「オンライン映え」のためパソコンの前に顔用ライトを置く就活生もいる。
取材協力者提供
新型コロナウイルスの影響で、就活生の面接もオンラインが主流になりつつある。
2020年夏に行われるインターンシップもオンラインで開催する企業も多く、パソコンの画面に自分がどう映っているかは、就活生にとって大きな関心事だ。
就活生の中には、Web面接に備えてカメラの性能のいい最新型のパソコンに買い替えたり、より顔が映えるようにと、ライトやメイクを調節したりと、「オンライン映え」にこだわる学生もいる。
「メイクは1.3倍、テンションは1.5倍」
「Web面接では他の就活生に埋もれないように、元気と笑顔を意識した」とリョウコさんは言う(写真はイメージです)。
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大手食品メーカーから内定を受けた都内の私立大学に通う4年生のリョウコさん(仮名、22)は、徹底的に「オンラン映え」を追求した。
「面接開始の5分前に待機し、画面に面接官が映ったらすかさず『おはようございます』と大声で叫びます。 Web面接ではテンションはいつもの1.5倍、メイクは濃い目に1.3倍が基本。
とにかく大事なのは、最初に映像に映った時の『とびっきりの笑顔』だと思っています」
リョウコさんは2020年1月から本格的に就活をスタートさせ、まずは大学で開かれた面接セミナーに参加した。
「セミナーでは身だしなみの大切さを教わりました。『髪の毛1本でも乱れないように』とか、スーツのしわ、ノックの仕方にも注意するように言われました」
当時はまだ、学生有利の売り手市場だったこともあり「危機感はなかった」と言うが、新型コロナの影響で状況は一変した。
「説明会などが中止になり、企業との接点がないまま就活が始まりました。インターンに参加するなど早めに就活を始めていた友達は、2月頃には内々定をもらっていたこともあり、一気に焦りが出ました」
面接はスマホ録画して振り返り
リョウコさんは「Web面接でどうすれば印象に残るのかを考えた」と話す。(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
4月から始まったWeb面接では「失敗は許されない」という焦りから、「オンライン映え」には細心の注意を払った。
「面接セミナーで『ノックの仕方』を教わりましたが、Web面接にノックはない。何万人もの学生がいる中、どうすればオンラインでも覚えてもらえるか考えました」
面接の様子は、面接官に気づかれないようにスマホで撮影。面接後には動画を見直し、光の調節や目線、声の大きさやリアクションの大きさを修正したという。
「パソコン前に蛍光灯スタンドを置いて、窓からの自然光と組み合わせます。午後になると、光の関係で映りが悪くなるため、面接は必ず午前中に予約しました」
リョウコさんは実家暮らしで、自宅にもともとWi-Fi環境があったが、もしもの時に備え、もう一つWi-Fi回線も用意した。パソコン本体も、カメラとマイクの性能がいい最新機種を25万円で購入したという。
画面上で役員の顔が見えず……
リョウコさんは「面接官の顔が見えずらいWeb面接もあった」と言う。
撮影:今村拓馬
就活生側がどんなに準備をしたとしても、Web面接では、面接官の声が聞きとりにくかったり、こちらからは面接官の顔がよく見えなかったりすることもあった。
「大事な役員面接の時、先方が離れたカメラを使っていたせいか、画面に映った顔が豆粒くらいの大きさでした。役員の表情が分からず、声しか聞こえなかったのですが、とにかく元気の良さが伝わるよう、全力の笑顔で受け答えをしました」
「オンライン映え」の成果もあってか、リョウコさんは希望していた大手食品メーカーへの内定を勝ち取った。
「就活では『オンライン映え』も必要だと思っています。映り方の工夫をしている人と、してない人がいた場合、同じ実力なら『オンライン映え』している人を取ると思います」
「スーツの着方よりも差が出る」
大学3年生を対象にしたインターンでも「オンライン映え」を意識している就活生もいる(写真はイメージです)。
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都内の私立大学3年のシュンスケさん(仮名、21)は、現在、サマーインターンの真っただ中。インターンの面接でも「オンライン映え」の必要性を感じたという。
「外資系投資銀行などの集団Web面接では、みな背景や映り方にもこだわっており『オンライン映え』のレベルが高い。
画面にどう映るのか、これは『スーツをうまく着こなせるか』というマナーよりはるかに差が出る気がします」
シュンスケさんは、就活初心者むけのオンライン講座に出たこともあったが、外資系コンサルのインターンに比べると、意識の差は明らかだったという。
「背景に洗濯物が映っていたり、顔が暗かったり、雑音が多かったり、Wi-Fiトラブルが頻発したり……。いろいろ事故が起きました。外資系企業の集団面接ではそういうことは全く、準備の大切さを感じました」
あえてメモを取る姿見せることも
大勢の就活生が集まる合同説明会。2020年春は中止が相次いだ。
撮影:今村拓馬
シュンスケさんもオンライン就活に対応するため、環境整備を怠らない。
顔用のライトに加え、長時間のインターンに耐えられるようにオンラインゲーム用のチェアを用意。オンラインインターンでの作業がしやすいように、L字型のデスクもそろえた。
「Web面接では目線にも注意しています。カメラの近くに紙を貼って、そこを見つめて話しています。
普段メモはパソコンで打って別のディスプレイに表示させているのですが、面接中にメモを取る姿を故意に見せるときは、あえて手元の紙に書いています」
インターンシップでは、1日8時間パソコンに向き合いながら課題をこなすこともあるが、社員の目もあり、画面にどう映っているのか気を抜けないという。
「相手の画面を長時間見るわけなので、配慮は絶対に必要。Web面接が続く限り、『オンライン映え』は重要だと思います」
コロナショックにより、従来の就活モデルは大きく変わっている。
これまでのように、会社説明会に行ったり、OB訪問したりできなくなったことで、不安を抱えている大学生も多い。「オンライン映え」の追求は、コロナ禍での就活に対する、就活生の不安の現れと言えるかもしれない。
(文・横山耕太郎)