グーグルは2020年初め、製品のインクルージョン(受容性)とダイバーシティ(多様性)に寄与する社員が、社内全体で2000人以上にのぼると発表した。
「インクルージョンサポーター」によって構成されるこのチームは、製品の設計段階で性別、年齢、人種、障がいといったことを考慮するためにつくられたものだ。
だがそもそもの成り立ちは、一時あらゆるところで話題になったグーグルの「20%ルール」に端を発している。20%ルールとは、社員が勤務時間の20%を通常業務以外のことに費やしてよい、というものだ。
「20%ルール」はグーグルという組織を特徴づける要素のひとつだ。
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プロダクトインクルージョンチームを統括するアニー・ジーン・バプティステは、このチームがつくられた経緯を著書『Building For Everyone』の中で明かしている。
どうすれば製品開発プロセスに「インクルージョン」という視点をもっと取り込めるだろうか——バプティステの著書には、集まったグーグラー(グーグル社員)たちの検討プロセスが記されている。
「ダイバーシティやインクルージョンといったテーマは面白い20%プロジェクトになると、私を含む何人かの社員は考えた。当時、ダイバーシティやインクルージョンと言えばたいてい文化的な話題や占める割合についての議論ばかりで、製品やビジネスの文脈で議論されることはなかった」
だが、事態が大きく変わる瞬間が訪れた。ピーター・シャーマンというエンジニアが、バプティステのチームに連絡してきたのだ。
シャーマンは、グーグルのスマートフォンPixelのカメラに付いている近接センサーを担当していた。彼はバプティステの著書にこんなこぼれ話を寄せている。
「カメラもセンサーも、皮膚の色味に関係なく、どんな人に対しても機能しなくてはいけなかった。しかし開発チームは規模が小さく、適切なチューニングの設定とその検証に必要な幅広い対象を、どうやって確保したらいいか苦労していた」
あらゆるグーグル製品に関与
バプティステが2015年にグーグラー主催の会議「ダイバーシティ・サミット」でシャーマンの悩みを取り上げたことから、この問題が議論されるに至った。シャーマンはこう振り返る。
「このサミットに参加した社員の多くが、肌の色味を調節した画像に満足いかなかった経験を口にした。しかし、カラー写真の開発においてかつて存在したバイアス[編集部注:例えばコダック社は1980年代まで、自社フィルムを現像する際には白人の肌の色を色彩調整の指標としていた]のことや、インクルージョンを念頭に置いて開発すればカメラの使い勝手を改善できることは、ほとんど知られていなかった」
バプティステは、「早い時期にさまざまなプロジェクトチームと議論をしたことで、いろいろなアイデアが浮かび、私たちチームの気持ちに火がついた」と記している。
この動きが徐々に発展し、ついにはグーグルの製品すべてに関与するプロダクトインクルージョンチームが生まれたのだ。
プロジェクトインクルージョンチームはグーグルのVRヘッドセット「Daydream」の開発にも携わった。
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バプティステが一例として挙げているのが、VRヘッドセット「Daydream」だ。プロジェクトインクルージョンチームが関わった開発プロセスには、頭のサイズや眼鏡の有無だけでなく、性別や髪質の違いといった要素まで考慮に入れられていた。
彼女はこう書いている。「垣根を超えたインクルージョンという考え方が、製品に大きなインパクトを与えることに気がつき、これを模索する試みに乗り出した。そして20%チームは、最終的にはプロダクトインクルージョンチームとして知られる存在に成長した」