撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。テーマは、「入社して数カ月で転職するのはアリか?」です。
相談者は新卒入社した社会人1年目の方ですが、年齢に関わらず「転職したばかりだけど、また転職したい」という方にも共通するアドバイスをお届けしますので、参考にしてみてください。
「短期間で転職」に対し、求人企業の抵抗感は薄くなっている
Aさんが転職を考える理由は分からないのですが、入社したばかりで会社を辞めたいという方々からは、こんな理由をよくお聞きします。
「入社前のイメージと異なっていた」
「想像以上に仕事がきつくてついていけない」
「社風になじめない」
「上司や先輩とうまく関係を築けない/上司や先輩を尊敬できない」
また、今年に限っては、コロナの影響による不安の声も聞こえてきます。「入社してすぐに在宅勤務となったが、会社から放置されている気がする」など、自分が歓迎されていない、大切にされていないと感じている新入社員も少なくないようです。
確かに、コロナ禍への対応は企業によって大きな差が表れています。研修・ミーティング・懇親会などを素早くオンラインに移行し、人材育成やコミュニケーションがしっかりできている企業もあれば、対応が遅れて停滞してしまっている企業も……。
学生時代の友人と近況報告をし合うなかで、「うちの会社は非常時への対応力や柔軟性に欠けているのではないか」と、会社に不信感を抱く人もいらっしゃるかもしれませんね。
さて、まずは「社会人になって数カ月程度で転職することは可能か?」というご質問にお答えします。
結論から言えば「十分可能」です。
社会人3年程度未満の人たちは「第二新卒」と呼ばれます。少子化が進む近年、大手企業といえども新卒採用に苦戦気味。新卒採用予定数を満たせず、第二新卒を対象に中途採用を行っています。
一方、新卒入社した会社を3年未満で辞める人も3割ほど存在するため、「第二新卒」の中途採用マーケットが確立されているのです。
昔は「石の上にも3年」と言われ、入社3年以内で会社を辞める人は「忍耐力がない」といった厳しい目が向けられたものですが、最近はそうでもありません。
短期間、かつ社会の経験や知識が乏しい状態での就活では、「企業選びの判断を誤ることもあるよね」「入社後に自分に合わないと気づいたなら仕方がないよね」と、企業側も理解を示しています。新卒入社早々に転職する人に対する捉え方は、以前ほどネガティブではなくなっています。
短期間での退職、どんな理由なら納得してもらえる?
ただし、「転職の動機」「在職期間中の過ごし方」はシビアに見られています。
面接では「なぜ転職したいのか」「入社からこれまで、仕事にどう取り組んできたのか」を聞かれます。その受け答えから、「この人は逃げているだけだな」「結局また同じ理由で辞めてしまうのではないか」と思われたら採用されません。
「目的意識や今後のキャリアビジョンをしっかり持っていて、その実現のためにキャリアを選択し直そうとしているのだな」と認められれば、入社2~3カ月での転職も受け入れられるものです。
どんな転職理由であれば、応募先企業から理解されやすい、受け入れられやすいか、具体的に例を挙げてみましょう。
採用活動用の会社案内と実態が大きく異なっていた
採用向けのパンフレットやサイトなどで紹介されている内容、採用セミナーや面接で語られた内容と実態がまったく異なっていた……というケースは理解されやすいと言えます。
じっくり考えた結果、自分の方向性が見えた
内定以降もいろいろな情報を見聞きしたり自分で考えたりして、「入社予定の会社は自分が目指したい方向性と違うのでは」と思い始め、入社するとやはりギャップを感じた。あるいは、入社した会社で実際に働くなかで、「本当にやりたいことはこれじゃない」と気づいた——。
こうしたケースの場合、応募先企業に対して「御社は自分が目指す方向性に合っている」「御社なら本当にやりたいことができる」といった「説得力ある志望動機」を併せて語れれば、受け入れられやすいでしょう。
どうしても社風になじめない
企業研究をしっかりしたつもりでも、実際に入ってみないと社風は分からない……というのは、人事担当者も理解しています。
「この人は、うちの会社なら社風や価値観が合いそうだ」と思われれば、採用される可能性があります。
ただし、注意すべきことが一つ。「社風に合わない」と「職場の人間関係がうまくいかない」を混同している人も多いのです。自分が不満を抱いているのは、社風なのか人間関係なのかを、しっかり見極めてください。
「社風に合わない」と「人間関係がうまくいかない」は別物。何が本当の原因なのかをよく考えてみよう。
tuaindeed/Shutterstock
「人間関係」であれば、コミュニケーションのとり方を変えてみたり、部署異動の希望を出したりすることで、解決できるかもしれません。そうした努力もしないまま、今の人間関係から逃げようとしているだけだと見られれば、受け入れられません。
人間関係への不満は、どんな会社に行っても起こり得るもの。安易に転職に踏み切らず、まずは改善策を考えて行動を起こしてみましょう。
納得できないことに対して、改善を試みたが叶わなかった
人間関係にしても、仕事の方針や進め方にしても、自分の希望通りにならないから辞める……ということでは、「逃げ」と見られてもしかたありません。
「何度も意見、提案した」「直属上司のさらに上の上長にも相談した」など、状況改善のために努力したかどうかが問われます。
なお、職場で一見理不尽に思えることでも、何らかの背景や事情があってそういう方法が取られていることもあるものです。不満を述べるだけでなく、理解を深めようと努めることも大切ですよ。
短期間の経験も、「アピール材料」として活用する
上記を参考に、自分が短期間で会社を辞める理由に「妥当性」「正当性」があるかどうかを自問自答してみてください。
妥当と判断したら、転職理由をなるべく具体的に伝えられるよう、整理・言語化しておくといいでしょう。
さて、中途採用の場合、応募の際に「職務経歴書」を提出することになります。社会人歴数カ月であれば、当然書くことがなく、スカスカになってしまいます。
そこで、「自己PR欄」を設けて、次のような項目を記載することをお勧めします。
- 受けた研修プログラム内容
- どんな心構えで仕事に取り組んでいたか
- 短期間ながら、業務を通じて学んだこと、身につけたこと
- 小さな目標でも達成したこと、達成するために努力・工夫したこと
- 壁にぶつかったこと、それをどう乗り越えたか
また、社会人になって数カ月であれば、「職務経験」は学生時代のアルバイトのほうが長い人も多いのではないでしょうか。アルバイトでの経験、身につけたスキル、仕事観なども、職務経歴書に書いてOKです。
「職務経歴書にも一工夫を。自己PR欄を設けて、自分がこれまでに身につけてきたスキルや仕事観を伝えるといいですよ」と森本さん。
撮影:鈴木愛子
「転職するにはまだ早いのでは……」とタイミングを見計らっているよりも、試しに転職活動を始めてみてもいいと思います。転職活動をした結果、転職をやめてもいいのですから。
社会人となった今、学生時代とは異なる視点で企業や仕事を見ることができるのではないでしょうか。
転職活動でいろいろな企業を見たり、面接で話してみたりすることで視野が広がります。今の会社の魅力、今の会社でできることに気づけるかもしれませんし、本当に自分が求めているものが見えてくるかもしれません。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
回答フォームが表示されない場合はこちら
※本連載の第31回は、8月31日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。