70億円調達のネットショップ作成サービスhey、「我の弱い人同士の組織力」武器にEC市場シェア拡大目指す

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左から、hey社長の佐藤裕介氏(36)、副社長の佐俣奈緒子氏(37)、最高財務責任者(CFO)の斎藤健太郎氏(36)。

撮影:今村拓馬

ネットショップ作成サービス「STORES」を運営するhey(ヘイ)が、米投資ファンドのベインキャピタルからの70億円を含む大型資金調達と、検索・予約システム「クービック」の買収で注目を集めている。創業わずか2年で急成長を遂げつつあるheyの「組織力」の強さに迫った。

BASEとの差別化は「固定店舗持つ人向け」

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PayPalの日本法人立ち上げ、キャッシュレス決済サービス「コイニー(Coiney)」立ち上げを経てheyに参画した、佐俣奈緒子氏。

「(今のままなら)資金調達は必要ないと考えていました。でも、お客さんが困っている今、自分たちにできることはと考えて、リスクを取ってスピードをあげていく決断をしました」

そう語るのは、キャッシュレス決済サービス「コイニー」の創業者で、現在はheyの代表取締役副社長を務める佐俣奈緒子氏だ。

資金調達に向けて動き出したのは、新型コロナが猛威を振るい始めた2月以降。今回の資金調達に併せて、クービックの完全子会社化を発表した。STORES内で物販だけでなくオンラインセミナーなどの予約も可能になるとし、2020年内のサービス統合を目指すという。

heyがこうしたリスクをとるのには理由がある。

コロナ禍で、個人商店や中小企業のオンライン化へのニーズが大きく高まったからだ。

STORESの競合であるネットショップ作成サービス「BASE」の決算報告書によると、同社の2020年12月期第2四半期(4〜6月)の流通取引総額(GMV)は、前年同期比で約2倍に伸長。株価は、2019年10月の東証マザーズ上場から半年で、7倍近くに膨らんでいる。

STORESとBASEの違いは「どちらかというとBASEはデジタルオリジンな個人向け、STORESはすでに固定店舗を持っている人(中小事業者)向け」(佐藤氏)だという。

STORESの固定店舗を持つユーザーの割合はもともと4割程度だったが、コロナ禍でさらに高まっているとも語る。

ベインキャピタルから70億円の投資を受けた理由について、同社CFOの斎藤健太郎氏は、日本のEC化率の低さとビジネスモデルとしての今後の成長可能性を挙げた。

経済産業省が7月22日に発表したデータによると、2019年の日本国内のEC化率はわずか6.76%だが、消費者向けのEC市場規模は19.4兆円(前年比約8%増)に拡大しており、十分な成長余力がある。コロナ禍で拡大の動きはさらに加速するとみられる。

「日本の投資家からは『PayPayと競合するの?』と言われてしまう。でも、海外投資家はSquareやShopifyのビジネスモデルと比較して『日本でも(波が)来る』という見方があり、熱量が高かったように思う」(斎藤氏)

客寄せをする人が、強い

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CAMPFIREの社外取締役を務めていた時に、heyが現在手がけるビジネスの骨子を思いついたという佐藤裕介氏。

そもそもheyのビジネスはどのように始まったのか。きっかけは、連続起業家としての顔を持つ社長の佐藤裕介氏が、2017年から2018年まで社外取締役を務めていたクラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」からの着想だ。

1983年生まれの佐藤氏は、アドテクノロジーを開発する企業・フリークアウトと、スマホアプリ企業・イグニスをどちらも上場に導いた経験を持つ。

佐藤氏によると、CAMPFIREは家入一真氏が社長に復帰したタイミングで、経営方針を大きく転換した。プロジェクトの購入者(パトロン)を増やすことではなく、プロジェクトの立ち上げ人(オーナー)を集めることに注力したのが功を奏し、大きく成長したという。

楽天やアマゾンに代表されるECサイトは、大々的なキャンペーンを打ってエンドユーザー(サービス利用者)を集客してこそ、出店者を呼び込める —— そう考えていた佐藤氏にとって、むしろ出店者(サービス提供者)を増やす方向に舵を切ったCAMPFIREの成功は、新鮮な驚きをもたらした。

「つまり(エンドユーザーよりも)客寄せをする人が、強い。たとえオーナーのフォロワーが300人でも、その中の20人や30人が支援する仕組みさえあれば(プラットフォームは)成り立つんだと」(佐藤氏)

必要なのは、決済機能、在庫管理、CRM(顧客管理システム)など「出店者が自分でやらないもの」をまとめて提供する仕組み。それがあればことさらに集客支援をしなくても、志やこだわりのあるオーナーに自然とお客さんはついてくる。この気づきが、のちのhey設立につながった。

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予約販売、電子チケット販売、顧客管理などが並ぶ、STORESのメニュー。

出典:STORES

「我が弱い人たち」で会社を興す

こうした想いの下に集まったheyの創業メンバーは、それぞれ全員が「古くからの友人」という共通点がある。

「もともと、そんな大志を秘めていた人間じゃないんです。スタートアップをやりたかったというよりは、友だちとイイ感じに何かしたい、が先だった」

自身の原点を「裏原宿の“マイメン”(兄弟、仲間)カルチャー」だとメディアの取材で明かしている佐藤氏は、控えめにそう語る。

2017年の夏、佐藤氏の着想をきっかけに、コイニーとSTORESを統合する計画が立ち上がった。

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「コイニー時代、ECへの参入は考えていたけれど、知っている仲間とやるというのが大きかった。ビジネスライクな関係なら絶対統合を決めていない」と語る佐俣氏。

佐俣奈緒子氏の夫でベンチャーキャピタルANRIの社長でもある佐俣アンリ氏が立役者となり、heyの共同創業者となった3人(佐藤裕介氏、佐俣奈緒子氏、光本勇介氏)での会合が設けられた。

その時できたFacebookのチャットグループから、ゆるりとheyは生まれた。

コイニーは2012年に、ペイパルの日本法人に携わった佐俣奈緒子氏が創業した。一方のSTORESも、のちにノールック買い取りサービス「CASH」を創業する起業家の光本勇介氏が2012年に始めたサービス。ともに「キャッシュレス」「DtoCプラットフォーム」の日本の先駆け的存在だった。

STORESは2013年にZOZO(当時はスタートトゥデイ)に買収され、2016年に光本氏自らがMBO(マネジメント・バイアウト、経営陣買収)。そのタイミングで、現在heyの取締役を務める塚原文奈氏に、社長を交代している。

こうした複雑な経緯を経ながらも、大きないざこざなく経営を進められている一因が「我の弱さ」だ、と佐藤氏は言う。

「船頭多くして……とはよく言いますけれど、僕たちの場合は(当てはまらない)。みんなのほほんとしていて、自分の領域を主張したがらない、我が弱めの人たちだからかな」(佐藤氏)

こうした「お友だち経営陣」で、生き馬の目を抜くスタートアップ界隈の攻防を生き残れるものだろうか……そんな指摘も当然あるだろう。

しかしheyにおいては、先述のような「マイメン文化」に基づいた「マッチョではない」仕事のスタイルが、多くのスタートアップ人材を惹きつけているようだ。

自分への“疑念”が多様性を生む

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「(大手投資銀行にはない)スピード感を持った経営に惹かれた」と語る、斎藤健太郎氏。

heyが躍進を続ける理由の一つが、佐藤氏のエンジェル投資家としてのネットワークの広さだ。

現在、コイニー社長を務める卜部宏樹氏は、過去にサイバーエージェントの子会社サイバーエージェントビットコインの社長を務めた経験を持つ。

同社の解散後、起業の相談に訪れた卜部氏を、佐藤氏が逆にスカウト。8月にグループ編入を発表した、月間ユーザー数250万を抱える予約サイト・クービックの社長を務める倉岡寛氏も、佐藤氏のグーグル時代の先輩だ。

2020年3月からheyのCFOとなり、今回の資金調達を一手に請け負った斎藤健太郎氏は、東京工業大学から投資銀行のメリルリンチ、資産運用会社ブラックロックを経てheyに参画した。

「話をしてみて(佐藤氏は)投資家として市場を俯瞰する見方と(起業家として)ボトムアップで調査するやり方の両方の視点を持っている、稀有な経営者だと思った」(斎藤氏)

hey成長の決め手は、ビジョナリーかつ、実行力ある佐藤氏の求心力なのだろうか。

一方で副社長の佐俣氏は、佐藤氏を「パーフェクトにできる人だと思われやすいけれど、すごくガタガタした人」だともいう。佐藤氏は、自身の弱点を「基本的に人の気持ちへの想像力があんまりない」とした上で、こう語る。

「(一方で)佐俣はすごく優しいし、人に寄り添えるタイプ。ぼくが優しくなる必要も当然ある一方で、得意な人が(その部分は)分担したほうが良くない?って」

heyがコアバリューの一つに掲げるのが、「敬意と疑念(働く仲間への敬意と、自分が間違っているかもしれないという疑念)」だ。

誰の出す答えも、状況によっては「正解ではない」かもしれないからこそ、組織に多様性を持つことが強みになる。 「マイメンカルチャー」に裏打ちされた組織力を武器に、heyは2020年も拡大を続けそうだ。

(文・西山里緒、写真・今村拓馬)

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