「安倍首相しか知らない世代」大学生8人に聞いた8年間「政治を諦めた」「プラマイゼロ」…

安倍首相

安倍晋三首相は8月28日、辞意を表明した。

安倍晋三首相が持病の悪化などを理由に辞意を表明した。

2006年に52歳という歴代最年少で内閣総理大臣に就任。持病の悪化を理由に約1年で辞任したが、2012年に首相に返り咲いた。連続在任期間は8月24日に2799日に達し、歴代最長記録を更新した。

いま20歳前後の大学生たちにとって、社会的な関心を持つようになってからずっと、日本の政権トップは安倍首相だった。

安倍首相以外のリーダーを知らない世代にとって、安倍政権はどう映っていたのだろうか?

「首相といえば安倍さんだけど」(大学4年・女性・22)

若者

政治家に「税金をちゃんと公正に使ってるの?」という不信感が生まれたという。

撮影:今村拓馬

都内の大学に通う4年生女性(22)は、「鳩山(元首相)とか菅(元首相)とか、名前は知っているけど、日本の首相といえば安倍さん」と言い切る。

しかしそのイメージは、必ずしも好ましいものではない。

高校1年生の時ニュースでは、安全保障上の情報を「特定秘密」として、漏えいした場合の罰則などを定めた特定秘密保護法ばかりが報じられ、その後は森友学園と安倍首相の関係を巡るニュースでもちきりだった。

『政治って隠蔽(いんぺい)されていくんだ』と感じたのを覚えています。大学に入ってテレビ局でアルバイトしていた時も、モリカケのニュースばっかりだったので、印象に残っています。経済が良くなったという話はあるけど、政治家に対しては『税金をちゃんと公正に使ってるの?』という不信感を持つようになりました」

Twitter世代の「初めての首相」

Twitter

安倍首相は、Twitter世代にとっての初めての首相だと語る大学生も。

撮影:今村拓馬

2015年、高校2年生の時にTwitterを使い始めたという大学4年生男性(22)は、安倍首相はTwitterが幅広く使われるようになってから現れた、初めての総理大臣という印象を持っている。

TwitterなどSNSなどが普及した時期と在任期間が重なっていること、さらに第2次安倍政権になって官邸が積極的にSNSを活用したことなどが影響している。

高校時代はおもしろツイート集などしかフォローしていなかったが、大学では法学部へ進学したことを機に、政治のニュースにも興味を持つようになった。

思想家の内田樹氏とロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカルの後藤正文(ゴッチ)氏のTwitterをフォローしたことで、安倍首相への批判的な意見を目にするようになり、政治を身近に感じたという。

「(ゴッチ氏について)メジャーデビューしたアーティストが先頭を切って発言するのはすごいなと思った。ミュージシャンとかアーティストが政治について発言することで、批判への敷居は下がったと思う」

同じく、SNSと安倍首相の強いつながりを語るのが、大学4年生男性(24)だ。そのSNSによって、政治的な分断が深まったと指摘する。

「安倍首相がしたこと、発言したことに賛同か否かだけで判断して、極端に嫌う人と極端に支持する人が増えたように感じています。安倍政権の8年は、“政治思想が極端に2極化していった”8年だったかな」

政治を意識しないととんでもないことに……

若者

「もう日本はあきらめた」と語る大学生も。

撮影:今村拓馬

社会人1年目の男性(23)は、日本国憲法の解釈を変更して集団的自衛権の行使を可能にしたこと、森友・加計学園問題を機に、安倍政権への信頼を失ってしまった。「批判を聞き入れない首相だと思った。もう日本はあきらめた」と厳しい。

「特に公文書改ざん問題については、何度も追及されながらも辞任に至らなかった。政治について考えないと、とんでもないことになると知った出来事だった。

そうした状況を受け入れ続けた結果が、今の日本のコロナ対策の状況。もはや日本は手遅れ。この先もダメ」

大学4年生の男性(22)は「日本は安倍政権の8年で幼稚な国になってしまった」と語る。

「本来は法律による手続きに乗っ取って政策を決めなければならないのに、手続きを軽視したような形が横行しているような不安があります」

「安倍ちゃん」って呼んでたのが印象的(大学4年・女性・21)

安倍首相

「国民と首相の距離が近くなった」と語る大学生も。

REUTERS / Yves Herman

大学4年生の女性(21)は、「若者に歩み寄ろうとしていたのは嬉しかった」。安倍首相は「国民と首相の距離を近くした首相」とも言う。

「友達や家族が、“安倍ちゃん”という愛称で呼んでいましたし、モノマネもよくされてましたよね。小学校時代にNHKで見ていた小泉純一郎首相は、そんなに近しい存在とは思えなかった

安倍首相がインスタグラムやTwitterなどSNSで積極的に発信していたり、「桜を見る会」でタレントを呼んでいたことも、印象に残ったという。

「功績を残した感じはないけれど、“プラマイゼロ”感がある。そういえば奥さん(安倍昭恵氏)がアンチの人と握手をして写真を撮っている画像も出回ったりしてて、なんとなく憎めない」

「過去にはコロコロと首相が変わっていて落ち着かなかったから、ある程度長期にわたる政権だったのは、良かったんじゃないかな」

他に任せられる人がいなかった(大学4年、男性、22)

若者

政治における「一強多弱」が進んだ8年でもあった。

撮影:今村拓馬

大学4年生男性(22)は、安倍政権を「本当に日本のために頑張っていたイメージ」と評価している。

「努力でここまで来たイメージがある。新型コロナ対策として1人10万の給付金を決断してくれたことも良かった」

一方で、長期政権によって、政治への関心は薄まったとも感じている。

「安倍政権が選ばれ続けた理由は、安倍首相が良かったのではなく、他に任せられる人がいなかったからだと思う。安定して地道に景気回復へ向かってきたので、特に若い世代は投票しなくても問題ない、投票しないことによる危機感が薄まったんじゃないかな。投票率も下がってるしね」

ズルいけど上手かった(大学4年、男性、21)

安倍首相を「ズルいけど見せ方はうまかった」と評するのは、大学4年生の男性。

「『野党が反対しかしてない』というイメージを国民に植え付けることで批判を回避し、内容はどうであれ、多くの政策を“実行”してはきたと思う。安定感を見せることで国内外で一定の信頼の獲得はできたのでは」

その一方で代償も大きいともいう。

「国会での発言時間等を調整し、批判を上手く避け続けてきたように感じます。私たちが考え、発言するのはダサいことだと、感じさせる空気ができてしまったのが、この8年だったのかもしれない」

(取材・構成、西山里緒 横山耕太郎戸田 彩香丹治倫太郎

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