【独占】メルカリ山田進太郎社長が語る「ベンチャーは一回死んだら終わりのゲーム」

山田進太郎氏

業績好調と裏腹な「コンサバティブ」経営 —— 。メルカリ社長・山田進太郎氏の頭の中とは。

撮影:伊藤圭

フリマアプリ大手のメルカリの2020年6月期の連結決算は、売り上げが前年比で48%増の762億円となった。兼ねてから注力していたアメリカ市場では、GMV(流通取引総額)が前年比で88%増の成長を達成し、月間GMVは初めて1億ドル(約105億円)を突破した。

勢いづくメルカリが狙う次の一手を、代表取締役CEO(社長)の山田進太郎氏に聞いた。

「Go Bold」の裏の「コンサバティブ」経営

山田進太郎氏

2020年8月、Business Insider Japanの単独インタビューに応じたメルカリ社長の山田進太郎氏。

慎重に」「緊縮的な経営で」「コンサバティブに」。

過去最高となる売上高を叩き出したメルカリの決算発表。その数日後、人気の少ない六本木ヒルズ内のオフィスで山田氏に対面すると、その口からは、Go Boldを掲げてきたメルカリらしからぬ慎重な言葉が多く飛び出した。

“勝負の年”と位置づけたメルカリの2020年6月期の決算は、三本柱である「メルカリ」「メルペイ」「US市場」の各事業が着実に成長。連結での売上高は前年比約5割増の762億7500万円、日本においては月間アクティブユーザー(MAU)が前年比約3割増の1745万人を記録した。

メルカリ決算資料

画像: 2020年6月期 通期決算資料より

その一方で山田氏は、2020年の1年は緊縮的な経営を続けていくと語る。その大きな理由の一つが、コロナ禍でより一層高まった市場の不透明性だ。

実際、メルカリのGMVが大きな伸びを見せた時期は、緊急事態宣言中と重なっている。決算資料によると、1月から3月にかけては、前四半期の伸びと比較して一時的に取引総額の成長の鈍化が見られるが、4月から6月にかけて数値が大幅に上昇している。

「在宅シフトの影響で(ユーザーの)お金を作りたいという思いが高まったことと、思ったよりも人々の消費マインドが薄れなかった」と山田氏は振り返る。

「1年とか3年くらいの成長のスパンが3カ月くらいに圧縮されてガッと成長した、という感覚。けれど今後はどうなるか分からない。数字を慎重に見ながら、抑えられるコストを抑えて、“セーフモード”な経営を継続していく」(山田氏)

アメリカ市場参入「やり方間違ってなかった」

山田進太郎氏

アメリカ市場での成功は、メルカリ設立当初からの悲願だ。

設立直後から掲げているアメリカ市場への挑戦も、コロナ禍で追い風が吹いた。

そもそも「アメリカ市場での1カ月の流通総額で1億ドル(約105億円)」の達成は、当初から「上場後、1年半以内に」と掲げていた目標だった。

「投資家からは毎回、どうなんですか?と質問されていた。正直、前四半期やその前ならば『(達成は)もしかしたら難しいかもしれないです』と(答えていた)。(到達できたことで)自分たちがやってきたことが方向性として間違ってなかったなと(証明できた)」(山田氏)

アメリカ市場における今後の課題については「(アプリの)ファンダメンタル(基礎的)な改善」を挙げる。

具体的には、価格提案機能を強化することで出品ロスを改善すること、そして即日配送(Mercari Now)の地域拡大や、それに伴う配送ロスの改善だ。メルペイなどの日本で先行しているサービスの投入はまだ考えていないという。

ウェブの取りこぼしを防ぐ

ウェブ

WITH COVID-19戦略と銘打たれた強化施策の一つが、「モバイルからウェブへ」だった。これまでアプリの体験からするとシンプルすぎたWeb版メルカリにもテコ入れ。

メルカリウェブサイトより

過去の会見では、投資のアクセルを踏み続けることを「規律のある赤字」と表現してきたメルカリ。

そうした姿からは意外とも思えるこうしたコンサバティブな姿勢は、決算会見で発表された「2021年期戦略」にも現れている。目を引くのは、強化するものの一つに「モバイルからウェブへ」が掲げられていることだ。

この一文を掲げた理由として、山田氏は「(コロナの影響で)パソコンへの回帰が起こっている」と分析する。

「家にいる時間が増えて、パソコンで調べながら出品するケースも増えてきています。メルカリはウェブの機能が後回しになっていて、取りこぼしが多かった。SEOなどウェブをスタンダードな使い勝手まで上げるだけで、高齢者も含めて今まで使っていなかった層により届けられるのではと」(山田氏)

ウェブへの注力は新規機能の追加というよりは、あくまで今まで注力できていなかった部分の巻き返しが主な理由のようだ。

ベンチャー経営は「1回死んだら終わりのゲーム」

コロナ

山田氏の発言から見えてくるのは、不確実性が高い市場で「生き残る」ための経営方針だ。

撮影:今村拓馬

山田氏が「コンサバティブな経営を」と繰り返す背景にあるものは何だろう。

2015年にメルカリは子会社の「ソウゾウ」を設立し、シェアサイクル「メルチャリ」、地域コミュニティアプリ「メルカリアッテ」、学びのフリマアプリ「ティーチャ(teacha)」などの新規事業に取り組んできたが、2019年にソウゾウは解散。メルカリアッテもティーチャもすでにサービスは終了している。

新規事業も市場開拓も、「芽がない」と思えば潔く撤退する新陳代謝の良さは、メルカリ経営の一つの特徴だ。

現在、同社は「メルカリ」「メルペイ」「US事業」の三本柱に振り切っている。

「(ベンチャー経営は)1回死んでしまったら終わりのゲーム。だからこそ、そうならない対策を重視していく。(けれど)チャンスがあれば新しいことをやっていきたいし、海外も(大きな)投資をすべきところには来ていると思っています」(山田氏)

海外へと本気で打って出ている数少ない日本発のスタートアップとして、シビアな決断を繰り返してきたメルカリ。2019年9月に社長職に復帰した山田氏からは、不透明な市場環境で同社を「死なせない」経営方針で率いていこうという姿勢が見て取れる。

実際、メルカリ拡大の可能性は広がっている。コロナで加速した全世界的なEC化の高まりは、その大きな要因の一つだ。

「EC化率は、世界各国どこでも高まっている。日本はアメリカに遅れを取っていたが、それが今回、バンと高まった。若干の反動があったとしても、元に戻ることはありえない」(山田氏)

後編はこちらから

(聞き手・伊藤有、西山里緒、文・西山里緒、撮影・伊藤圭)

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