500円でAIが英会話力を自動採点、25歳のデータサイエンティストが語る開発最前線

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英会話能力を判定できるAIを開発した山本隼汰さん。

撮影:横山耕太郎

「『英語が話せる』とは、そもそもどういう状況なのでしょうか。AIに英語力を判定させるためには、まずそこから考える必要がありました」

オンライン英会話大手「レアジョブ」のデータサイエンティスト・山本隼汰(はやた)さん(25)は、そう語る。

同社はAIを使って英語のスピーキング力を測定するサービスを自社開発し、2020年6月に運用を開始。オンライン上で録音した音声を人間が採点するのに比べ、大幅なコスト削減が可能になった。

あらゆる分野でAI活用が進むが、実際には実験段階で研究が終わり、日の目を見るサービスは一握りだという。

そんな厳しいAI開発の最前線で、英語力テストAI開発にはどんな苦労があったのか?

オンライン英会話、コロナで追い風

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AIの活用は、大幅なコスト削減につながったという。

Shutterstock

英語のスピーキング力をテストする「PROGOS(プロゴス)」は、オンライン上で指定された英文を読んだり、質問に答えたりした音声を基に、AIが英語力を採点。世界共通の指標(CEFR)に基づき、「発音」「文法」など6項目と総合的なレベルを評価しフィードバックを行う。

レアジョブの場合、人間が行うテストの価格は1回2980円だが、今回開発されたAIによる自動採点は1回500円。採点にかかる時間も最速で2~3分ですむ。

オンライン英会話は新型コロナの影響で在宅勤務が増えたことが追い風となり、登録者を増やしている。レアジョブの2020年4~5月の無料会員登録者は、前年比約2倍に増加。スピーキングテストの受験者も前年比1.5倍 に増えた。AIによるテストの受講数については、「3年後に年間延べ100万人」を目指すという。

人間同士なら分かる正解、AIでは難しく

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開発チームのメンバーと話し合う山本さん(左)。

撮影:横山耕太郎

「音声の書き起こしは、外部のAPIを使って作成しています。回答音声と作成した文字データを用いて、間を開けず流暢に話せているか、質問の中にあった単語や、それと類似の単語を使っているか、単語のレベルはどうか、また文法は正しいかなどが評価のポイントになります。

それぞれのポイントについて、同時に別の仕組みを走らせ、学習データと比較していきます

山本さんによると、AIによる自動採点で最も難しいのが、人間の場合は理解できるような「答えの適切さ」の判断だという。

「当初は『模範解答と同じ単語がどれくらい使われているか』などを指標としていました。しかし、それではなかなか人間が行うようには採点できませんでした。

『文章としては支離滅裂だけど、答えの意味は通じる』ということが人間ならばよくあります。それをAIで再現するのは簡単ではありません

解決の糸口になったのが、テストの採点基準を作っている同僚との会話だったという。

「スピーキングの答えを人間が評価する場合、正しい単語を使っているかだけではなく、because(なぜならば)やeven if(たとえ~だとしても)など、話の展開を示す言葉を注視していることに気が付きました。こうした英語の使い方を、評価ポイントに含めることで、より人間の判断に近づけることができました」

「寝ても覚めても」考える日々

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英会話テストにAI活用するには、困難も多かったという。

Shutterstock

山本さんは千葉大学で統計学を学び、在学中に会計ソフトfreeeでインターンのエンジニアとして勤務。その後AI開発企業を経て、2018年9月にレアジョブに入社した。

本格的な開発を初めて約1年。だんだんとAI採点の精度が上がってきたことで、経営陣の目にとまり、2020年1月には全社プロジェクトに昇格。そこからの6カ月は多忙を極めたが、そこにコロナも加わった。

「 製品化に向けて他チームとの会話が必要なのですが、在宅任務になったことで、雑談ベースですんでいたものが、スケジュール確認が必要になるなどわずらわしさもありました。

製品化して拡大していくための準備や、取るべきリスクなど、寝ても覚めても思考を繰り返していました。サービス発表前の半年間は、開発が忙しすぎてはっきりとは記憶をたどれません」」

「この時期を逃すわけにはいかない」

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AIを使ったテストでは「表現の幅」や「正確さ」などを指標別で評価する。

レアジョブのHPを編集部キャプチャ

山本さんがそこまで開発にのめりこんだのは、チャンスを逃したくないという気持ちが強かったからだ。

AIの技術開発では、開発をはじめても、製品化までに至るケースは多くはないという。山本さんも、自身が開発したAIシステムが発表されたのは初めての経験だ。

「AI開発は実証実験で終わることも多いです。今回の開発では追い風も吹いていました。自然言語処理の研究がここ数年で進み、その成果を取り入れることができました。

またAI開発では、いいデータと、能力のあるメンバーがそろう必要がありますが、その両者に恵まれました。タイミング的に『この時期を逃すわけにはいかない』『とにかくリリースしたい』と必死でした」

AI開発で求められる人材とは?

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山本さんは「技術の理解だけではない力も求められている」と話す。

撮影:今村拓馬

AI活用がもてはやされ、企業は優秀なデータサイエンティストの争奪戦を行っている。

これからのAI開発に求められるのは、どのような人材なのか?

「自分のことは棚に上げて言いますが、ただ技術への理解があるだけでは足りないと思っています。現状のサービスを把握した上で、今どのような問題が起きていて、その解決のために技術でどう貢献ができるのか。それを考えられる人材が、必要とされると思っています」

山本さんは、エンジニアとしてだけでなく、事業の開発にも携わっていきたいという。

大学を卒業した後、大学院で学ぶことも考えましたが、研究よりも事業が好きだったので、企業でサービスを開発する道を選びました。

エンジニアとして技術を開発するだけでなく、技術を使って解決するべき問題に挑戦していく。これからも技術開発と事業開発のいいとこ取りをしていきたいです」

今後AIによるテストの受験者が増えれば、音声データの蓄積が増え、さらなる開発にもつながっていくという。

若きデータサイエンティストの挑戦は、これからも続く。

(文・横山耕太郎)

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