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「ぐっすり眠りたい」を叶えるために。筑波大発のスリープテックベンチャーがついにサービス開始

睡眠

眠りに悩みを抱える人は思いのほか多い。

GP PIXSTOCK/Shutterstock.com

日本は「眠らない国」だ。

2019年に経済協力開発機構(OECD)が発表した睡眠時間の国際比較では、最下位の平均442分。

寝具販売で知られる西川が公表している睡眠白書2019でも、日本人の7割近くに、少なからず不眠症の疑いがあるといった結果があらわれている。

ただでさえ睡眠時間が短い中で、いかに眠りの質の向上させることができるのか、テクノロジーで解決する取り組みが進んでいる。

いわゆる「スリープテック」だ。

トップレベルの睡眠研究者が創業したベンチャー

不眠症の割合

調査対象は日本全国の18~79歳までの男女10000人。そのうちの7割近くの人に、少なからず不眠症の疑いがみられた。とくに、20代〜30代では、不眠症の疑いがある人の割合が高い。

出典:西川 睡眠白書2019~日本人の睡眠調査~

スリープテックベンチャーS’UIMINは、9月1日から同社初のサービスとなる睡眠計測サービス「InSomnograf」をスタート。

「誰でも簡単に場所を選ばず高精度な測定ができるウェアラブルデバイスとAIの活用によって、 自宅等のあらゆる場所で、 臨床レベルの測定が可能なシステムを実現した」(同社リリース)

と、睡眠に関する研究開発を行う企業や研究機関向けに、低コストかつ高精度のデータ提供を行うとしている。

S’UIMINは、睡眠研究において世界トップを走る筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史機構長が2017年に創業した筑波大学発の注目ベンチャーだ。

スリープテックの4つの手法

ウェアラブル端末

ウェアラブル端末によってヘルスケアデータを得ようとする試みは多い。

Twin Design/Shutterstock

「スリープテック」と銘打つサービス・製品はいくつか存在するが、大きく4パターンに分かれている。

まず、スマホアプリなどを使った睡眠管理を行うタイプ。次に、Apple Watchなどのウェアラブルデバイスで睡眠時の脈拍などを記憶するタイプ。さらに、センサー付きマットレスのように、睡眠時の体の状態を検知して記録しておくタイプ。

そして4つ目に当たるのが、今回S'UIMINが開発したInSomnografが含まれる「脳波の計測」を行うタイプだ。

S’UIMINの事業本部長、樋江井哲郎氏は

「これまで睡眠関連の研究や製品開発では、対象者の睡眠状態を把握するためにアンケートや活動量計などが用いられてきました。しかし、アンケートは対象者の主観的な評価にもとづくため、バラつきがあるなど客観的な結論が出しにくい。睡眠・覚醒を体の動きから推定する活動量計でも、睡眠の質については限られた情報しか得られませんでした」

と話す。

研究の客観性を確保する上で、ヒトの睡眠状態の研究では脳波の計測は欠かせない。

脳波をもとに、眠りのステージを分析

デバイス

S'UIMINのウェアラブルデバイスを装着したイメージ。

提供:S'UIMIN

人が眠っているとき、脳はレム睡眠とノンレム睡眠の2つの状態を行き来しているというのは有名な話だ。

しかし研究レベルでは、もっと細かいステージに分けて考えるのが一般的だ。

脳波を精密に測定することができれば、この細かなステージを正確に把握し、人の眠りの良し悪しを判定することが可能となる。

ただし、もともと脳波を計測する手法には、課題が多かった。

正確な測定を行うには、専用の研究機関や病院に泊まり込む必要があり、手間や費用がかかる。

また、脳波を測定できるウェアラブルデバイスは既にいくつか存在するものの、簡易的なものだと眠っている間にセンサーが外れて測定がうまくいかないケースなどが目立ち、研究レベルで使える精密なデータを測定することは難しかった。

S’UIMINは、自宅でも使用可能なレベルの簡易的かつ、装着に関わる問題も解決されたデバイスの開発に成功。これで、研究レベルで使える精密な脳波の測定が可能となった

同社によると、今回開発したウェアラブルデバイスと、研究レベルで使用される測定方法で検出された脳波の一致率は、平均83%以上だという。

熟練の臨床検査技師の目をAIで代用

レポート

企業、研究機関向けのサービスとはいえ、被験者には細かな分析結果が記されたレポートが提供される予定だ。

出典:S'UIMIN

たとえば、眠りが浅い状態から深い状態に段階的に移行して、ある程度安定して深い睡眠を取れるようであれば、眠りの質は良いといえる。一方、睡眠中に頻繁に睡眠のステージが変わったり、眠りが浅い時間が長かったりした場合は、睡眠の質は良いとはいえない。

脳波を解析できれば、このような睡眠状態の細かなパターンが正確に把握できるようになるわけだ。

しかし本来、脳波の解析は、専門の訓練を積んだ臨床検査技師によって行われるもの。コンピューターを使っても、単純に解析できなかった。

S'UIMINでは、脳波の解析のために筑波大学計算科学研究センターとAI解析システムを共同開発。深層学習などを用いることで、世界的にもトップレベルの能力を有する解析アルゴリズムの開発に成功している。

その解析精度は、熟練の臨床検査技師との一致率で80%程度にまで及ぶ。今後、継続的なデータ収集と追加学習によって、さらに精度が高められる予定だ。

「ほどほどに睡眠状態が悪い人」を救う術が無い

S'UIMIN

撮影:三ツ村崇志

今回のサービスは、まずは企業・研究機関を優先に提供される予定だ。

S’UIMINの藤原正明代表は、

「より多くの企業が本質的な睡眠改善につながるプロダクトの開発を追求しはじめており、実際、当初の予想を上回る引き合いがありました」

と、その背景を語る。

また、企業や研究機関への先行提供はそれ以上の意味も持つ。

同社としては、最終的に健康診断などのオプションとして睡眠状態の検査を行うことを想定しており、検査結果が悪い人に対しては、必要に応じて専門機関(不眠症専門医など)の受診を勧めるといった対応を考えているという。

ただしそこで問題となるのが、睡眠状態が病院に行くほどではない「ほどほどに悪い人」へのソリューション。睡眠状態を改善するという製品やサービス、サプリメントなどの存在が話題にのぼることは多いものの、科学的に効果が検証されものは現状では見当たらない。

「本サービスを研究機関や企業に優先して提供することで、そういった研究開発を後押しするだけでなく、その先には、睡眠に悩む方々が科学的に正しい根拠を持ったプロダクトを手にするあるべき未来につながると考えています」(藤原代表)

エビデンスベースの製品開発によって、スリープテックのプロダクトに科学的な再現性・客観性を持たせる。

S'UIMINのサービス提供は、業界全体を後押しする意味合いも強い。

文・三ツ村崇志

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