利用、無料。日本版衛星データプラットフォーム「Tellus」がすごい理由…“宇宙の視点”でビジネスはこう変わる

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Tellusに地形情報を提供しているNEC開発の合成開口レーダー(SAR)衛星「ASNARO-2」。

撮影: 秋山文野

クラウド上で衛星データの分析ができる日本発の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」。JAXA開発の陸域観測技術衛星「だいち2号」をはじめ、気象衛星「ひまわり」、気候変動観測衛星「しきさい」や超低高度衛星技術試験機「つばめ」に加えて商用化を目的とした地球観測衛星「ASNARO」と多彩な衛星画像を無償で利用でき、地図や、降雨など気象データ、人口統計情報など地上のデータとの重ね合わせができる、世界の衛星データプラットフォームの中でも「大盤振る舞い」の存在になっている。

2019年2月の運用開始以来、登録者は2020年8月末時点で1万7000人を超え、「宇宙業界以外」から衛星データを使ってみようという人たちが増えつつある。

7月14日から50日間にわたって実施したオンラインイベント「Tellus SPACE xData Fes. -Online Weeks 2020-」では、「2020年宇宙産業の今」など複数のセッションで衛星データのビジネス応用について業界関係者がそのポテンシャルと期待を語った。

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さくらインターネット、Ridge-i、akippa連名で発表した、シェア駐車場候補地を衛星データから探す共同研究。実証実験では、現時点で約75%の精度で駐車場候補地を発見することができている。

また、8月4日にはデータ活用の実証例として、駐車場シェアリングのakippa、AIコンサルティングのRidge-iによる「駐車場スペースを衛星データで自動検出する共同研究開発」も発表している。

いま、衛星データの世界は、どこまで身近になったのか?

日本版「衛星データプラットフォーム」開始1年半の手応え

小笠原さん

さくらインターネットフェローの小笠原治さん。IT業界やスタートアップ界隈で飛び回る傍ら、京都芸術大学で教授として教鞭もとっている(写真はさくらインターネットの福岡オフィスにて)。

出典:さくらインターネット

Tellusの発起人である、さくらインターネット フェローの小笠原治さんは、サービス開始から1年半の動きを、インターネットの歴史になぞらえて語る。

「インターネットの歴史を振り返ると、FTPやメールなどだけの世界から、WWW(World Wide Web)の登場で利用が爆発しました。

衛星データも、エンジニアしか使えない世界から、衛星データをその他のデータと気軽に組み合わせられる世界に行こうとしています。

Tellusでは、そのためのUI、UXを作ってきました。UIが大事です」

衛星データプラットフォームの基礎をつくった1年目を経て、2年目のいまTellusのUI設計の一部は、気鋭のデザイン集団Goodpatchが手掛けている。「UIが良くなければ、誰も使わない」からだと、小笠原さん。

Tellusがイメージする、衛星データを使いこなせるUIとはどんなものなのだろうか。

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TellusのWebアプリ「Tellus OS」の画面。写真では、高温エリアの衛星データ(右)と、地表面温度とモバイル空間統計の人口統計情報の重ね合わせ(左)とを組み合わせてある。

出典:Tellus

画面中央の点が並んだものが、その時期のデータがあることを示す「タイムバー」だ。

「衛星データという空間情報は、“位置”と“時間”という情報の組み合わせで使いたいのだと考えています。

Tellus OSの場合、ある場所のデータが“タイムバー”との組み合わせで表示されるようにしました。“この場所の時間軸にはデータが存在します”ということが分からないと、探す時間の無駄になってしまいます。

たとえば“今日の福岡市の画像がほしい”、“更新されたら未来の情報もほしい”という要望に応えられないと」

UIができたら、さらにUXを良くするためにデータの量が必要、というフェーズに入った、と小笠原さん。

「2年目に入ってようやく、Tellusの計画当初に設計した“5.5ペタバイトの保存ストレージ”をデータで満たせる準備が整ってきました。海外のプラットフォームと対等になれる準備が整ってきた、ということです」

衛星データをビジネス活用すると、何が起こるのか? 海外のプラットフォームの先行事例には、こんなものがある。

■日本発「衛星データプラットフォームTellus」の詳細はこちらから

「衛星データ」が身近になると、ビジネスチャンスが激変する理由

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PwCコンサルティング合同会社 宇宙ビジネスチーム リードManager、永金明日見さん。

撮影:岡田清孝

欧州には、Tellusのような衛星データプラットフォームの先行例ともいえる、EUの地球観測計画「コペルニクス」がある。

コペルニクスは2014年に本格運用がスタートし、近年はいよいよビジネス活用の事例が出始めている。

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コペルニクス衛星のひとつ、レーダー衛星「センチネル1」が観測したモーリシャス島での日本のばら積み貨物船「わかしお」からの重油流出。サンゴ礁のそばで座礁した船体から、黒く重油の帯が海岸に向かって伸びている。

European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2020

欧州衛星データビジネス事情に詳しいPwCコンサルティング合同会社のマネージャー・永金明日見さんは、欧州で進む「衛星データビジネス」の活用例として、従来からある農業、エネルギー(石油・ガス)に加えて近年は風力・ソーラーなどの再生可能エネルギーや、インフラ点検といった分野が注目されている、という。

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永金さんが取りまとめた、欧州の衛星データ利活用市場の規模と経済効果。データプラットフォーム活用の経済効果は年成長14%、2020年は4550億円と試算。

出典:永金さん提供

「例えば、太陽光パネルを設置する場所の日照条件は、衛星データから比較的簡単に調べられます。再生可能エネルギー利用の牽引役である欧州は、電力取引マーケットが盛んですから、投資家がそうした情報を買って投資に活かすことができます」

永金さんは、風力発電への活用も、衛星データの特徴を生かした興味深い活用例だとする。

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衛星データビジネスを手掛けるVortex社。上の画像は、同社が公表している世界の平均風速マップ。各国別の詳細なマップも次々と公表している。

Vortex FdC.

「Vortex(ボルテックス)という企業は、風力発電のタービンに“肝心の風が来なかった”といったことにならないよう、風の向きや強さなどを気象衛星や地球観測衛星のデータで測っています。

この技術のポイントは、既存の地形情報と組み合わせた独自のアルゴリズムで、(「地上十メートル地点の風」といったように)高度別に風の動きが推定できることです」

人力で地上の風向を調べ、職人技で算出していた従来の手法とは一線を画す技術で、風力発電設備の「失敗」を減らし、調査のための不要なコストを抑制できるメリットもある。

「また、欧州のような先進国は、ガスのパイプラインといったライフラインの老朽化問題への活用も注目されます。実際に、衛星データから点検や改修の問題箇所を探し、集中検査の情報を提供する『Orbital Eye(オービタル・アイ)』という企業が2012年に創業しました。

レーダーで地表を調べる合成開口レーダー(SAR)衛星データを利用し、インフラの傷やへこみがわかるようになってきています。

これは、日本でも問題視されている、橋梁の老朽化判定にも応用できる技術です」

衛星データは経済発展まで「見える化」する

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NASAが毎日公開している世界の夜間光観測画像。2020年8月22日公開のもの。

NASA

エネルギーにインフラ、生活に密着した分野以外にも、大金が動く金融や損害保険にも活用例が出てきている、と永金さん。

使う衛星データの1つは、驚くことに「夜間光」、いわば衛星からみた「夜景写真」だ。

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撮影:岡田清孝

「“夜間光”という衛星から見た地上の人工照明の明るさで発展途上国の経済状況を推定する手法を使い、経済状況を指標化して提供する金融向けのビジネスがあります」

この手法が優れているのは、集計・発表のスピードだ。一般の経済指標は四半期ごとなど調査に時間がかかるが、衛星データを使えば、極端な話「毎週3回出すこともできる」(永金さん)。

同様に、地表面の色を観測してコンクリート地帯の広がり方という客観的なデータから中国の成長率を調べて投資家向けにレポートを作成するといった動きもある。

永金さんは、「衛星データを使ったビジネスは、既存データや産業との組み合わせの“アイデア勝負”。解析能力と“何と何のデータを組み合わせて測るのか”というアイデアがあれば、大企業だけでなく小さな企業も参入できるのがこの業界の特徴」だと、熱をこめて語る。

ゲーム産業より小さな日本の宇宙産業にはポテンシャルがある

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2019年2月、Tellusのローンチイベントの様子

出典:さくらインターネット

Tellusはこれから、どんな使われ方を目指しているのか?

「現在、日本には宇宙産業の従事者が9000人くらい。官需を除けば民間需要は4000億円程度くらいしかありません。ゲーム産業よりはるかに小さな産業なんです。

これが大きくなるためには、第一階層にデータを生み出す人たち、第三階層にデータを利用してビジネスを行う人たちがいて、さらにその間をつなぐ“第二階層の人たち”が必要になります。

(Tellusも含めた)第二階層の役割は、“ビジネスで使える”とユーザーに気がついてもらうこと。衛星データだけではなく、組み合わせる地上のデータも必要になります」

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Tellus OSで既に提供中の地上データの一例。衛星データに加えて、宅地利用動向といったデータを組み合わせると、異なる価値を持つデータになる可能性がある(実際の表示を2段に分けて画像化しています)。

出典:Tellus

例えば、人の動きを可視化する“人流データ”×衛星データのような例がもっと増えて、“衛星データに価値を生むプラットフォーム”にすることが目標だと、小笠原さん。

「さくらインターネット、Ridge-i、akippaの3社共同実証の成果は、わかりやすい事例になりました。衛星データとAIを活用して、駐車場用のスペースを自動検出するプログラムをつくったら、当初から75パーセントの精度が出ました。

まだアイデアの段階ですが、“ここの周辺の土地が空いている”といった情報と、近隣にどんな運送会社があるかが分かれば、どこにakippaさんが営業をかけるべきかまで、自動化できるかもしれない」

解像度高く事業への応用を考えられるビジネスリーダーにとっては、衛星データは、文字通り上空からの「新たな視点」をビジネスに持ち込める、ということだ。

衛星データに触れることは、驚くほど簡単。「7日でマスター!基礎から学ぶ衛星データ講座」では、「Tellus OS」から、無料でいろいろなデータに触れる方法などを解説している。

今年度中には、Tellusのユーザーが解析してつくったデータや、衛星データの分析アルゴリズム、アプリなどを販売するマーケットプレイスもオープンする。

「将来的に、マーケットプレイスがTellusの看板になり、衛星データから課題解決の手段を創発したい人たちにとってはTellus OSと開発環境がある、という状態にすることが直近の目標です。

人工衛星の名前と機能の知識がなくても、極端な話、経営者がパッと触って、ビジネスの思考を巡らせられるツールにならなければ」(小笠原さん)

ブラウザーでも使える日本版衛星データプラットフォームは、以下のリンクからすぐに使い始められる。

■日本発「衛星データプラットフォームTellus」の詳細はこちらから

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