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株価回復も消費者心理は悪化の一途。米経済の行く手を阻む「1200万人失業」

ニューヨーク証券取引所 少女像

ニューヨーク証券取引所(NYSE)前に設置された像「Fearless Girl(恐れを知らぬ少女)」。米経済は回復に向かって力強い歩みを続けられるか。

REUTERS/Brendan McDermid

8月25日に発表された米コンファレンスボード消費者信頼感指数(8月)は84.8。前月(91.7)から大幅に低下し、前月比での改善を見込んでいた市場予想の中心(93.0)を大幅に裏切る結果となった。

2014年5月以来、6年3カ月ぶりの低水準で、現況指数(95.9→84.2)、期待指数(88.9→85.2)ともにまとまった幅で悪化している。

消費者物価指数など直近のハードデータを見ると、個人消費は堅調な回復軌道にあり、住宅まわりの計数(住宅販売や住宅投資)もはっきりと改善しているだけに、こうした消費者心理の悪化は「ねじれ」として非常に目立つ。

株価に連動してくれない消費者心理

アメリカの消費者心理は、基本的に株価と素直に連動する傾向があることはよく知られている【図表1】。

株価 消費者信頼感 乖離

【図表1】アメリカにおける株価と消費者信頼感の乖離。

出典:Macrobond資料から筆者作成

これは、家計の金融資産に占める株式の割合を考えれば当然のことだ。2020年3月末時点で、アメリカのそれは32.5%、ユーロ圏(17.2%)、日本(9.6%)と比べると突出して大きい。

したがって、株価が上昇して家計の保有する株式の含み益が増えれば、当然のことながら消費者マインドは改善し、消費や投資が増えることが期待される。

そうした資産効果の存在は、日本や欧州にはない、アメリカ経済の特徴のひとつだった。

しかし、足もとの数字はなぜかそのように動いていない。上の【図表1】からわかるように、株価はすでにコロナショック前の水準を取り返しているにもかかわらず、消費者心理は腰折れしたままだ。厳密には腰折れ後、まだ「底」を探っているような動きにも見え、やや不気味さを感じる。

「ねじれ」の正体

ニューヨーク 市民 トランプ 辞任 デモ

トランプ大統領に辞任を迫る抗議デモ。政府主導の公的支援の継続性に疑念を抱く市民も増えている。

REUTERS/Jeenah Moon

今回の数字について、コンファレンスボードの景気指数担当、リン・フランコ氏は次のように述べている。

「個人消費はここ数カ月で持ち直したが、消費者は景気見通しや自身のふところ具合に対する不安を深めており、今後数カ月には消費が落ち込む公算が大きい

フランコ氏の指摘は、消費者信頼感指数と同時に発表された雇用に関する調査からも裏づけられる。

「職が十分」との回答は前月の22.3%から21.5%に低下する一方、「就職が困難」との回答が前月の20.1%から25.2%へ大幅に上昇している。

春先以降の消費・投資行動の改善はあくまで、失業保険の上乗せ給付に代表される政府部門による手厚い助成の結果であり、実体経済の自律的な改善(とりわけ雇用・賃金環境の改善)の結果ではないということだろう。

堅調な動きが認められる消費者物価などのハードデータと、悪化の一途をたどる消費者心理の「ねじれ」は、要するに「このような公的支援がいつまでも続くはずがない」という不安に起因するものだと推測される。

そして、そうした不安が払しょくされるためには、新型コロナの収束に賭けるしかないと言わざるを得ない。

目下、11月に予定される米大統領選挙をめぐってさまざまな思惑が交錯しており、なおのこと、トランプ政権下で決定された公的助成の持続可能性に疑義が生じ始めているのではないか。

しかも、期待される追加経済対策(第4弾)については、規模感や失業給付の加算額などをめぐる議論の着地点がいまだ見えず、実体経済の悪化が置き去りにされている印象が拭えない。

「1200万人以上」が職を失ったままの現状

結局のところ、消費者心理が回復するためには、職を得て安定的かつ継続的な賃金を得られる環境が必須だ。

非農業部門雇用者数(Non-Farm Payroll)は、3~4月の2カ月間でおよそ2216万人が失われたものの、5~7月の直近3カ月間で928万人が職を得ている

この数字だけ見ると、株価回復と軌を一にして、経済・金融情勢は「悲観の極み」からの脱却に向かっているように感じられるが、それでも、2216万から928万を差し引いて、およそ1200万人以上が依然として職を失ったままであることを忘れてはならない【図表2】。

非農業部門雇用者数 変化

【図表2】非農業部門雇用者数の変化。

出典:Macrobond資料から筆者作成

雇用の先行きを占う上で重要となる新規失業保険申請件数は、3月半ばから顕著に減っているが、直近を見ると110.6万人と3週間ぶりに増加に転じ、その増加幅(前週比13.5万人増)も3月半ば以来の大きさだった。

4週平均で見れば、減少傾向は続いているため、雇用環境の悪化はすでに底打ちしたと見ることもできる。

とはいえ、4~6月に見られたような「顕著な改善」から「緩やかな改善」に切り替わっていることは間違いなく、この先に「緩やかな改善」からさらに「横ばい」へと切り替わることがないか、注視すべき雰囲気も漂う【図表3】。

新規失業保険申請件数 推移

【図表3】新規失業保険申請件数の推移。

出典:Macrobond資料から筆者作成

繰り返しになるが、いまだに1200万人以上が職を失ったままであり、雇用改善の余地はまだまだある。改善の動きが「横ばい」になるには早すぎる。

歴史的な高値が続く株価によって、実体経済が負った深手が糊塗されやすいが、アメリカの家計部門を取り巻く環境はいまだに相当の危機感を帯びている。米金利やドルが早晩浮上してくるなど、到底考えられないというのが筆者の基本認識だ。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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