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安倍首相、史上最長の在職で残した成果は…。経済は急ブレーキ、残り1年の「不安」と「課題」

安倍晋三首相(第2次安倍政権以降)の連続在職日数が8月24日で2799日となり、憲政史上で最長となった。これまでのトップは安倍首相の大叔父で沖縄返還を実現した佐藤栄作(任1964〜1972)だった。

第1次政権も合わせた通算在職日数でも、2019年11月に明治・大正期に3度組閣した桂太郎の記録を更新している。現役首相の退任目処となる自民党総裁としての任期は2021年9月までだが、残り1年の先行きには不安が頭をもたげる。

「アベノミクス」で経済は良くなったか。

経済政策「アベノミクス」と「新三本の矢」について説明する安倍首相。(2016年5月)

経済政策「アベノミクス」と「新三本の矢」について説明する安倍首相。(2016年5月)

REUTERS/ISSEI KATO

自民党内に有力なライバルがいない中、第2次安倍政権は大型の国政選挙での勝利を背景に「安倍一強」と評される官邸主導の政治を取り仕切ってきた。

ただ、その政治をめぐっては評価は分かれる。読売新聞オンラインは「経済政策『アベノミクス』を進めながら、日米関係を基軸とした外交や安全保障政策で成果を重ねてきた」2020年8月24日)と論評。経済界も、経済最優先の政策をおおむね評価している。

確かに企業の「経常利益」は48兆4000億円(2012年度)から過去最高の83兆9000億円(2018年度)に拡大。有効求人倍率も0.82倍(2012年12月)から1.64倍(2018年9月)で45年ぶりの高水準をマークした。なお、コロナ禍前の2019年12月は1.57倍だった。

実際、人々は好況を実感できていたのだろうか。総務省の家計調査によると、総世帯のうち勤労者世帯の実収入は1カ月平均46万7774円(2012年)から51万2534円(2018年)となり実収入は増加傾向だ。

厚生労働省の国民生活基礎調査でも、1世帯あたりの年間平均所得は537.2万円(2012年)から552.3万円(2018年)と14万円ほど増えた。

ただ、所得の分布状況では平均所得金額以下の世帯は60.8%(2012年)から61.1%(2018年)に。新型コロナ禍で中間層がさらに沈み、貧富の格差が一層拡大することも懸念される。

安保政策をめぐっても評価は分かれる。「積極的平和主義」を標榜する安倍政権は、これまでの憲法解釈を変更。集団的自衛権の一部行使を容認する「安全保障関連法」を成立させた。

これは「戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認」(憲法9条)を憲法で謳った戦後日本にとって、安保政策の大きなターニングポイントとなった。

新型コロナ禍への対応、「真水」は足りているか?

東京・中央区の銀座四丁目(2020年7月23日)

東京・中央区の銀座四丁目(2020年7月23日)

撮影:吉川慧

経済最優先の政策も、新型コロナウイルスでブレーキが掛かった。目下の懸案は、コロナ禍への対応だ。

安倍首相は事業規模で233.9 兆円の対策パッケージについて「GDPの4割に上る世界最大の対策によって、100年に1度の危機から日本経済を守り抜く」と記者会見で自信を見せた。

だがエコノミストは、そのうち融資枠などを除いた「真水」は「61.6 兆円程度」と指摘する

緊急事態宣言でさまざまな業種に「自粛」を要請した一方、必要とされる十分な「補償」が行き渡っていないという不満はなおもくすぶる。

感染拡大の第2波と前後して旅行喚起策「GoToトラベル」の実施に踏み切ったことも、その恩恵が末端に行き届くのかという指摘も含めて、評価は分かれる。

8月のNHK世論調査では「いったん中止すべき」が62%に上った。与党支持層でも53%となり半数以上が「いったん中止にすべき」と回答している。

GDPは年率換算マイナス27.8%、戦後最大の下げ幅に。

GettyImages

4月〜6月のGDPは年率換算でマイナス27.8%。リーマンショックを超えた戦後最大の下げ幅となった。帝国データバンクによると、全国の新型コロナウイルス関連倒産は8月21日現在で458件にのぼる。

生活不安も続く。新型コロナ禍で有効求人倍率は6カ月連続で悪化し、今年6月には1.11倍に。2014年10月以来、5年8カ月ぶりの低水準となった。

消費税は2014年に8%、19年には10%に引き上げたが、増税からほどなく新型コロナ禍が発生。消費喚起の観点から減税を求める声はいまだ根強い。

全世帯に2枚ずつ配布される布マスクをめぐっては、「アベノマスク」と揶揄されたことは記憶に新しい。

相次ぐ議員の逮捕、長期政権の「ゆるみ」か。

河井克行元法相。

河井克行元法相。

REUTERS/Issei Kato

衆院の任期満了を2020年10月に控え、総選挙の可能性も政局報道で取り沙汰され始める中、党内の国会議員からは逮捕者が相次いでいる。

側近だった河井克行元法相と妻で参院議員の案里氏が2019年の参院選をめぐり地元首長や県議らを現金で買収したなどとして公選法違反の疑いで6月に逮捕、起訴された。(※2人は逮捕前に離党届を提出、受理された)

IR・統合型リゾート施設の汚職事件で逮捕・起訴されていた秋元司衆院議員(離党後は特別会員として自民党二階派に所属)も証人を買収したとして、8月に組織犯罪処罰法違反の容疑で再逮捕された

歴代最長となった長期政権ゆえか、「首相自身や妻の関与が追及された森友・加計学園問題や、自身が主催する『桜を見る会』をめぐる疑惑が表面化」(朝日新聞デジタル・2020年8月24日と「ゆるみ」を指摘する声もある。

給付金めぐる混乱、支持率下降… 「安倍一強」に陰りも。

新型コロナウイルスへの対応が求められる中で、いま検察庁法改正案を改正する必要があるのかという声もあった。

新型コロナウイルスへの対応が求められる中で、いま検察庁法改正案を改正する必要があるのかという声もあった。

撮影:吉川慧

今年に入ってからは「安倍一強」と評された安倍首相の求心力、官邸主導の政治手法にも「陰り」が見て取れる。

記憶に新しいのは検察庁法改正案をめぐる混乱だ。検察幹部の定年延長を盛り込んだ世論の強い反発を招き、改正を断念した。

対コロナ経済策である現金給付をめぐっても、当初の「減収世帯に限った30万円給付」案を土壇場で変更。連立与党を組む公明党の圧力に屈し、一律10万円の「特別定額給付金」を支給することになった。

今年5月のNHK世論調査では、安倍内閣を「支持する」が37%、「支持しない」が45%に。不支持が上回ったのは、2018年の6月の調査以来だった。その後も支持率は下落し続け、8月調査では「支持する」が34%、「支持しない」が47%だった。

首相の健康不安説と「ポスト安倍」の活動活発化

安倍首相が日帰りで検査を受けた慶應義塾大学病院。

安倍首相が日帰りで検査を受けた慶應義塾大学病院。

Yuichi Yamazaki/Getty Images

安倍首相は8月17日に東京・信濃町の慶應義塾大学病院で日帰りの検査を受けた。政界では首相の健康状態を不安視する声もでている。

この週末には、新聞・テレビ局の政治記者の間で「首相が在任連続最長記録の更新を受けて24日に退任の意向を示すのでは」「総裁選までのつなぎは副首相の麻生財務相」という噂も出回った。

これと前後して「ポスト安倍」とされる面々も活動を活発化させている。

菅義偉・官房長官は8月21日、テレビ朝日「報道ステーション」に出演。GoToトラベルが早すぎたのではという声について「やらなかったことを考えたら、大変なことになっていた」と必要性を説いた。一方、自身が総理大臣を目指すかを問われると「考えていない」と否定。

ただ、週刊文春の単独インタビューに応じ、小池百合子知事のコロナ対策に不満を呈するなど、メディアへ露出はしている。なお、公選法違反容疑で逮捕・起訴された河合元法相は、「菅派」とも呼ばれる無派閥議員の中心人物の一人だった。

初当選の頃から首相を目指してきた」と語る河野太郎防衛相も、陸上配備型の弾道ミサイル迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画停止を表明して以降、存在感を高めつつある。

8月14日には日本経済新聞のインタビューで米・英中心の機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」への連携意欲を見せるなど、対中包囲の外交連携策を主張。23日には自身のYouTubeライブで、女系天皇を含めた皇位継承の新たなあり方について検討する必要性を提起した。

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(左から)「ポスト安倍」として名前が取り沙汰される菅義偉氏、河野太郎氏、岸田文雄氏、石破茂氏。

Reuters、Getty Images/Tomohiro Ohsumi、Reuters/Toru Hanai、竹下郁子

一方、陰が薄いのは岸田文雄氏だ。党三役の一つ「政調会長」で自民党の名門派閥「宏池会」の会長でありながら、自身が取りまとめたコロナ対策「困窮者への30万円給付案」が首相の鶴の一声で卓袱台返しの憂き目に合って、顔に泥を塗られた。

昨夏の参院選では岸田氏の地元、自民党広島県連が推薦した現職候補が党中央の肝いり候補との「同士討ち」で落選。この肝いり候補こそ、河合案里氏だった。岸田氏は、安倍首相から2度も泥を塗られている格好だ。

岸田氏は安倍首相からの「禅譲」を視野に入れていると伝えられるが、首相の求心力低下もあり、岸田氏周辺は次期総裁候補としてのアピールに苦心しているという。

こうした顔ぶれをおさえて、世論調査で上位にランクインしたのが、安倍首相と総裁選で3度戦った石破茂・元幹事長だ。安倍政権に対して党内から度々苦言を呈し、2012年の総裁選の地方票では安倍首相を上回り、決戦投票に持ち込んだ。

過去に自民党を一度離党し復党した経緯があることから、国会議員の間では不人気の石破氏だが、ここにきて党内人気が上昇傾向だと伝えるメディアもある。そこには次の総選挙を見据えて「反安倍」の石破氏を担ぎたいという思惑が透けて見える。

なおも残る政治課題…北方領土、東京五輪の行く末は

8月9日、長崎市平和祈念式典に出席した安倍首相。

8月9日、長崎市平和祈念式典に出席した安倍首相。

Carl Court/Getty Images

第2次内閣の発足からおよそ7年8カ月、安倍首相は歴代の内閣総理大臣の中で史上最も長くその職にあった人物として歴史に名を残すことになったが、なおも政治課題は残る。

ロシアのプーチン大統領との間で「私たちの時代で終止符を」と意気込んだ北方領土問題は棚上げとなり、「(東京)オリンピック・パラリンピックが開催される2020年、日本が大きく生まれ変わる年にするきっかけとしたい」と豪語した憲法改正も実現は難しいだろう。

そもそも、来年の五輪開催すら危ぶまれている状況だ。

時事通信によると、安倍首相は24日午前中に慶應義塾大学病院を再び訪問する調整に入った。病院側から検査結果を聴取するためという。

安倍首相の自民党総裁としての任期は2021年9月までと残り1年あまり。

その頃、この国はどんな道を歩んでいるのだろうか。

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