000年代に切り替わる頃には本当に「エブリシング・ストア」になった。飛行機もバンもトラックも持っていなかった会社が、2019年には35億個もの小包を配達するまでに成長したのだ。
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)