大腸菌の環状ゲノムマップ。
G-language Genome Analysis Environment(http://www.g-language.org)
8月27日、電通、東京工業大学生命理工学院の研究グループ、東工大発の合成生物学ベンチャーのLogomixなどは共同で、産業微生物のゲノム構築を推進する国内初の産学連携プロジェクト「細菌ゲノムアーキテクトプロジェクト(BGAP)」を開始することを発表した。
BGAPは、特定の生物種のゲノム構築を目指すプロジェクト。
産学連携で行われるプロジェクトとしては、国内初の取り組みとなる。
酵母の全ゲノム合成を進めるSc2.0(酵母ゲノム合成コンソーシアム)、ゲノム合成技術の国際協調を進めるGP-write(ゲノムプロジェクト・ライト)、中国で発足したGP-write Chinaなどに続く統合組織だ。
ゲノムをゼロから構成する「合成生物学」で「人工大腸菌」を
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プロジェクトでは、第1弾として「大腸菌人工ゲノム構築」を推進するとしている。
大腸菌は、ヒトの大腸などをはじめ、環境中のさまざまな場所に生息する細菌の一種。
人類はこれまで、大腸菌を使って、プラスチックや薬、燃料などのさまざまな物質を生産してきた。大腸菌はいわば、産業微生物である。
その過程で、遺伝子組み換え技術やゲノム編集など、遺伝子を書き換える手法を用いて、大腸菌の遺伝子を「改変」する技術も培われてきた。
一方このプロジェクトで利用するのは、「ゲノム構築」と呼ばれる、生物のゲノムをゼロから構築する技術だ。これは、すでに存在するゲノムの一部を書き換えるゲノム編集などとは異なる。
プロジェクトでは、人工的にゲノムをゼロからデザインすることで、さらに産業応用に有効なゲノムをもった大腸菌をつくりだそうとしているわけだ。
こういった学問分野は「合成生物学」と呼ばれ、近年注目が集まっている。
Logomixの担当者は、
「建築に例えると、ゲノム編集が一部だけをリフォームする技術であるとしたら、ゲノム構築とは、更地にまったく別の建物を構築する方法全体を指していると言えます」
とその技術を語る。
プロジェクトの運営は、東工大学とLogomixが共同で実施。
もともと東工大では、2020年秋にすずかけ台キャンパスに「合成生物学ファウンダリー」の建設を予定していた。今回の産学連携プロジェクトでは、この施設も活用して開発が行われることになる。
「合成生物学ファウンダリーでの業務の一部(長鎖DNAの合成、細胞導入プロセスの評価)を東工大が担当し、参画企業からのテーマ設定・課題に応じたゲノム設計・合成プロトコールのデザイン、その他の事業化にかかる活動をLogomixが担当致します」(Logomix担当者)
プロジェクトの期間は、 2021 年度までの2年間だ。
人類はゲノムをどこまで自由自在に扱えるようになるのか?
あらゆる生命の設計図とも言われる「ゲノム」。
私たち人類がゲノムの正体である「DNA」を発見したのは、1953年。
それから50年経った2003年には、ヒトゲノムの解読が完了し、ゲノムを起点にした研究がさらに進んでいった。そこからさらに約20年経過し、人類はすでにこの設計図を書き換え、さらに自分たちで生物を生み出すような技術を手にし始めている。
「同様の取り組みは 世界でも増え始めており、2010年にCraig Venter研究所によるマイコプラズマ全ゲノム合成という金字塔に続いて、英ケンブリッジ大や韓国KAISTが2019年に大腸菌全ゲノム合成を発表。同年11月にはSc2.0による酵母全ゲノム合成も99%完了宣言するなど、国外ではゲノム構築が次々と進行しています」
ゲノムを取り扱う技術は、果たしてどこまで進歩するのか。日本のプロジェクトの動向は、見逃せなくなりそうだ。
なお電通は、本技術の将来性・活用例などを提示し、産業応用を促進。ELSI(倫理的・法的・社会的課題)などの社会受容性の観点で、ガイドラインやルール作りの検討に携わるとしている。
(文・三ツ村崇志)