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先生は世間知らず?ある公立小教師が飛び込んだ、一般企業への「先生インターン」

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練馬区の公立小学校教師、二川佳祐さん(左)が、社会課題解決ベンチャーで「先生インターン」をして見えてきたこととは。

「先生は世間知らず」「学校はもっと世の中に対して開くべき」——。

教育現場と社会の断絶は、長年指摘されてきた問題だ。そして、それを根本から解決する策がいまだ打たれていないことは、2020年春の全国一斉休校下で起きた「授業のオンライン化が進まない」さまざまな混乱によっても印象づけられた。

そんな中、いち教師の立場から始められるチャレンジを粘り強く実践しているのが、練馬区立石神井台小学校教師、二川佳祐さん(34)だ。

3年前より東京・吉祥寺を拠点に、教育関係者がさまざまな分野のキーパーソンと交流できる学びの場「Beyond Labo」を主宰するなど、積極的に“外とつながる”活動を続けてきた二川さん。

現職の教師の立場から、学校外とつながる活動を続けるうち、「外の世界を知るほどに、もっと知るべきだという意識が強まった」という

二川さんはこの夏、区教育委員会が入職10年を迎える教師を対象に行う、一般企業を3日間訪問する体験型の課題別研修に参加。「より深く学びたい」という思いから、有給休暇を加えて5日間に期間を延長した。

訪問先の企業を自分で決められる枠に応募し、社会課題を解決するベンチャー企業37社(2020年8月時点)を支援するボーダレス・ジャパンを8月3〜7日に訪問。(二川さんは)一連の体験を「先生インターン」と名づけて、SNSで発信を続けた。

シビれるほどの衝撃の連続

社会事業を行う責任者らにインタビューする機会は、シビれるような体験だったと二川さん。

撮影:鈴木愛子

研修期間中は、ボーダレス・ジャパンの事業の一つ、先生たちが情報交換するコミュニティ「先生の学校」を率いる三原菜央さんが窓口となって、社会事業を行う責任者らにインタビューする現場に同席するなどの体験を重ねた。

それらの体験はすべて、二川さんにとって「シビれるほどの衝撃の連続だった」という。

例えば、先生インターン初日には、ホームレスを対象にした職業紹介事業「いえとしごと」を展開するRelight代表の市川加奈さんの当事者面談に同席。

二川さんは言う。

「自分とほとんど年齢が変わらず、見た目では抱えている事情がまったく分からない。そんな人が深刻な貧困問題に苦しんでいる生身の状況に直接触れ、僕は“貧困のひの字”も知らなかったのだと自覚しました。また、貧困を生み出す社会の構造も、教科書に書かれていないことばかりです」

学校に通う子どもたちの中には、家庭の状況が複雑な子もいる。

「そんな子どもたちの背景を想像し、どう接していけばいいのか。今後はより多層的に考えられるようになるはずですし、教室での僕の伝え方も当然変わってくると思います」

期間中には、福岡を拠点とするボーダレス・ジャパンの田口一成社長ともオンライン面談が実現。

1時間に渡る対話の中で、「学校も社会も、数字だけで人を評価する価値観を変えないといけない」という話が特に印象に残ったという。

学校で孤立しがちな先生たち

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職員室の風景と会社のそれは、実は似ているんじゃないかと気づいたという。

撮影:鈴木愛子

学びを得たのは、子どもたちに向き合う姿勢や視点だけではない。二川さんは「組織運営のあり方」にも大きなヒントを持ち帰った。

「 職員室の風景とボーダレス・ジャパンの組織形態は、実は似ているんじゃないかと気づいたんです。担任を受け持つ教師は皆、一つひとつのクラスをマネジメントしているのだから、会社における事業責任者と同じではないかなと。でも、なぜか学校では教師がクラスの問題を抱えがちで、孤立してしまう」

そんな二川さんにとって、ボーダレス・ジャパンで働く人たちがイキイキとし、会社としても成長している姿との違いは何なのだろうと考えずにはいられなかったと言う。

「そこで『Monthly Management meeting (通称MM) 』という仕組みがあるのだと教えてもらえたんです。 グループ会社の経営者たちが4人1組のチームを組んで、月に1回、経営課題やアイディアを共有するミーティングをする。すぐにでも取り入れたい」

教師から「助けて」を発信しよう

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「教師が一次情報に触れた体験の数だけ、リアリティのある授業につながる」と話す二川さん。

撮影:鈴木愛子

二川さんが教壇に立つ練馬区の公立小学校では、2019年度からYouTubeなど映像資料を使える設備の導入も進んでおり、二川さんは「総合的な学習の時間」にSDGsについて教える授業も始めていたという。

それでも、「映像を見せるのと、教師自身が体験したことを話すのでは、子どもへの伝わり方は違う。教師が一次情報に触れた体験の数だけ、リアリティのある授業につながる」と話す。

二川さんの言う「一次情報に触れる体験」は、「人との出会い」と直結する。だからこそ、外の世界にひらくきっかけづくりが重要なのだという認識を二川さんは強めた。

では、そのために教師個人ができること、社会全体が取り組むべきことは何なのか。二川さんは「あくまで僕個人の意見ですが」と前置きした上で答えた。

「現場の教師たちの中には、『もっと社会から学ぶべきだし、逆に自分たちから伝えられることもある』と意欲のある人もたくさんいるんです。でも、その方法がわからなかったり、きっかけ作りが苦手だったりするだけ。まずは、教師の方から学校の外に向けて『助けてほしい』と素直に発信することが大事だと思っています」

20年前と比べて外とつながることが格段に容易になったSNS時代には、自分が教師であることを明かした上で 助けや強力の依頼を発信するだけで知恵が集まってくる。

この恵みを二川さん自身も体感し、それが今回の「先生インターン」につながったという。

教師は授業に集中するのが本分なのか?

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Shutterstock

外とつながろうとすると、チャンスが広がる。一方で、保守的な教育関係者からは「教師は授業に集中するのが本分だ」といった批判の声も聞こえてきたのだとも。

「ご指摘のとおりだと思います。しかし、僕は教師が子どもたちに与えられる教育とは、授業で学力を与えることだけじゃないと思っています。教師自身が何かを乗り越えようとする気持ち、行動、その時にしか見せられない表情や言葉。 そういったものも伝わっていくと思います 。『挑戦しなさい』『失敗しても大丈夫だよ』と言っている教師本人が何もしなかったら、説得力はありませんよね」

二川さんは言う。

「かっこ悪くても、温度のある人間味のようなものを磨く姿を、子どもたちには見せていきたいんです」

まさに“先生の自由研究”となった夏の学び。5日間の体験から得た気づきについては、担任を受け持っている6年生の児童たちにも報告する予定だという。

また、二川さんを受け入れたボーダレス・ジャパンでも、 グループ各社の社員を学校現場に講師として派遣し、社会問題について授業をする取り組みをプロジェクト化するなど、新しい動きが始まった。ここ数年で、ソーシャル分野に力を入れる企業も増えており、「先生インターン」に続く動きは増える可能性がある。

「今後は地域に暮らす保護者たちが“1日先生”となってキャリア授業をしてくれるような取り組みも始めてみたい」と二川さんの構想は広がる。

学校と社会の間にある壁は、実はほんの少しのジャンプで乗り越えられるものなのかもしれない

(文・宮本恵理子

※8月29日(土)、二川さんは先生インターンの報告会を実施する。報告会への参加はこちらから。


宮本恵理子:1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」などを担当。2009年末にフリーランスに。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆する。主な著書 に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

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