妊婦やそのパートナーらに行ったアンケート調査で、コロナ禍出産の現実が浮かび上がった。
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「入院直前に面会も立ち合いもできないことが決まり、ショックで数日泣いて過ごしていました。夫は我が子に1週間会うことができませんでした」
検診にパートナーが同行できない、出産後に家族のサポートが受けられない——。
新型コロナウイルスの影響で、思い描いていたような妊娠・出産、子育てができず、不安を感じている母親は少なくない。
NPO法人ファザーリング・ジャパンとスリールが実施したアンケートでも、コロナ禍で、産入院中に家族やパートナーの面会ができた人は希望者9割に対して2割のみと、コロナ禍出産の実態が浮き彫りになった。
アンケートは8月11から23日、インターネットで実施。コロナ前後で妊婦や出産を経験した女性とその配偶者、また子育て中の男女計558人が回答した。回答者の内訳は、2020年2月までに出産した「コロナ前出産」が7割、3月以降に出産、または現在妊娠中の「コロナ禍出産」が3割。回答者の属性は、妊婦と母親が計79%、妊婦のパートナーと父親は21%だった。
「入院中に面会できた」は2割
コロナ禍では、入院中の面会が大きく制限された。
出典:コロナ禍前後の妊娠出産に関するアンケート
アンケートによると、妊婦検診にパートナーや家族が同伴できなかったり、産後入院中に面会を制限されたりしたケースが多かった。
コロナ前に出産した場合、妊婦検診にパートナー・家族が同伴できたのは87%だったが、コロナ禍出産では、同伴できたのは32%だけだった。
入院中の面会も自由にはできなかった。
コロナ禍出産の場合、「産後入院中にパートナー・家族との面会を希望する」とした妊婦は86%に上ったものの、実現できたのは20%だった。
アンケートの自由記述ではこんな声もあった。
「帝王切開でしたが、その時の大変さを夫と共有できなかったことは、産後の夫婦関係にも影響すると思います。
産後は自治体や病院での産後ケアに関する講座やセミナーが軒並み中止。家族以外話す機会もなく家にこもりきりなので精神的にも辛いです」(東京都女性)
オンラインで出産立ち合い
コロナ前後で「出産立ち合い」の希望は約8割と変わらなかったが、コロナ禍で出産に立ち合えたのは4割だった。
出典:コロナ禍前後の妊娠出産に関するアンケート
出産の立ち合いも制限された。
「出産への立ち合い」については、コロナ禍でもパートナーの83%が希望していた。しかし、実際にコロナ禍で出産に立ち合えたのは40%。コロナ前の出産では87%が立ち合いを実現させており、約50ポイントも低下していた。
一方、感染リスクを避けるため、オンラインで立ち合いを行ったという人もいた。
アンケートでは「第1子出産時、夫は(ビデオ通話ソフトの)Face Timeでオンライン立ち会いをしました」、「友人が出産時、LINE電話を繋げながら出産した」という回答があった。
また産後のケアについてもオンラインの活用を望む意見が多く、「妊婦健診に夫がオンラインで同席できるようにする」といった意見や、育児について学ぶ「両親学級」や産後エクササイズについても、オンライン化を求める声があった。
男性の育休取得58%から67%に
ファザーリング・ジャパン理事の塚越氏。塚越氏は3児の父でもある。
撮影:横山耕太郎
父親の「育休の取得」については、コロナ後に取得率が増えている。
「父親の育児休暇・休業取得(家族をサポートする目的取得した有給休暇も含む)」では、コロナ前の出産の場合、取得できたのは58%。それがコロナ禍の出産では、67%が取得している。
アンケート調査を行ったファザーリング・ジャパンの塚越学理事は、妊婦を支える立場として、父親が果たす役割が増していると話す。
「コロナによって家族や病院などのサポートが受けにくい状況になり、妊婦・母親は孤立している。その最後の砦が父親です。男性育休は、さらに積極的に取得するべきです。
妻だけが不安を抱えるのではなく、当事者として妻と同じレベルで感染の恐怖を共有するなど、同じ方向性を見る必要があります」
新生児の父に歓迎会の誘いやめて
夫婦間でコロナ感染への危機意識の差があることもある。
撮影:今村拓馬
父親の感染リスクについて、企業の理解のなさを指摘する声もあった。
「『赤ちゃんが生まれたばかりの父親は飲み会に誘うな』というのが社会の常識になってほしい。父親になる人が依然として宴席に参加することに、これほど怒りを覚えるとは妊娠するまで思わなかった。
夫は新生児がいるのを伝えているにも関わらず、このコロナ禍で歓迎会の主役として飲み会に誘われていました。参加は断ってもらいました」(埼玉県女性)
前出の塚越氏は、企業や国がコロナ禍であっても、安心して出産できる環境を作る必要があるという。
「妊娠中の妻をもつ社員については、出産予定の1カ月前からリモート勤務にしたり、出社を制限したりする制度が必要だと思います。コロナ禍であっても新しい命を守るというメッセージを、企業だけでなく、国としても発信していってほしい」
「不安を共有できず、寝不足でボロボロ」
アンケートにはコロナ禍での出産や子育てについて、切実な声も多かった。
撮影:今村拓馬
アンケートには他にも、妊婦や母親の悲痛な声がいくつも並んだ。
「立ち合い出産ができなかったのは、この状況で致し方ないです。ただ一生に数回あるかないかのことなのに、とても残念でした」(千葉県女性)
「誰に不満を言えるわけでないのが辛い。出産予定日まで1週間を切っているが、正直前向きな気持は全く持てない」(沖縄県女性)
「6月下旬に出産。産院では両親学級が中止、面会も制限された。赤ちゃんのお世話の仕方がわからないまま、野に放り出された気持ちでした。激務の夫も積極的に育児に参加してくれますが、限界があります。ママ友もおらず、産後のちょっとした不安を共有することもできません。寝不足でボロボロ、赤ちゃんが可愛くないわけではありませんが、無の境地です」(東京都女性)
ただし、オンラインによるサポート体制の整備は、一つの希望かもしれない。
「妊婦健診や両親学級のオンライン通話、出産時のビデオ撮影など、人と手間はかかりますが、一生に一度かもしれない機会を貴重なものにしていただきたい」
2019年に日本で生まれた子どもの数は、史上最低の86万人台となり、少子化が止まらない日本。産後1年までの妊産婦の死因では、自殺がもっとも多いという厚生労働省の調査もあり、産後の母親のサポート体制が急務であることは間違いない。
コロナ禍という非常事態で、孤立することなく安心して母親が出産できる環境を整えられるか。社会として向き合う必要がある。
(文・横山耕太郎)