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「いま攻めずにいつ攻める」JR東日本、トヨタ子会社ら「シリコンバレー共創」を断行する理由

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シリコンバレーを中心とした国内外のスタートアップとの共創プロジェクト「Smart City X」に参画する企業パートナーの名前が並ぶ。

出典:オンライン会見よりキャプチャー

「経営状況が非常に厳しいと認識はしていて、コストを落とす意思もある。しかし、イノベーションの火を消してはいけない。将来を見たときに、未来に禍根を残す」

シリコンバレーとのベンチャー協業に参画する、ある企業関係者は、取材のなかでそう漏らした。

サンフランシスコ・ベイエリアを拠点にするベンチャーキャピタル、スクラムベンチャーズが、日本の大企業を巻き込んで、スマートシティをテーマに1年で国内外のスタートアップと協業成果(デモデイ)を出すオープンイノベーションプログラム「SmartCity X」を開始する。

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スクラムベンチャーズ創業者の宮田拓弥氏。同VCは2013年設立。本社はサンフランシスコにある。

出典:オンライン会見よりキャプチャー

厳しい社会情勢の中で始まったシリコンバレー共創というだけでも興味深いが、参画企業はJR東日本、トヨタ自動車のAI実装子会社TRI-AD、あいおいニッセイ同和損保、石油大手の出光に、広告代理店の博報堂と、各界を代表する大企業ばかり。

スマートシティ実証のフィールドを提供する自治体には、渋谷区、三重県も名乗りを上げた。

「緊縮財政」に走りがちないま、なぜ、協業に取り組むのか。

JR東日本の危機感「柔軟に形を変えてでも、選ばれ続ける」

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東京・山手線の車両。

出典:JR東日本

Business Insider Japanの取材に応じたJR東日本の担当者の佐藤勲氏(東日本旅客鉄道 技術イノベーション推進本部 データストラテジー部門 部長)は、参画の背景にある危機感を、あくまで個人的な意見だと断った上で、

お客様に選ばれなくなる、という危機感(が鉄道会社にはある)。鉄道会社自身が柔軟に形を変えてでも、お客様に選ばれ続ける移動手段にならないといけない。変わらないとお客様に選んでもらえない。オープンイノベーションはその手段のひとつ」

と語った。

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東日本旅客鉄道 技術イノベーション推進本部 データストラテジー部門 部長の佐藤勲氏。

撮影:伊藤有

このコメントの背景には、直近7月30日の四半期決算の「売上高3329億円に半減」「最終赤字1553億円」という非常に厳しいコロナショックの影響もある。コロナで通勤や旅行が激減している。

佐藤氏は、2018年時点で策定していた10カ年の経営ビジョン「変革2027」の危機感と計画を、大幅に前倒した形だとも言う。


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2018年に発表した10カ年の経営ビジョン「変革2027」。人口減少時代の経営環境の変化への対処、というのは以前からあった「危機感」だという。

撮影:伊藤有

SmartCity Xの企画がはじまったのは2020年2月ごろ。JR東日本に社会実装も視野に入れた企画が持ち込まれたのは翌3月ごろ。わずか5カ月前の話だ。

JR東日本は、実は従来からオープンイノベーションの取り組みに数々参画しており、主に国内向けの「JR東日本スタートアップ」という別会社も持つ。とはいえ、JR東日本にとって「今回のような形(スタートアップとのマッチング重視の協業)の参画は初」(佐藤氏)だ。

コロナの混乱を踏まえても、新規の取り組みに5カ月あまりでの意思決定・発表というのは、異例の速さという印象がある。

「これからの課題は実証で終わらせるのではなく、日本にどう社会実装できるかというのが大事だと思う」(同)というコメントからは、PoC(概念実証)どまりを打ち破りたいという意思が見え隠れする。

トヨタTRI-ADの期待の背景には実験都市「Woven City」の姿

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Woven Cityを発表したCES2020プレスカンファレンスの模様。豊田章男社長と、都市計画を担当するビャルケ・インゲルス氏。

撮影:伊藤有

一方、モビリティ企業として参画したTRI-ADは、参画の背景にトヨタが今年1月のCES2020で発表した実証都市構想「Woven City(ウーブンシティ)」がある。

TRI-ADの西城洋志氏。

トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント社のVice President of Business Development and Strategy、西城洋志氏。

Zoomインタビューよりキャプチャー

発表イベントに登壇したTRI-ADの担当者、西城洋志氏は、Woven Cityを念頭に置いた上で、

  • ゼロからスマートシティをつくること
  • 既存の街をスマート化すること

では、異なる実証が必要だという考えだ。

「スクラッチからグランドアップでつくる(ゼロから作り上げる)自由度は、Woven Cityの方が高い。(しかし)これはユニークなケース。ほとんどのスマートシティはいまある街に実装していくことが必要」(TRI-AD西城氏)

とはいえ、両実証で培った技術・ノウハウ連携の素地は十分にあり、「コンポーネントの流通やシナジー効果がある」と考えている。

実証は、渋谷区のような大都市を念頭に置いているのか、と質問すると「両方があると思う」とした上で、自動車業界の課題として地方都市の重要性を語った。

「トヨタグループとして、地方交通をどうするか(という課題)がある。両者(大都市と地方)は課題の質が違う。限界集落の交通、高齢者のQoL(生活の質)への貢献など。

大都市は選べるオプションが豊富だが、地方都市は(人口構成含め)選択肢が少ない。(今後の検討として)社会課題としては地方都市のほうが大きい、と考えるかもしれない」(同)

自動車業界を筆頭に、こうしたベンチャー協業の取り組みに、厳しい経済状況の中で大企業が参画してくるのはなぜか?

西城氏のコメントには、企業側の意思決定のヒントがある。

「新型コロナ(COVID-19)で、予測不可能な未来になった、と(大企業は)実感しているのではないか。不確実性が非常に高い。

正解を探すとなかなか見つからないが、裏を返せば正解がたくさんある(別解)ということ。そういうとき、守るより攻めた方が良い、というのは(各社共通の認識として)あると思う」

過去30年を振り返れば、日本企業が本質的な意味でDXに「失敗」し、守りに徹した多くの企業が機会損失をしてきたことは否定できない事実だ。

「守っているだけでは、継続的に機会損失をする……(それは過去数十年の経緯から)皆さん覚悟していると感じる」(同)

ピンチをチャンスに……で取り組み、コロナ経済から新たな事業が芽ぶくのか。1年後の結果は見ておかなければならない。

(文・伊藤有

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