Samantha Lee/Business Insider
- トランプ大統領の懸念を鎮めるため、中国のバイトダンス(字節跳動)は動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の買収協議をアメリカのテック企業と進めている。最有力候補はマイクロソフトで、買収額は100億~300億ドル(約1兆600億~3兆1800億円)と言われている。
- トランプ大統領はTikTokの禁止を目指す2つの大統領令に署名している。大統領令の正当性 —— 法的強制力があるのかどうか —— には疑問が残る。
- TikTokは8月24日(現地時間)、アメリカ人とバイトダンスの「あらゆる取り引き」を9月以降禁止する8月6日の大統領令の差し止めを求め、トランプ政権を提訴した。
- TikTokは、アメリカ政府が「適正な手続き」を取っておらず、安全保障上のリスクがあるとの主張を裏付ける証拠はないと訴えている。
- TikTokをめぐって、アメリカでは今、何が起きているのか。今後の見通しと合わせて見ていこう。
アメリカの政治家たちがTikTokを気にし始めたのは、アプリがアメリカに初上陸した2017年11月のことだ。TikTokの親会社バイトダンスはアメリカで動画投稿アプリを提供していた「Musical.ly(ミュージカリー)」を買収。Musical.lyは1年後に閉鎖され、TikTokと合併した。
Musical.lyの運営チーム。左の写真の一番前にいるのが、創業者のAlex Zhu氏。
Musically
Musical.lyは、TikTokより短い15秒間の口パクの音楽動画を作ってシェアするアプリだった。その買収額は10億ドルだった。
Source: Business Insider
中国は、2016年にトランプ大統領が就任して以来、アメリカ政府の標的になっている。大統領は新型コロナウイルスの感染拡大を中国のせいにし、中国企業は自社製品を使って、中国政府のためにアメリカ人をスパイしていると非難してきた。
アメリカのドナルド・トランプ大統領と中国の習近平国家主席。
Artyom Ivanov\TASS via Getty Images
2019年、TikTokの人気が上昇する中、政治家たちはアプリと中国とのつながりをさらに注視した。アメリカの安全保障や若いユーザーのプライバシー、コンテンツ管理にとってリスクになり得るとの懸念を示した。
共和党のジョシュ・ホーリー上院議員。連邦議会の中で、TikTokを最も激しく批判している1人だ。
Joshua Roberts/Reuters
TikTokは2019年、13歳未満の子どもから親の同意なく個人情報を違法に収集したとして、米連邦取引委員会(FTC)に570万ドルの罰金を支払った。
それ以降、子どものプライバシーを擁護する人々は、TikTokが方針を変えず、違法に入手した動画やその他のコンテンツの削除を拒否して、FTCとの合意を破っていると非難している。その結果、FTCと米司法省は現在、TikTokが2019年の合意に従って行動していないのではないかと、調査している。
安全保障の問題以外にも、TikTokは特定の動画 —— 政治的なコンテンツや「文化的に問題のある」コンテンツ、同社がいじめを受けやすいと見なしたクリエーターによるコンテンツなど —— を検閲しているのではないかとの疑惑を持たれている。
Source: Business Insider, Business Insider%!(EXTRA string= )
2019年11月、対米外国投資委員会(CFIUS)による調査が始まった。CFIUSは、安全保障上のリスクという観点から外国企業のビジネスを承認または拒絶する権限を持つ委員会だ。調査はバイトダンスによる2017年のMusical.ly買収をめぐるものだった。
REUTERS/Leah Millis
トランプ政権下で、CFIUSはアメリカを拠点とする企業を買収しようとした中国やシンガポールのテック企業を阻止してきた。2019年には、性的マイノリティー向けのデートアプリ「Grindr」の親会社である中国企業に対し、取り引き内容が事前にCFIUSに提出されていなかったとして、プラットフォームを売却するよう命じた。これと同じ理由で、CFIUSはバイトダンスとMusical.lyの取り引きを見直すとしている。
Source: Business Insider
トランプ政権がTikTokのアメリカでの使用禁止を検討していることを初めて公言したのは、7月上旬のことだった。ただ、どのようにして禁止するつもりなのか、詳細は明かされなかった。専門家は、トランプ大統領がアプリ全体を法的に禁止できるはっきりとした方法はないと指摘している。
トランプ大統領とポンペオ米国務長官。
Tuan Mark/Getty Images
7月上旬、ポンペオ国務長官はTikTokの使用を禁止する理由として、安全保障上の脅威を持ち出した。その数日後、トランプ大統領は、新型コロナウイルスのパンデミックをめぐって、中国を罰する1つの方法として、アプリの使用禁止を検討していると発言した。
Source: Business Insider
7月末にかけて、アメリカではトランプ政権がTikTokに対して取り得る2つの措置を比較検討し始めたと報じられた。アメリカ全土でTikTokを禁止するか、バイトダンスにTikTokのアメリカ事業を売却させるか、だ。
Reuters/Dado Ruvic
Source: Business Insider
トランプ大統領の動きに先んじようと、バイトダンスはアメリカ事業を売却する選択肢を模索し始め、アメリカの投資家やテック企業からオファーを受けた。トランプ大統領はこれを渋々認め、9月15日までにTikTokのアメリカ事業を売却するようバイトダンスに求めた。
Reuters File Photo
トランプ大統領はバイトダンスに対し、9月15日までアメリカの買い手を見つけるための猶予を与えた。この日までに売却できなければ、TikTokの使用を禁止すると大統領は発言している。ただ、どうすれば大統領が禁止できるのかは不明だ。
TikTokのアメリカ事業の評価額は100億ドルから500億ドルの間と見られていて、買収できるアメリカ企業は限られる。バイトダンスとの買収交渉に入ったことを認めているのは、マイクロソフトだけだ。
バイトダンスのCEO張一鳴氏(左)とマイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏(右)。
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マイクロソフトは、TikTokのアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドにおける事業の買収を考えていると認めた。
他にも、オラクルやアルファベットといったシリコンバレーの企業の名前が買い手候補として挙がっている。ツイッターもバイトダンスとの「予備」交渉をしていると報じられているが、同社が高額なTikTokを買収するには何十億ドルと調達しなければならないだろう。
ツイッターのCEO、ジャック・ドーシー氏。
Drew Angerer/Getty Images
Source: Wall Street Journal
しかし、こうした買収交渉は無に帰す可能性もある。バイトダンスはトランプ大統領を一時的になだめるためだけにアメリカの買い手からの申し出を受けていて、この大人気アプリを手放す気はないとの報道もある。
バイトダンスの共同創業者でCEOの張一鳴氏。
Zheng Shuai/VCG via Getty Images
Source: South China Morning Post, Business Insider
バイトダンスの売却の申し出にもかかわらず、トランプ大統領は攻勢に出ている。8月上旬には、アメリカ人とTikTokまたはバイトダンスとの「あらゆる取り引き」を9月半ば以降禁止する大統領令に署名した。
大統領令に署名するトランプ大統領。
Kevin Lamarque/Reuters
Source: Business Insider
その1週間後、トランプ大統領はCFIUSの調査結果に基づき、2つ目の大統領令に署名した。この大統領令によって、TikTokのアメリカ事業の売却期限は11月まで引き延ばされた。
ムニューシン米財務長官。
Alex Wong/Getty Images
Source: Business Insider
だが、TikTokも戦わずして去りはしない。8月6日の大統領令の差し止めを求め、TikTokは8月24日、トランプ政権を提訴した。安全保障上のリスクがあるとの政権側の主張に反論し、「適正な手続き」を求めるという。
Associated Press/Patrick Semansky; Reuters/Dado Ruvic
TikTokは、8月6日の大統領令は合衆国憲法修正第5条が保障する適正な手続きがなされていないと主張するという。また、TikTokが安全保障上の脅威であり、中国政府にユーザーデータへのアクセスを提供しているとのトランプ政権の主張を裏付ける証拠は見つかっていないとも訴える予定だ。
TikTokの訴訟を裁判所が検討する間、大統領令は少なくとも先延ばしされる可能性が高い。TikTokは訴訟が終わるまで、大統領令に対する差し止め命令を申請することができる。
Drew Angerer/Getty Images
TikTokのアメリカ事業を売却するために、バイトダンスが最後まで協議を進めるかどうかもまだ分からない。ただ、そうせざるを得なくなるまで、TikTokは1億人のアメリカのユーザーと決別するつもりはなさそうだ。
バイトダンスの共同創業者でCEOの張一鳴氏。
Visual China Group via Getty Images; Ruobing Su/Business Insider
(翻訳、編集:山口佳美)