8月28日の会見で辞任を表明した安倍首相。辞任については、各国のメディアでも報道された。
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安倍晋三首相が8月28日に辞任を表明したことを、海外メディアは比較的大きく報じた。日本のSNSなどでは、「病気で辞任するのであれば仕方がない」というコメントも見受けられる中、米メディアは厳しい報道が目立つ。
初期には成功したアベノミクスだが
米紙ニューヨーク・タイムズは辞任を伝える記事とは別に、「シンゾー・アベの遺産」とした外交、内政、経済政策と3つの分野に分けて解説記事を配信。「日本の経済、軍事、国家の誇りを回復させるという保守派の命題について、まちまちな結果を出すにとどまった」とした。
・外交
課題「安倍氏が2013年に靖国神社に参拝したことで、韓国との関係において、日本が戦時中の残虐行為に対してどのぐらいの期間、どう償われるべきかという緊張感のレベルが過去数十年で最も高まった」
・内政
課題「安倍首相が日本の軍(訳注:自衛隊)を『正常化する』という目標は、最終的に失敗した。安倍氏は日本の国民を揺さぶるほどの力がないことが証明された」
・経済政策
功績「最も長続きした遺産は、かつての日本経済を復活させようとした一連の経済政策だろう」
課題「(アベノミクスは初期には成功したが)新型コロナウイルス危機の影響で、日本経済は戦後最大の落ち込みを経験し、打撃を受けた」「(アベノミクスの目玉の一つだった女性政策である)ウーマノミクスは実を結ばなかった」
後任を育てなかった安倍首相
在任中何度か行われてきた日米首脳間でのゴルフ外交。写真は2019年5月にトランプ米大統領が訪日した際。
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ワシントン・ポストは、トランプ米大統領との友情関係にも触れた。2017年に米南部フロリダ州で行った日米首脳の「ゴルフ外交」などで関係を強固にし、2019年5月、新天皇・新皇后が即位した後、外国人の首脳として初めての会見をを果たすまでに発展した、と伝えている。
一方、この辞任が経済に与える影響についても言及している。
内閣府が8月17日発表した2020年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は年率換算で27.8%減少するなど、新型コロナウイルスの影響で戦後最大の落ち込みとなった。同紙は「安倍の辞任は、不安定な経済を少なくとも短期間、悪化させる可能性がある。辞任表明後、日経平均株価は急落した」と伝えた。
どの国にとってもトップの健康状態は国内外から非常に注目される。歴代最長の在職日数を更新した日(8月24日)に病院に検査に行く、ということ自体、海外から見ると異例中の異例だ。それは即、国家の「信頼」を下げることになるからだ。
同時にワシントン・ポストは「ポスト安倍」については、「安倍首相は長期政権だったにもかかわらず、後継者を育てなかった。もっとも国民に人気があるのは、安倍氏のライバルである元防衛相の石破茂氏だ」と報じている。
辞任は病気だけが原因なのか
安倍首相主宰で行われた「桜を見る会」。森友・加計問題や「桜を見る会」に関する疑惑の解明は残されたままだ。
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もっと手厳しい報道もある。
「安倍は辞任するのではない、逃亡するのだ」
と、センセーショナルに報じたのは、米リベラル系ニュースサイト「デイリー・ビースト」だ。
筆者の米国人ジャーナリスト、ジェイク・エーデルスタイン氏は日本在住。過去に読売新聞の勤務経験もあり、日本の暴力団の世界を12年間にわたりルポした。
記事は、安倍首相が「桜を見る会」で全国の弁護士約660人から公選法違反などの容疑で東京地検に告発されていることや、安倍氏が選んだ元法相が東京地裁で係争中だとも伝えている。
「逃亡する」と報じた根拠について、自民党幹部が匿名を前提に応じた取材の内容を紹介している。
「安倍が、彼が選んだ人間だけで検察を固めてられていたら……彼はまだ権力に固執していただろう。辞任することで、安倍は当局の厳しい目から逃れられると思っている」
前出のニューヨーク・タイムズは8月30日付で、上智大の中野晃一教授の寄稿「安倍晋三は病である しかし、彼の辞任はそれだけが理由か?」を掲載した。
中野氏は新型コロナウイルスの感染が拡大する中、他の首脳に比べて国民の前に出ることが少なかったこと、河井克行元法相夫妻らの公選法違反疑惑などを問題視。これまでも森友・加計問題や「桜を見る会」で議会やメディア、国民への説明責任を果たさなかったとした。
寄稿は、こう終わる。
「日本の在職最年長の首脳が、スキャンダルから一目散に逃げ、彼が尽くすべきだった国民からの信頼に応じることを避け、公職を退いていく」
(文・津山恵子)