コロナ禍で広がる病院支援の輪も、本当のピンチは「5年後にやって来る」という深刻な理由

永寿総合病院

永寿総合病院では、200人近くの大規模院内感染が発生した(2020年4月6日に撮影)。

REUTERS/Issei Kato

「3月に起きた新型コロナウイルスの院内感染の影響で、永寿総合病院はいま運営継続の危機を迎えています」

6月末に立ち上げられた「永寿総合病院を応援する会」のクラウドファンディングページに記載された一文だ。

このクラウドファンディングはSNSを中心に拡散され、当初目標としていた2000万円を開始1週間で達成。最終的には5000万円近い支援が集まった。

「永寿総合病院を応援」SNSで広がった支援の輪

永寿総合病院

クラウドファンディングサービス「READYFOR」内に立ち上げられた、永寿総合病院を応援する会のクラウドファンディングページ。このクラウドファンディングの立ち上げの中心になったのは、かつて永寿総合病院で勤務していた医師たちだった。

提供:READYFOR

東京都台東区にある永寿総合病院は、地域の中核病院として新型コロナウイルスの流行初期から感染者を受け入れてきた。しかし、3月後半に大規模な院内感染が発覚。

これに伴い、3月25日から5月26日まで2カ月にわたり、外来患者の受け入れなどを停止。その間、病院としての収入の多くが断たれることになった。

クラウドファンディングは、この難局に直面した病院で奮闘する医療従事者たちを支援するために実施されたものだ。

クラウドファンディングサービス「READYFOR」でキュレーター(資金調達をサポートするプロジェクト担当)のマネージャーを務める小谷なみさんは、

コロナによって、以前に比べて病院からの引き合いが増えています。クラウドファンディングですべてを補てんするのは難しいですが、一部の費用や設備投資のお金を補てんしたいとお話をいただくことが多いです」

と話す。

包括的な支援では届かない「隙間」への支援

全国の病院の経営状態

都道府県別に医療機関の経営状態を調査した結果、すべての都道府県で病院の経営状態が悪化していることが分かった。

出典:新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査

コロナ禍において、永寿総合病院と同じように資金繰りに苦しむ病院は多い。

日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体による「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査」でも、前年と比較して赤字病院は7割近くに拡大していた。

「国や行政が大きな予算で救済できれば、包括的で公平性も高いです。ただ、スピード感が足りない、細かなところまで手が届かないといった問題もあります。


今、資金がないと次につなげることができないような、『ピンチです』と私たちにまで声をかけていただいた病院を、最大限サポートさせていただく体制をとっています」(小谷さん)

迅速性が求められる現場の問題において、民間という立場からうまく役割分担を図っていくというのが、READYFORのスタンスだ。

基金

READYFORと東京コミュニティー財団が主催者となって実施している、新型コロナウイルス感染症拡大防止活動基金。すでに複数回、資金を分配している。READYFORが主体となったクラウドファンディングは、創業以来初めてだという。

提供:READYFOR

また、READYFORは、東京コミュニティー財団とともに基金型のクラウドファンディングも実施している。

従来のクラウドファンディングとは異なり、寄付金を集めた上で一定の審査を経た助成団体に配分し、コロナの影響を受けている医療機関や福祉施設などに広く支援を行う仕組みだ。

「最前線で働く人たちに現場での活動に集中してもらえる環境をつくるには、我々がお金を集めて分配していく仕組みを構築するのが一番良いのではないかということで、この形となりました」(小谷さん)

この基金は12月末まで継続される予定だが、8月26日時点ですでに約8億5000万円もの金額が集まっている。

小谷さん

READYFORの小谷さん。READYFORでは、これまでにも採算が取りにくい医療領域の支援や、具体的な医療資源の購入のためにクラウドファンディングなどを実施してきたと話す。

提供:READYFOR

READYFORによると、医療機関を対象にしたものに限らず、コロナ関係の寄付活動は20〜30代を中心に増加しているという。コロナ禍での個人による支援の広がりは、一つの希望といえるだろう。

しかし、クラウドファンディングによる支援は、あくまでも「今大変な状況」に対応するための「輸血的」な支援であることも事実だ。

「5年後に弁済できるのか?」

病院の経営状態

経営指標となる数値を2019年と2020年で比較すると、健診・人間ドックなどの収入の減少幅が非常に大きいことがよく分かる。緊急事態宣言下だった5月は、最も大きく収益が下がっている。

出典:新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査

「新型コロナウイルスの流行によって外来患者が一気に減少。新規の入院患者も減り、緊急性の低い手術も控える傾向が続いた。さらに、人間ドックや健診の数も激減しました」

デロイトトーマツで病院の再編・再生支援などを担当する吉村和也氏は、

「事業構造の特性上、世界中どこの病院も損益分岐点は高い。売り上げが少しでも減ると赤字になってしまう」

と新型コロナウイルスが医療機関に与えた影響を語る。

もちろん、この状況に公的な支援がまったくないわけではなかった。

4〜6月にかけて補正予算が組まれると、福祉医療機構(WAM)を通じて数千万円から数億円規模で、5年間元本、利息が据え置かれる無担保融資が実施された。4月、5月に患者が激減した医療機関にとっては大きな支援となった。

医療機関への支援

政府からの支援として、WAMを通じた優遇融資のほか、新型コロナウイルス感染症の重症患者に対する診療報酬の引き上げや、空病床の確保に対する交付金の支出。さらに、医療従事者への慰労金の支給など、個人・医療機関に対するさまざまな支援があった。それが十分だったかどうかは、現状では判断できない。

出典:厚生労働省

ただし、こういった支援もあくまで「輸血的」な支援だ。患者数が回復しなければ、経営困難な状況は根本的に改善されない。

吉村氏は、「緊急事態宣言が解除された6月以降、外来患者数は回復傾向にあるが、コロナ以前の水準にまで戻るのは難しいのではないか」との見解を示す。

「受診控えする患者の中には、そもそも過剰診療だった方々も含まれていたのではないでしょうか。病院に行って感染するリスクを考えると、そういった方々はおそらく元のように病院に通う状態には戻らないのではないかと思います。


5年後、各病院が本当にWAMの融資を弁済できるのか心配です」(吉村氏)

コロナ以前から抱えていた病院経営の課題

病院

2019年と2020年4月の赤字病院の割合を比較した表とグラフ。2020年は全体で7割近くの病院が赤字となっている。ただし、2019年も4〜5割の病院は赤字だった。

出典:新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査

そもそも、新型コロナウイルスの流行とは関係なく、経営がうまくいっていない病院は多かった。

「需要に対して病院数、病床数が『供給過多』な状態であったことが原因の一つです。


そこで政策として、各病院が地域内で役割分担をする体制の構築を前提とした、病院の機能転換を含む地域内再編の流れがありました」(吉村氏)

日本では、2014年に「医療介護総合確保推進法」が成立。これによって地域医療構想が制度化された。

地域医療構想:2025年に必要となる病床数(病床の必要量)を4つの医療機能ごとに推計した上で、地域の医療関係者の協議を通じて病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制を実現する取り組み。(全日本病院協会より引用)

病院経営におけるマーケティングセンスの必要性

地域医療構想

地域医療構想のイメージ。左側がこれまでの医療提供体制で、右が2025年に目指す形。上から順番に、高度急性期、一般急性期、亜急性期(回復期)等、長期療養の病床数。

出典:財政健全化に向けた基本的考え方(平成26年)

日本では、病気になったときにまず診察を受ける「急性期」の病院が多く、患者の取り合いが生じていた。

そこで厚生労働省は、偏った病床の機能を最適化して「地域で求められる医療」を提供できる体制を構築することによって、結果として病院の収益を確保できる仕組みを作ろうとしていたのだ。

吉村氏は、

「中には、急性期から(需要のある)回復期に分野転換し、リハビリテーション病院として高収益になった病院もあります。急性期でも、ある程度将来の医療需要を見据えて循環器や整形外科などの専門病院にするというのも手です。地域の中で積極的に救急を受け入れたり、高度な医療を提供したり、中核病院としての立ち位置を確保してうまくやっているところもあります。


地域の疾患構成、人口動態を考えて、どう患者数が推移していくのかを考えたときに、うまくポジション取りができている病院が黒字化しています。基本的にはマーケティングと考え方は同じです

と話す。

診療報酬の改定によって、赤字が膨らむ仕組み

厚生労働省

撮影:今村拓馬

また、厚生労働省は、原則2年に1度の頻度で診療報酬の改定を行っている。

高い診療報酬を得るために必要な施設基準(患者1人あたりに対応する看護師の人数など)を厳しくして、医療の最適化を進めつつ、医療費の膨らみを抑えようとしているわけだ(施設基準に対応できない病院が増えると、その分国民医療費は下がる)。

高収益を出し続けるには、病院としての機能を拡充したり、既存の機能を増強しなければ難しい。機能を維持するだけでは、病院の収益性は年々悪くなってしまう。

しかしそのためには、事前に人材の確保や設備投資を行うなど、中長期的な戦略(いわば、事前マーケティング)が必要になる。単独の病院では実現できないことも多い。かと言って何もしなければ、赤字化が進んでしまう。

厚生労働省は、病床の稼働が悪く、効率化が見込めないような病院に対して、再編・統合による医療体制の効率化も提案している。

「コロナ前からの問題」と「コロナ禍の問題」には別途対処を

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JohnnyGreig/Getty Images

新型コロナウイルスは、まさにこのような医療構造の変革期にやってきた“黒船”とも言える。

吉村氏は、

「コロナが発生して、逆に病床が足りないという話があり、病床の削減などの話は立ち消えになりました。ただし、コロナ以後、この問題(病院の再編問題)は再燃することになると思います」(吉村氏)

と話す。

コロナ禍によって、診療報酬の改定は経過措置として延長されたものの、多くは9月30日までだ。医療改革の時計は進み続けている。

5年後にはじまる融資の弁済までに、コロナ前に抱えていた問題を解消できなければ、多くの病院がふたたび経営難に苦しむことになる。

「コロナ前の問題とコロナ禍の問題を切り分けて考えなければならないでしょう。


今後を考えると、やはり場合によっては他病院との統合、機能の転換などの取り組みは必要になってくると思います。

一方で、コロナ禍の経営として、オンライン診療含めて、(元には戻らないと考えられる)外来患者にいかにリーチしていくのかがテーマになると思います」(吉村氏)

調査

コロナ禍で病院のデジタル化は一定数進んだものの、オンライン診療はそこまで拡大していない。

出典:デロイトトーマツ ファイナンシャルアドバイザリー『コロナ禍での国内医療機関への通院状況・オンライン診療の活用状況」に関するアンケート調査結果』

地域医療の拡充と病院経営の黒字化は、間違いなくこの先の持続可能な医療を確保する上で達成しなければならないものだ。

一方で、これまで「過剰」とされてきた病床の余白によって、新型コロナウイルスの感染者を受け入れることができた皮肉な側面があるのも事実だ。

新型コロナウイルス感染症のような世界的なパンデミックが起きうる時代に、コロナ以前の方針の改革だけを進めていては、いずれ手痛いしっぺ返しを食らうことになってしまう可能性もある。

コロナ禍で医療機関が被った大きな困難は、あらためて日本の医療体制のあり方を問い、この先のシビアな判断の必要性を浮き彫りにしたのかもしれない。

文・三ツ村崇志

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