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- フェイスブックは2020年8月初旬、ニューヨークにあるオフィススペースの大型賃貸契約を結んだ。
- 同社幹部によれば、フェイスブックは在宅勤務を積極的に認めていく一方、オフィス勤務が今後も重要だと考えている。特にニューヨークのような主要拠点にオフィスを持つことは、今後の成長と事業運営の鍵となるという。
- 在宅勤務の広がりによりオフィスの占有面積を縮小すべきかとの疑問が企業の間で上がるなか、フェイスブックの今回の判断は、大企業が物理的なオフィスの重要性についてどう捉えているかを示すものだ。
ニューヨークの一等地に新オフィスを契約
フェイスブックは2020年8月初旬、マンハッタンのウエストサイドにあるファーリービルのオフィススペースの全面積を占有する大型の賃貸契約を結んだ。特にニューヨークのような大都市で、従業員がオフィスに戻って働きたいと思うようになってくれることに期待してのことだ。
フェイスブックが新たに賃貸契約を結んだファーリービル。1912年竣工の歴史あるビルで、中央郵便局も所在。
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今回契約した新設オフィススペースは総面積約73万平方フィート(約6万8000平方メートル)。このことは、世界屈指のテック企業である同社が最近発表した声明や決定とは対極の行動のように見える。
CEOのマーク・ザッカーバーグは2020年5月、「10年後には従業員の半数が在宅勤務に切り替わっているだろう」と予測していた。これに基づき、戻ってくる従業員が働く場所を確保するため、アメリカ全域に従来のようなオフィススペースを拡大していく予定だ、とザッカーバーグは補足していた。
しかし、フェイスブックをはじめとする複数のテック企業は、従業員をオフィスに戻す時期をすでに2021年夏まで延期している。この決定により、オフィスビルの貸主の中には、テナント企業がオフィスを手放したり占有面積を大幅に縮小したりするのではないかと危機感を募らせる者もいる。
だがフェイスブックは、物理的なオフィスに見切りをつけたわけではない。同社のニューヨーク事業を共同運営するエンジニアリング担当役員、ブライアン・ローゼンタールは、従業員たちは新しいオフィス拠点に必ず戻ってくるだろうとBusiness Insiderに語る。
ローゼンタールは、今回契約したファーリービルのようなオフィススペースが、採用活動、製品開発、コラボレーション、会社の成長という4点において重要な役割を果たすと見ている。
「我々の仕事の多くは、コラボレーションなくしてはできないものです。(ソフトウェア開発は)すべてのプロットがつながっていないと意味を成さない1冊の本を共同で書くようなものですから。
しかも本の著者は何千人もいる。著者がみな同じ場所にいなければ、本を書くという作業は困難を極めてしまう。同じ空間で、相手の顔が見える環境こそ重要なのです」
新オフィスは「採用活動の重要拠点」
フェイスブックが今回締結した賃貸契約は、ニューヨーク市内では間違いなく2020年最大の取引となる。
賃貸契約の数は大幅に減少しており、大企業テナントの多くは新型コロナウイルスの影響をもう少し見通せるようになるまで不動産契約に関する判断を保留している。
しかしフェイスブックは、今回契約したファーリービルをはじめとするニューヨークのオフィス全体が、コロナ後も事業運営の要になることを期待している。
「他社の中にもフェイスブックで働きたいと思っている人材は多く、当社で働くためにカリフォルニアに転居する人もいます」とローゼンタールは言う。
「ニューヨークが特徴的なのは、まず何より住んでいる人々がニューヨーカーだということ。彼らはフェイスブックで働きたいと思っているため、当社がニューヨークで存在感を増してきたことには好意的です。ただし彼らのアイデンティティは、第一にニューヨーカーであることなんです」
ニューヨークに物理的なオフィスを構えることには、ザッカーバーグはじめフェイスブック幹部らの戦略的な狙いがある。
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魅力ある物理的なオフィススペースを持ち、ニューヨークを重要な拠点として事業を展開・維持することは、特に幹部クラス人材の採用活動にとって非常に重要だとローゼンタールは語る。
「ニューヨークで幹部クラスの人材を雇用し、彼らがここでキャリアを築けるようにするということは、当社の最も重要な技術的課題がここにあることを意味します。
技術者の中でもとびきり優秀な人材がここに集まってきて問題解決に当たる。これこそがマーク(・ザッカーバーグ)以下、我々の意図するところです」
新社屋はコラボレーションに最適
ファーリービルのスペースは、フェイスブックの技術チーム専用として使われる予定だ。
その理由のひとつは、ワンフロアにつき20万平方フィート弱(約1万8600平方メートル弱)の広大で開放的なスペースがあること。これだけ広いスペースがあれば、同社が重視する「コラボレーション」がエンジニア間でも促され、複雑なソフトウェアを制作したり、デジタルインフラを大幅に整備したりすることが可能になる。
ローゼンタールは、「ワンフロアが狭くフロアが何階分にもまたがるビルでは、ソフトウェア企業が成長するのは非常に難しい」と言う。その点、ファーリービルのオフィススペースは4階分にしかまたがっておらず、「ワンフロアの面積が広くて開放的な点が素晴らしい」。
近年では、社内でのコミュニケーションやコラボレーションを活発にするために、従業員がすぐ近くで声をかけ合って働けるようなオープンで仕切りのないオフィススペースに人気が集まっていた。
しかしここ数カ月は新型コロナウイルスの影響から、感染拡大を防ぐためにパーティションで区切られたスペースの需要が高まっており、ファーリービルのような開放的なレイアウトは少なくなっている。
ローゼンタールは、感染予防対策に伴うニーズが新しいオフィスの設計やスペースの利用方法にどう影響するかはまだ不透明だと言う。
「安全第一なのは言うまでもありませんが、コラボレーションも犠牲にはできません。我々は今後もイノベーションと学びを続けていきます。
これからの仕事は、できる限り効果的にコラボレーションすることなしには成立し得ません。なぜならコラボレーションこそ、我々のプロダクトにとって最も重要なものだからです」
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)