創業100年超「今治タオル」が“オンライン工場見学”に取り組む理由…コロナ時代の「信用づくり」とは

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愛媛県今治市のタオルメーカー「藤高」はオンライン工場見学会を開催した。工場内部をオンラインを通じて案内した(写真は現場で撮影されたもの)。

提供:藤高

日本を支える製造業の現場にもアフターコロナの変革が起こっている——。オンラインで開かれた、ある工場見学を体験したあと、実感した。

8月末、今治タオルで知られる愛媛県のタオルメーカー・藤高のオンライン工場見学会に参加した。従来は商談の場にもなっていた現地の工場見学。「今治タオル」のブランドを支える創業100年超の老舗タオルメーカーの1つが、オンライン化してまで工場見学を実施するにはそれなりの理由があるはずと参加した。

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藤高は、オンライン工場見学会を開いた8月27日に、新商品の発表も行った。

提供:藤高

藤高は愛媛県今治市に本社を構える、創業1919年の老舗タオルメーカー。自社で生産工場を持ち、糸染め加工からタオルの完成品まで一貫して手がける。2018年には東京・銀座で初の直営店を構えている。

今治はタオルの一大産地として知られ、多くのタオルメーカーや工場が集積する。今治タオルとして地域を挙げてブランド化しており、結婚式など高級贈答品としての人気が高い。

「Zoomで工場見学」の本気度に驚く

「藤高」の藤高亮社長

旧型の織機の前で説明する、「藤高」の藤高亮社長。

藤高が2020年8月27日に実施した「オンライン工場見学会」より

オンライン工場見学にはZoomが使用された。見学会が始まる10分前ほどから、画面上にはまず、タオルの製造工程を図と写真で紹介する映像が流れた。繊維業界を普段から取材していればよく知った内容ではあるが、普段目にしない人向けに工場見学前に簡易的な予習をする意味があった。

紹介映像が終わると、いよいよオンライン工場見学会だ。現社長の藤高亮氏が登場し、今回の企画の趣旨を説明した。

「本来なら銀座の店に皆さまをお招きして、商品の説明等々をするところだった。コロナのこういう状況で、何か他にできることはないかと考えた。今治に行かずとも工場見学してもらったらどうかと思いつき、取り組みました」

藤高社長は、本社内の100周年記念室に展示してある旧式の織機の前に移動し、どうやって織っていくのかを語り出した。

工場で説明する担当者

藤高の担当者は、染色工場で工程を説明してくれた。

藤高が2020年8月27日に実施した「オンライン工場見学会」より

次に、画面が切り替わり、染工場が映った。普段なかなか目にすることはない巨大な染色機器を前に、担当者がどういうふうに糸を染めていくのかを解説する。カラフルなタオルで使う糸が、いかに微妙な配色調合によって染められているのかを知った。

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ロール状の糸を染色していく(写真は現場で撮影されたもの)。

提供:藤高

その後も、ざまざまな工程の現場が映し出された。工場の広さ、機器の豊富さ、何より工程の清潔さに感心させられた。

最後に工員たちが揃って挨拶をし、オンライン工場見学を終えた。約40分間が経っていた。

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工員が手作業で縫製する。

藤高が2020年8月27日に実施した「オンライン工場見学会」より

工場の現地担当者との質疑応答がなかったのは少し残念だが、十分満足できる内容。毎日タオルを使っている時は気にしていなかったが、この工程を見せられると、タオルに対する見方もまた変わる。

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オンライン工場見学会の最後には、工員がそろって挨拶した。

藤高が2020年8月27日に実施した「オンライン工場見学会」より

スムーズな映像生配信「入念に準備した」

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説明する担当者(右端)から、中継用のiPadまで離れているが、担当者の声は途切れなかった。

藤高が2020年8月27日に実施した「オンライン工場見学会」より

担当者によると、今回のオンライン工場見学会では、特別な機材を用意していない。

工場からの現場の中継はiPad2台でつなぎ、担当者はワイヤレスイヤホンマイク「AirPods」を使っていた。その映像と音声を、Zoomで切り替えながら、参加者に見せていた。

担当者の説明の際、機械の動作音や、染色加工中の音などが終始鳴り響いてたものの、声はハッキリと聞こえていた。動きのある際の映像では粗さが目立ったが、止まっている映像では綺麗に見えており気にならなかった。

とにかく驚いたのが、映像切り替えのスムーズさだ。最後の工員が揃っての挨拶まで滞りなかった。あまりの手際の良さに、もしかして録画映像を流しているのではないかと勘繰ってしまったほどだ。そこには入念な準備があった。

「大枠のシナリオは、藤高の銀座店(のスタッフ)が提示し、それを受けて、染工工場長と営業担当が各パートを作りました。各パートでリハーサルを重ね、メンバー全体が参加してのリハーサルを5、6回重ねて、カメラワークや話す内容などを固めていきました。かかった日数は全体で2週間ほどです」(藤高社長)

以前から工場見学を続けていたおかげで、紹介オペレーションの素地があったこともあり、短時間でオンライン用に対応できたという。

オンライン工場見学は営業ツールにもなる

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オンライン工場見学会は、2人の担当者の映像をZoomで切り替えながら、代わる代わる案内していた。

藤高が2020年8月27日に実施した「オンライン工場見学会」より

なぜ、藤高社長は、「オンライン工場見学会」に価値を見出しているのか。聞けば、やはり報道陣向けのアトラクションというのではなく、先々のビジネスの取り引き(B2B)での活用を見据えているからだった。

「今後はB2B、実際の卸さんにもこういった形で、今治に来られなくても会社の説明をしたり、商売につなげたりと、オンラインで実施したい。今後も継続してやっていきたい」(藤高社長)

藤高社長が話すように、今治のタオル産地に限らず、日本国内における繊維品、電子部品、自動車などの生産工場の大半は、都市部から離れた場所にある。だが、新型コロナウイルスによって、これまで当たり前のように行われていた現地工場の視察が、難しくなってしまった。

商談自体は、ZoomやマイクロソフトのTeamsなどオンライン会議ツールでもできるが、メーカーにとって工場を見てもらうことは大切だ、と力説する。

「商社などと異なり、メーカーにとって、工場見学は非常に重要。昨今の市況でものづくりの背景に関心が高まっている。生産背景を持っていることが特に重要であり、生産背景を提示できることはビジネスにおいて大きなアドバンテージになり得る」(藤高社長)

それはメーカー側からの声だけではない。取引先からもある。

「取引先である問屋や小売店からも、現場を見たいという声は非常に多くある。新入社員が工場に毎年見学に来るという取引先もある。小売りの現場の方々に、ものづくりに興味を持ってもらい、工場見学をして実感したことを発信してもらうのは、非常に大事なこと」(藤高社長)

自社の生産現場(生産背景)を見てもらうことで、所有する機器や工員の質を生産能力が確かなものであると、取引先から信用してもらえる。また、生産委託する側にとっても、自分の目で確認できれば安心できる。

こういった考えは、決して藤高に限った話ではない。

実際、オンライン工場見学の動きが活発化してきている。YouTube上には「オンライン工場見学」と検索すると、この数カ月で関連動画が増えていることがわかる。

多くがB2C向け、一般向けではあるが、B2B向けにオンライン工場見学を行っているところもある。

金属の曲げ加工専門メーカー「フジテック」は、6月から自社ホームページとYouTube上で、B2B向けオンライン工場見学の案内を掲載している。

一般向けでは、キリンビールが凸版印刷と組んで8月に実施した。また、兵庫県高砂市のイベント会社「Sydecas(シデカス)」は現在「オンライン工場見学で、全国の製造業を応援!お土産プロダクト付き」という、化粧品製造、染色加工、採石加工などの支援も兼ねたクラウドファンディングを実施中だ。

現地視察、直接商談というような接触が制限されている中、工場を持つメーカーは互いのビジネス継続を円滑にするためにも、オンライン工場見学の活用など「非接触コミュニケーション」はますます増えるのだろう。これもある種、生産現場のデジタルトランスフォーメーションの一例とも言えるかもしれない。

(文・大塚淳史

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