ソニーは、2020年のフラグシップ機「Xperia 1 II」などのSIMフリー展開を発表しているが、発売日などを見ていると順風満帆のスタートとは言えないようだ(写真はNTTドコモ版)。
撮影:小林優多郎
ソニーはようやく、SIMフリー市場に本気になってきたと言えそうだ。
8月18日、Xperia 1 IIなど3機種において、SIMフリーモデルを発売すると発表。これまで、ごく限られた機種でSIMフリー版を展開したことはあったが、ここまでラインナップを強化してきたのには驚きだ。
ただ、ラインナップや詳細を見ると、Xperiaファンからすると正直、首をかしげたくなる内容になっている。
Xperiaは、他のSIMフリースマホと比べて決して安価とは言えないプレミアムな路線を突き進んできた。しかも、SIMフリー市場においては後発と言える存在だ。
それだけに、「なぜ、この時期に発売するのか」「なぜ、この仕様なのか」と疑問がいくつも湧いてくる。
「Xperia 1 II」自体にはソニーの魅力が詰まっている
2020年2月、Xperia 1 IIを発表したソニーモバイル社長の岸田光哉氏。
出典:ソニー
まず、注目は「Xperia 1 II」だ。
ソニー初の5G対応スマホであり、同社のデジカメ「α」の技術ノウハウを参考にし、瞳AF(オートフォーカス)や世界初となる最高20コマ/秒のAF・AE(オート露出)追従高速連写などに対応する。
「Photography Pro」という専用カメラアプリも搭載し、マニュアル設定のUIや機能など、αから継承された操作性を取り入れており、ソニーファン、αユーザーにはたまらない仕様となっている。
Xperia 1 IIには通常のカメラアプリとは別に「Photography Pro」という専用アプリが搭載されている。
撮影:小林優多郎
Xperia 1 IIはすでに5月にKDDIから、6月にNTTドコモから発売されている。
ソニー初の5Gスマホということもあり、筆者も手にするのを待ちきれず、発売日である5月22日の9時30分(キャリアショップよりも30分早い)、家電量販店が開店すると同時にauコーナーにダッシュし、Xperia 1 IIを手に入れたほどだった。
SIMフリー機は“後出しジャンケン”ではないか
Xperia 1 IIのSIMフリー版とNTTドコモ・KDDI版の主な違い。
出典:各種資料よりBusiness Insider Japan作成
Xperiaの最新モデルを発売日の朝に買う、筆者のような前のめりな人間からすると、「なぜキャリア版が発売される前にSIMフリー版の存在を教えてくれなかったのか」という、やるせない思いがフツフツと湧いてくる。
SIMフリー版はフルセグ(テレビ視聴)には非対応だが、メモリーが12GB、 ストレージが256GBで、キャリア版のメモリー8GB、ストレージ128GBに比べて増量されている。また、デュアルSIMに対応し、2枚のSIMが一度に挿さるという優れモノだ。
このようなSIMフリー版の仕様に目を輝かせる人は、すでにXperia 1 IIのキャリア版を発売日に買ってしまった人ではないか。
ソニーというブランドやXperiaを愛している人たちこそ欲しがる仕様であるSIMフリー版を、なぜ後出しジャンケンのごとく、このタイミングで発表するのか。ちょっと裏切られた気分さえしてくる。
遅すぎる発売日から感じるある“疑念”
SIMフリーXperia発表のプレスリリースには、1と5が8月28日、1 IIが10月30日発売予定と明記されている。
撮影:小林優多郎
ソニーでは今回、Xperia 1 IIに加えて、2019年2月発表の「Xperia 1」と2019年9月の「Xperia 5」もSIMフリー版として発売する。
ただ、 Xperia 1とXperia 5が8月28日発売なのに対し、Xperia 1 IIは10月30日と発売日が遅い。これでは、Xperia 1 IIがキャリア版の最新機種であり、ひょっとしてキャリアに配慮してSIMフリー版を遅く発売する気なのか、などとうがった見方をしてしまう。
ソニーはユーザーよりキャリアを向いてビジネスをしているのではないか……そんな気持ちにさせられるのだ。
旧機種とほぼ変わらない「Xperia 8 Lite」
9月1日以降、日本国内の一部MVNO事業者を中心に販売される予定の「Xperia 8 Lite(J3273)」。
出典:ソニー
もう1つ、ソニーの戦略で不可解に感じるのが、8月26日発表の「Xperia 8 Lite」だ。
日本国内の一部MVNO(格安SIM)事業者を中心に発売される予定だが、仕様を見ると2019年10月に発表された「Xperia 8」とハードウェア的にほとんど一緒。
なぜ、ハードウェア的な仕様がほとんど変わらない機種を「Lite」という名称をつけて販売しようとしているのか。そもそも何が「Lite」なのか。その理由がいまいち見えてこない。
Xperia 8 Liteと8を比べると、大きな違いはあまりない。
作成:Business Insider Japan
一昔前、Xperiaは次々に新製品が出てきて、さらに型番が迷走していたこともあり「買い時が分からない」状態が長く続いていた。
それが、「Xperia 1」というフラグシップモデルの登場以降、1はハイエンド、数字が増えるごとにエントリーモデルで、最後は10というルールになり、すっきりとわかりやすくなった印象があった。
しかし今、ソニーモバイルのXperiaサイトを見てみると、日本国内向けにXperia 1 II、Xperia 1、Xperia 1 Professional Edition、Xperia 5、Xperia 8、Xperia 8 Lite、Xperia 10 II、Xperia Aceが並ぶ。
欲しい機種があったとしても、販路が限定されているなど、自分の契約しているキャリアで欲しい機種があるとは限らない状態だ。自分にあったXperiaを選ぶのに、相当難儀なことになっている。
シェアが低迷しているソニーモバイルの行く末は?
8月4日に公開されたソニーの2020年度第1四半期決算資料によると、Xperiaの販売台数は90万台から80万台へ落ちている(赤枠は編集部による加工)。
出典:ソニー
この辺りのラインナップ展開を見ても、キャリアやMVNOの力関係に配慮するがあまり、販路によって納入する製品を増やしすぎている気がする。
過度にキャリアを重視するスタンスは、結局のところ、ユーザーを混乱させることになりはしないか。
筆者の率直な感想としては、今ならハイエンドのXperia 1 IIと、エントリーのXperia 10 IIだけあれば十分な気がする。
Xperia 10 IIについては、ワイモバイルで3万9600円という値段なのだから、これこそSIMフリー版を投入すれば、相当な売り上げを期待できるのではないだろうか。
Xperiaは、製品自体は本当に素晴らしいだけに、もうちょっとシンプルでユーザーフレンドリーな製品ラインナップを揃えたり、見せ方を工夫したりする余地があるように思う。
ここ数年、Xperiaの販売台数は半減しつつある。先行きが心配で仕方ない。
(文・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。