次期総裁にとっても、全党員投票で選ばれたということが力になる、と小泉環境相は主張する(撮影は7月17日)。
撮影:今村拓馬
自民党総務会は9月1日、総裁選の党員・党友投票見送りを決めた。
安倍首相の突然の退陣表明で、本来、自民党総裁は全党員投票と国会議員の投票を経て決まるが、今回は“緊急時”を理由に、国会議員らによる両院議員総会で決めようとする流れができつつあった。
一方、若手議員らを中心に、本来の手続きである全党員投票をするべきだと主張する声も根強かった。その中心である小泉進次郎環境相に、Business Insider Japanは8月末、Zoomで独占取材していた。
—— 安倍首相の後任総裁を選ぶ総裁選を、自民党の党員投票を経ず両院議員総会で行うことが決定したかのような報道もあります。それに対し、小泉さんは「全党員投票をするべきだ」と主張されています。
当たり前のことを言っただけです。誰が次の総裁に選ばれたとしても、全ての自民党員が投票した結果だということが、新しい総裁にとっての力になります。 だから、党員投票は「省略」するべきではない。 これは民主主義の基本です。
党員の中にもさまざまな意見があり、中には自民党は変わらなくては、という前向きな意見の人もいます。そういう人たちは今回投票の機会を与えられなければ離れていくでしょう。
緊急時だからこそ、党員全員が参加し、みんなの意見を聞いたという手続きが大切です。
—— 全党員投票をやるべきという人は党内でどのぐらいいるのでしょうか。
そう言った声は徐々に広がってきています(取材は8月29日)。私が所属する自民党神奈川県連は党員投票を求める動きをしており、他の都道府県連でも同じような動きが出ています。自民党の国会議員だけでなく、地方議員、地方組織、党員にも声は広がっています。
「違う論理」で動く人たち
持病の悪化による辞任を表明した安倍首相。1人で決断したという。
Franck Robichon - Pool/Getty Images
—— 自民党党則6条によると、「緊急を要するときに両院議員総会で後任総裁を選任できる」と。この緊急という解釈の問題になると思いますが。
28日の会見でも総理は、「私の体調は大丈夫だから、政策論争してもらいたい」とおっしゃっていました。前回辞任された時は、総理の体調は今回以上に切迫していたと思います。
しかし今回は、次の総裁が選ばれるまでは自分は職責を全うする、そこは前回とは違う、と。しっかり政策論争をやった上で次の人が選ばれるために、このタイミングで辞意を表明されたのだと思います。
一方で「こういう緊急事態だから早く終わらせるべきだ」という人たちは、その総理の言葉とは「違う論理」で動いています。
——違う論理とは?
どういうやり方であれば総裁選で自分たちに有利なのか、という理屈で動くということ。つまり自分たちが勝たせたい人が勝ちやすいのはどういう方法か、勝たせたくない人にプラスにならないやり方は何かということで、その議論に党員の投票権の行使をどう考えるかなどがなく、党員不在の議論になっています。
「両院議員総会で」と主張する人たちは、「コロナ感染下の緊急時だから」という理由を述べますが、緊急事態宣言下でも静岡では衆院補選が行われ、感染が再び拡大する中で東京では都知事選も行われました。今も日本の全国各地で選挙は行われています。
党員投票は郵便投票で、密になる心配もない。なのになぜ全党員投票を避けようとするのか、むしろその人たちに聞いて欲しい。
自民党を離れる人も出てくる
2018年自民党総裁選では、安倍首相が石破茂氏を破り、3選を果たした。
Reuters/Toru Hanai
—— 党員投票をすれば、党員に人気のある石破さんに有利になる、だからかつて総裁選で石破さんを支持した小泉さんは全党員投票を主張しているのでは、という指摘については?
その認識はまったくの誤解です。石破さんだろうと、他の人だろうと、一部の人が選んだ、自分たちが投票していない、と思われる中で、一国の総理として仕事を始めるのはきついと思います。
党員投票にすれば、仮に自分の意中の人が総裁にならなかったとしても、選ぶ過程に自分が参加した、多くの党員が選んだ人はこの人なんだと納得してもらえます。
選ばれた側も全党員の投票の結果選ばれたということが、職責を全うする上で最大の力になる。そもそも選挙で選ばれている衆院・参院議員はそのことを一番わかっているはずです。
—— 両院議員総会だけで決めた場合、どんなしこりが残ると思いますか。
誰が当選しても、全党員が総裁選に参加しなかったことに負い目を感じることになるでしょう。また、私に限らず開かれた総裁選を主張していた人たちは声を上げるでしょうし、参加する機会を与えられなかった党員の中には自民党を離れる人もいるでしょう。
総裁選は自民党の党員投票ですが、党員に限らず全ての国民が注視しています。総裁が選ばれるプロセスを広く共有することは、政治への信頼を高めることにもなります。
さらに言えば、今後世界は米中対立も含めて、民主主義国家と国家統制の強い国の対立が強まる中で、日本が史上最長政権の後のリーダーをどう選ぶのか、開かれた民主的なプロセスで選ぶかどうか、世界中から見られています。
我々が拠って立つところは、民主主義であり、自由であり、多様性なんだということを身をもって示すためにも非常に大切な機会だと思います。
撮影:今村拓馬
—— 長期政権が続く中で、党内にも多様な意見をすくい上げる機会がなくなったという不満の声がありました。
安倍政権が長期政権を築き、運営したことには評価の声も大きい。
その一方で党内のさまざまな声を反映させる仕組みや運営は必要だと思います。さらに全国の党員の方からの批判の声も、それぞれの議員には届いています。議員たちはそういう声もわかっている。ここで党員の声を聞かないという選択をした場合、その後どんなことが起きるか。私は党員の声に接している人ほど、そういう危機感を持っていると思います。
—— 最後に。小泉さんご自身は今回の総裁選に出馬を考えていらっしゃいますか。
総裁選は1人だけの気持ちでは出られません。仲間が支えてくれなければスタート地点にすら立てません。その中で自分がどう判断するか。
今回もし河野さんが出れば応援します。河野さんとは環境省と防衛省の縦割りに縛られない連携を進めてきた中で、国会改革、規制改革、エネルギー改革など、令和の時代に自民党が本気で取り組むべき課題を前に進められると思いました。
自民党が新しく変わる姿を国民の皆さんに見せたい。そのためにはリーダーの選ぶ機会を全ての党員に与え、自民党の多様性を示す候補による政策論争が繰り広げられる総裁選を実現したいと思っています。
(聞き手・構成、浜田敬子)
※編集部より:自民党総務会の動きを受けて、一部加筆しました。2020/09/01