【劇団ノーミーツ1】役者も客も会わないオンライン演劇で7000人動員。制作チームは全員20代、半分は会社員

ミライノツクリテ 劇団ノーミーツ

撮影:今村拓馬

新型コロナウイルスはライブ・エンタテインメント業界を破壊直前にまで追い込んだ。2月からの4カ月間で19万8000のライブや演劇などのイベントが中止や延期となり、失われた入場料は3615億円に上る(ぴあ総研調べ)。

そんな中、オンライン演劇で7000人の観客を動員してしまった劇団がある。

No MeetsとNO密と濃密をかけて、劇団ノーミーツ。

公演が行われたのは、東京オリンピックが開幕するはずだった、7月の4連休。

午後2時、開演時刻だ。パソコンを開き、前もって通知されたURLを立ち上げ、割り振られたパスワードを使ってログインすると、そこは仮想のオンラインコミュニティ・ヘルベチカ。

自宅のパソコン前で演じる俳優たち

劇団ノーミーツ 「むこうのくに」のヘルベチカ

ヘルベチカの世界は私たちの日常から決して遠くはない。そのため、観ているとつい没入してしまう。

提供:劇団ノーミーツ

ユーザー数1億人を超えるヘルベチカでは、アカウントを持つ利用者は別人格になって自由に発信することができる。そのヘルベチカで、リアルの世界では友達をつくれない主人公が、自分でプログラミングしたたったひとりの友達の行方を探していくうちに、気づけばオンライン上で他者と心を通い合わせているという物語だ。

タイトルは『むこうのくに』。

ヘルベチカが人の日常に浸透したあまり、オンライン上のアカウントにも人権を認める法律が制定されそうになっている。かと思えば匿名性を否定し、オンライン上のフィルター文化を批判する集団がいたり、それを取り締まる警察がいたり。まるで私たちの現実世界と地続きの物語が進む。

仮想空間のストーリーをモニター越しに見ているうちに、自分もヘルベチカの住人であるかのような感覚になっていく。

オンライン公演というと、無観客の劇場で上演し生配信する無観客ライブ配信が多い。ところが、この舞台に登場する15人の俳優は劇場にはいなかった。15人はそれぞれに自宅のパソコンのカメラに向かい、たったひとりで演じていたのである。

劇団ノーミーツ むこうのくに

提供:劇団ノーミーツ

驚くことはまだある。プロデューサー、演出をはじめ総勢30人のスタッフも、各々自宅からパソコンやタブレットやスマホで舞台を動かしているというのだ。

観客(視聴者)は拍手の代わりにチャット機能を使って「888888」と打ち込んだり、登場人物やストーリーへのコメントを書き込んだりできる。演者を励ましたり、知らない人同士が共感し合ったり、理解できなかったところを書き込めば解説してくれる人がいたり……。

通常の演劇では考えられないことだが、進行に伴って観客同士がチャット機能で交流し、オンラインの舞台がどんどん温まっていく。

離れた場所にいる演じ手とつくり手と観客(視聴者)が、パソコンの向こうで展開する演劇をそれぞれの立場で成り立たせている。コロナ前には想像もしなかった表現手法が目の前で繰り広げられていることと、それに観客として自宅から参加している奇妙なシチュエーションに、呆然とする。

打ち合わせから稽古、本番まで一切会わず

劇団ノーミーツ_むこうのくに_キービジュアル_横

提供:劇団ノーミーツ

コロナ禍では「密を避ける」という条件を成立させない限り舞台芸術は生き残れない。この非情な命題に対し、「NO密」でも可能な演劇のひとつの形を提示したのが劇団ノーミーツだ。

公演はもとより、打ち合わせから役者のオーディション、稽古まで一切のメンバーが会わずに、クリエイティブとテクノロジーを投入してこれまでにないオンライン演劇に挑んだ。

驚くのはまず見せ方だ。Zoomの四角い画面に飽きた人々の意表を突く仮装空間をつくり上げたUI/UXデザイン。オンラインだけど冷たさを感じさせないポップなグラフィックデザイン。

フルリモートのカメラワークでは、俳優がパソコンに向かって演じる横顔を、俳優の部屋にカメラを設置し、ディレクターが遠隔で操作して映し出した。そこにはロボットアームが投入され、ロボットアームを制御するプログラムが組まれた。なお、機材は郵送で届けられ、俳優が自分で設置する(機材に限らず、小道具類は全て舞台美術担当のディレクターが俳優の自宅宛に郵送で手配している)。

No Meetsの徹底ぶりといったら、パンフレットのための主役の撮影までリモートなのだ。俳優は指定された公園でカメラマンの遠隔指示に従ってセルフで撮影。パンフレットはPDFでオンライン販売された。

リモートワークが普及し、打ち合わせや会議はオンラインが基本となったが、それでも“ここいちばんの重要な交渉ごとは直接の場でないと結果が出せない”と考えがちだ。だが、それは思い込みだったのかとさえ思わされた。

緊急事態宣言2日前、数分で「やろう」

渋谷駅

緊急事態宣言下、東京の人通りは一気に減った。

Reuter / Issei Kato

劇団ノーミーツは、コロナ禍がなければ生まれていない。

言い出しっぺの広屋佑規(28)は、没入型ライブエンタメカンパニー「Out Of Theater」を主宰している。街中やレストランなど、劇場の外を舞台にした演劇やミュージカルを日本でいち早く始めた。

4月に会社にする計画だったが、3月、全ての仕事が止まって収入の見込みがなくなった。一瞬目の前が真っ白になる感覚があったが、すぐこの状況下でできることは何かを考えようと頭が切り替わったとき、「面白いこと、一緒に考えようよ」と、友人の林健太郎(26)に連絡をとった。

林は映画会社に勤めながら、映画の自主制作やMVの監督をしていて、もともと広屋の劇団のファンだった。「喜んで!」と話に乗った。

Zoomでミーティングをしていて、「もう1人、誘おう」という話になった。2人とも企画寄りの発想や動きが得意。「脚本が書けるヤツが要るよな」と、林。林がLINEで連絡をした人物は3分後にメッセージを打ち返してきた。

「面白そうだね」

すぐにZoomのミーティングに加わったのが、3人目の主宰者となる小御門優一郎(27)だ。小御門も映画・演劇会社に勤務するかたわら、劇団を主宰している。

こうして劇団ノーミーツは、エンタテインメント、自主制作映画、演劇と、それぞれに活動の場を持つ3人のオンラインミーティングで始まった。決めたのは、「Zoomで芝居をつくる」「こんなときしかできないことをやろう」。4月5日夜、緊急事態宣言の2日前だった。

立ち上げからわずか3週間で長編制作を決定

広谷

撮影:今村拓馬

「いやあ、あのときは全然そんなこと考えてなかったですよ」

目の前の広屋が笑った。

4月5日の時点で本格的な演劇公演までをイメージしていたのかと尋ねたときだ。広屋の背後のスクリーンに、Zoomでつないだ林と小御門の顔が大きく映し出されている。

広屋の主宰するOut of Theaterの活動拠点である渋谷のアクセラレーション施設「100BANCH」を訪ねていた。

事前に主宰の3人に取材を申し込んだところ、「会わない」という縛りのため3人がリアルで揃って受けるわけにはいかないのだと、広報担当者からすまなそうなメールがきた。おまけに、「No Meetsですので」と、広報は取材に立ち会わないという。

劇団ノーミーツの林健太郎氏

撮影:今村拓馬

立ち上げ4日後に140秒のZoom演劇をTwitterにアップしてから2カ月、2、3日おきに140秒のZoom動画をアップした。自粛生活の困惑や共感をギュッと詰めた140秒の芝居は、再生回数が1000万回を超える回が出るなど、手応えをつかんだ。

次は2時間の演劇に挑戦しようと林が提案したとき、広屋は同意した。

「Twitterでバズってる動画集団、では終わりたくなかったんです」

スクリーンの林がぐっとカメラに顔を寄せた。

脚本担当の小御門はためらったという。

「Zoom上で長編を展開することにはまだ不安を感じていました。絵は平面だし、時間を飛ばして『次の日』という展開をつくるのが難しい。実際に流れている時間のスピードと同じ時間での表現しかできないんじゃないの?とけっこう不安でした。

ただその頃、同時並行でYouTubeで10分ぐらいの中編をつくっていて、それも十分に見られるし画面越しにも感動することはあるなあと思えてきたので、だったら長編もがんばればいけるかも、と段々に長編をやろうという方に合流していった感じです」

端正な言葉遣いで小御門が笑いを誘った。

長編公演を有料にするか、無料にするかは議論が分かれた。無名劇団である劇団ノーミーツが有料公演をすることは、大きな賭けだった。しかし、メンバーで話し合い、新しい興行として成立させるための挑戦として、有料に踏み切った。

こうして5月末、旗揚げ公演『門外不出モラトリアム』はチケットの販売価格を2500円に設定し、動員数1000人を目標にしていたが、5000人が観劇(視聴)。そして2カ月足らずで挑んだ第2作が7月の『むこうのくに』だ。このとき劇団ノーミーツの掲げた目標は「Zoomを超える」だった。

制作チームは全員20代、半分は会社員

劇団ノーミーツ むこうのくに

大胆にテクノロジーを取り入れ、従来のオンライン公演では見ることのできない世界観をつくりあげた。

提供:劇団ノーミーツ

「長編」かつ「有料」の演劇をつくることになったとき、林は同世代のクリエイティブディレクター・鈴木健太を誘った。

演劇にクリエイティブディレクションとテクノロジーが加わることによって、結果として劇団ノーミーツはZoomを超えてしまったのだが、この領域を率いたのが鈴木だ。林が企画の立場で見た鈴木のクリエイティブの仕事に対する驚きは、第3回で詳述する。

140分の視聴に耐えるストーリーを考え、脚本を書き、演出を務めたのは小御門だ。小御門が劇団ノーミーツで得た思いがけない出会いについては第4回で紹介する。

言い出しっぺの広屋はコロナ前から演劇を劇場の外で仕掛ける試みをしていた。その広屋が試みの場を街中やレストランからオンライン空間に移したことは、4カ月経って振り返ると、必然だったようにも思える。

『むこうのくに』の30人の制作チームには、映像、広告、デザイン、ITテクノロジー、ロボット制御など、広領域から才能が集まった。全員が1990年代生まれだ。その半分は大組織に属する会社員でもある。30人が非常識なアイデアと技術をぶつけ合い、結果のわからない実験への挑戦に集中し続けた。

なぜ劇団ノーミーツは一度も会わずに演劇をつくりあげることができたのか。それは、スピード感と大きな目的意識を共有できていたことによると広屋は言う。

第2回は広屋の話から始める。

(敬称略、明日に続く)

(文・三宅玲子、写真・今村拓馬、デザイン・星野美緒)

編集部より:初出時、広屋佑規さんのお名前を「広屋祐規」と誤って表記していました。訂正します。 2020年9月7日16:20

三宅玲子:熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009〜14年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルブログ「BillionBeats」運営。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み