9月2日、3日とドイツを訪れ、同国での投資案件について要人と会談したテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)。
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電気自動車(EV)世界最大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が9月2日にドイツを訪問した。
新型コロナウイルスワクチンを開発するバイオ製薬キュアバックのチュービンゲン本社を視察したほか、ベルリン近郊で建設中のテスラの生産拠点「ギガファクトリー」について、同国のアルトマイヤー経済相らと会談した。
(↓マスクCEOの来訪に興奮し、スマホで撮りまくるベルリン市民)
ワクチン開発はもちろん世界最大の関心事。しかし、欧州のビジネス関係者がそれと同じくらい、あるいはそれ以上に注目しているのが、今回のマスクCEOとアルトマイヤー経済相との会談、さらにはブランデンブルグ州のヴォイトケ首相との会談だ。
テスラは、ベルリンの南東30キロほどにある森と湖の町、ブランデンブルグ州グリュンハイデで「ギガファクトリー」を建設している。
2021年夏の操業開始を目指して独ブランデンブルグ州グリュンハイデで建設が進むテスラのギガファクトリー。2020年8月31日撮影。
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同工場は2021年半ばに操業開始予定で、生産台数は年間50万台、1万2000人の雇用を生み出す。ただし、ドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレによれば、「まだ環境当局からの完全な認可を得られていない」状況だ。
しかし、米CNBCの報道(2020年9月3日)によると、ベルリンでマスクCEOと会談したアルトマイヤー経済相は「ベルリンの新たな電気自動車工場に必要なサポートは何でもする」と語ったという。
また、CNBCは本件に詳しい関係者のコメントを紹介し、同会談の「主な話題はドイツにおける数十億ユーロ規模の投資に関するものだった」としている。
さらに、ブランデンブルグ州のヴォイトケ首相はマスクCEOとベルリンで会談したあとにコメントを発表し、「とても素晴らしい、焦点をしぼった具体的な議論ができた」と成果を語った。
環境規制の問題について具体的な進展があったのかどうかはまだ明らかになっていないが、マスクCEO自身はツイッターに「ドイツ訪問は最高だった。政府と市民の皆さんから熱烈な歓迎と支持を受けた!」と投稿しており、手応えを感じている様子だ。
欧州「テスラ誘致合戦」が激化している
中国・上海で操業中のギガファクトリー。世界では3番目、ベルリンは4番目となる。
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イギリスやドイツをはじめとする欧州の国々は、それぞれ2025〜2040年を期限にガソリン車やディーゼル車の販売を全面禁止する決定を下しており、今後必要となる電気自動車の台数確保や、動力源となるリチウムイオン電池、さらにはその原料となるリチウムの確保に躍起になっている。
飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるテスラの生産拠点「ギガファクトリー」の誘致は、新型コロナウイルス感染拡大により大きな打撃をこうむった欧州各国にとって、経済回復の起爆剤としても期待できることから、文字通りノドから手が出るほどほしいチャンスだ。
すでに建設工事の始まっているドイツは一歩リードしている形だが、想定される電気自動車への需要はギガファクトリー1カ所、2カ所でまかないきれるものではなく、「誘致合戦」は今後間違いなくさらに過熱していくと思われる。
ドイツに続く急先鋒がイギリスで、国産の高品位リチウム活用を視野に、政府主導の電池技術開発プログラム「ファラデー・バッテリー・チャレンジ」が進行中。
リチウムを産出するイギリス南西部コーンウォールに近い中核都市ブリストルでは今年6月、マスクCEOの姿が目撃されている。
(文:川村力)