撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
求人サイト、転職エージェント、SNS……転職活動の手法はいろいろありますが、最近、新たな転職ルートとして広がっているのが「リファラル採用」です。
リファラル採用とは、従業員が友人・知人を会社に推薦し、選考を経て採用に至るもの。古くからある「縁故採用」の一種と言えますが、最近はこのリファラル採用自体を「仕組み化」して全社ミッションにするなど、注力する企業が増えてきました。
誰もが「うちの会社に入らない?」と声をかけられる可能性が広がってきていると言えます。そこで今回は、リファラル採用のトレンド、そして友人・知人から誘われて転職を考える場合の注意点をお伝えします。
ベンチャー中心だったリファラル採用。大手でも導入の動き
知り合いの紹介をきっかけにした「リファラル採用」。カルチャーフィットの確率が高まり、採用コストを抑えられるなどのメリットからベンチャー企業の間にはすでに浸透しているが……。
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アメリカの人材マーケットでは、以前から一定の割合を占めていたリファラル採用。当然、グーグルなど高度な人材を求めるグローバル企業でもリファラル採用は行われてきました。
では、なぜ近年、日本企業の人事戦略としてリファラル採用が広がっているのでしょうか。企業がメリットを感じているポイントは主に3つあります。
- 求人メディアへの出稿料、転職エージェントへの成功報酬といった「採用コスト」がかからない
- 自社が求めるスキルを持っていて、「転職活動をしていない」人材に働きかけることができる(求人サイトや転職エージェントを通じて応募してこない人に出会える)
- 社員が「この人ならうちの会社に合う」と思った人に声をかけるので、価値観が合い、社風にフィットする人を呼び込める
こうしたメリットから、資金力が十分ではなく、かつ少人数組織なので「カルチャーフィット」が重要なベンチャー企業において、リファラル採用が広がってきました。
ところが、最近では大手企業もリファラル採用に乗り出しています。
2020年7月には「トヨタ自動車がリファラル採用を開始」のニュースが報じられました。
これまで、大手企業にとって、リファラル採用を行うにはある課題がありました。それは、社内の採用ポジションを社員にオープンにすることで「外部から採用するなら、自分を配属してほしい」という声が多数上がってくる可能性があることです。
これが数百人規模以下のベンチャーであれば、「社員が他部署の取り組みを知り、会社全体を俯瞰して理解できる」というメリットにもなるのですが、大手企業では人事統制がとれなくなる恐れがあります。
これまで、そうした事態を警戒してリファラル採用に踏み切れなかった大手企業も、そろそろ「覚悟を決めた」のでしょうか。社内異動の制度整備も含め、タレントマネジメントを充実させていこうとする「戦略人事」強化の動きが見てとれます。
今後は、スタートアップから、中規模~大規模ベンチャー、大手企業にまで、リファラル採用が広がっていきそうです。
リファラル採用の運用方法は会社によって異なる
今後、皆さんにも「うちの会社に興味ない?」と声がかかるかもしれません。その場合に備え、企業のリファラル採用の仕組みについて知っておきましょう。
従業員がどこまでの役割を担うかは、企業によって異なります。
「友人・知人を会社説明会へ誘う」までのケースもあれば、「明確にスカウトの声をかけ、経営トップとの面接につなげる」というケースもあります。
採用に至れば、紹介した従業員にはインセンティブが支給されるか、人事評価に反映されます。インセンティブの額も企業によって差があり、なかには1人の紹介・採用で月給1~2カ月分に相当する額が支給されるケースも。
人事担当者には、「従業員がインセンティブ目的で強引に勧誘するのでは」と懸念を抱く人もいますが、私が知る範囲では、インセンティブ目的で友人に声をかける人はあまりいないように思います。
「自社の事業成長のために」あるいは、「うちで働けば、彼(彼女)はもっと力を活かせる。いいキャリアを築ける」など、会社や人への貢献を考えて動いている人が多いと感じます。
コロナ禍の今、「飲みに誘って話をする」ということはしづらくなっていますが、「オンライン飲み会」の機会もありますし、SNSやLINEグループなどに「うちの会社にこんな採用ポジションあるけど、興味ある人いる?」「こんな人がいたら教えて」と気軽に投げかけるケースも見られます。
「採用担当者は社員のSNSをけっこうチェックしていますよ」と森本さん。
撮影:鈴木愛子
なお、採用担当者が、社員のFacebookの「友達」リストや、友達との交流をチェックしていて、「この人に声をかけてみて!」と働きかけることもあります。
つまり、リファラル採用をしている企業からスカウトされるチャンスを広げるなら、SNSに自分のプロフィールをしっかり書いておくこと、友人たちとコミュニケーションを継続しておくことが得策と言えそうですね。
「うちに入社しない?」と誘われた場合の注意点は?
実際に、友人・知人・元同僚などから「うちに来ない?」と誘われたら、どんな点に注意して対応すればいいのでしょうか。
実際にリファラル採用で入社した経験がある人たちから聞いた、「しまった」「こんなはずじゃなかった」の声をご紹介しましょう。
・声をかけてくれた友人に気を遣って、人事から提示された条件をそのまま受け入れてしまった。きちんと交渉すべきだった。
・「うちの会社、すごくいいよ」と聞き、魅力を感じて入社。しかし、その人と異なる部署に配属されたら、聞いていた雰囲気とまったく異なっていた。
・「うちの会社、こういうところがいい」と聞き、魅力を感じて入社。しかし、実際に働いてみて「悪いところは隠していたんだな」と気づいた。
・尊敬する人から声をかけられ、「この人と働きたい」と入社。しかし、その人は辞めてしまい、縁故で入った自分は居心地が悪い思いをすることになった。
・友人に誘われて入社したが、その友人は社内で「マイナー派閥」だった。自分も自動的にマイナー派閥に属することになり、多くの社員から一線引かれてしまった。
・入社後、仕事の進め方で納得いかないことがあったが、誘ってくれた友人の手前、批判的な発言や改善提案がしづらかった。
・友人に誘われて入社したら、友人より自分のほうが成果を挙げて、ポジションが上になり、友人とぎくしゃくした関係になってしまった。
このように、「人間関係」で入社すると、人間関係で苦労するケースが少なくないようです。
うっかり落とし穴にはまらないためにも、入社を検討する際には次の4点を心がけてください。
- 声をかけてくれた友人・知人の話を鵜呑みにしない。自身でもいろいろな角度から情報収集、企業研究をする
- 友人・知人の存在がなくても、「この会社の理念・方針に共感できる」「この会社なら成長できる」「この会社で働きたい」と思えるかどうかを考える
- 声をかけてくれた友人・知人と人事担当者に会っただけで決断しない。経営陣、配属予定先で一緒に働くメンバーなどとも話をさせてもらう
- 給与・待遇などの条件は、納得がいくように交渉する。口約束ではなく、労働条件を文書にした通知書を受け取っておく
こうしたステップを踏んで、自分にとって転職する価値があるかどうかを見極めてくださいね。
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※本連載の第32回は、9月7日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。