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「数字が一気に変わった」メルカリ米国事業に吹いた想定外の“追い風”……「月間1億ドル達成」の裏で起こった市場変化

メルカリUS CEOのジョン・ラーゲリン氏

メルカリUS CEOのジョン・ラーゲリン氏。写真は2018年6月にパロアルトのメルカリUSオフィスにて撮影。なお、コロナの影響で、現在このオフィスにはほぼ誰も出勤していないという。

撮影:伊藤有

今、メルカリの米国事業が急成長を遂げている。

2020年第4四半期(4〜6月)には前年同期比183%の大幅な伸びを記録。メルカリが上場後1年半以内の目標としてきた「米国メルカリの月間流通総額(GMV)1億ドル(約105億円)」をついに達成した。

背景には、新型コロナウイルスの流行による、急激な市場環境の変化がある。

メルカリのUS CEOジョン・ラーゲリン氏へのグループインタビューから、いま米国メルカリに起きている変化を探る。

米国市場で起こっていることは「対岸の火事」か?

GlobalDataの調査をもとにした、オンライン・オフライン中古市場の成長比較。

GlobalDataの調査をもとにした、オンライン・オフライン中古市場の成長比較。

出典:THREDUPのレポート「2020 RESALE REPORT」

米国最大の中古ファッションEC「THREDUP」が、調査会社GlobalDataと提携して公開したデータによると、米国の中古EC市場の伸びは新型コロナウイルスの影響を含めて2020年に前年比27%、21年には2019年比で69%の成長が見込まれるという。

米国版メルカリの急成長は、まさにこのレポートを裏付ける事例の1つとも言える。

米国版メルカリはこの8月、月間アクティブユーザー(MAU)が420万人超、出品規模は1日35万品以上まで増加。アプリのダウンロード数も5500万を超えた。

米国メルカリをめぐる直近のビジネス動向。MAUは8月に420万MAUとなった。

米国メルカリをめぐる直近のビジネス動向。MAUは8月に420万MAUとなった。

出典:メルカリ

苦戦を続けてきた米国メルカリ

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コロナ禍直前3月と、6月の米国メルカリの状況。季節的な変化があるとはいえ、出品数は53%増、購入数も36%増というのは、コロナを背景にしたニーズ変化の追い風を強く感じさせる。

出典:メルカリ

メルカリは日本でサービスインした翌年、2014年に米国へ進出。ベータ版を経て、正式版になった2016年以降も苦戦が続き、「米国事業への投資が赤字の大きな要因の1つ」との見方をされてきた。

2018年には、不要品が売れるアプリであることを前面に打ち出す「売るアプリ(The Selling App.)」のキャッチコピーを掲げたリブランディングも実施。アプリ自体、米国向けの独自コードで、日本版とは別物に設計したほどだ。

これ以降、出品物を持ち込むだけで梱包・発送できる「Mercari Pack and Ship」(UPSとの提携で実現)のほか、直近8月には、QRコードでより簡単に手続きができる仕組みも導入するなど、ユーザー体験(UX)の改善を続けてきた。

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米国版メルカリではAIを活用した需要予測や売り出し価格提案機能のほか、「本物鑑定」なども始めている。

出典:メルカリ

2017年からメルカリのUS CEOを務めるジョン・ラーゲリン氏は、

「アメリカは日本の宅配便のように配送が充実しておらす、コンビニ発送もできない。そのため、配送をいかに早く簡単にできるようにするかが大きな課題だった」

と話す。

今年6月からサンフランシスコで試験的にスタートした、同都市内でのダイレクト配送サービス「Mercari Now」も、こうした改善の延長線上にある(米国版Mercari Nowは、日本で展開していた同名サービスとはまったく違う、配送サービス。オンデマンド宅配サービスのPostmatesとの提携で実現している)。

「Web回帰」で強化するほど成果が出る

米国版メルカリのWeb版画面

米国版メルカリのWebインターフェイス。アプリ版も含めて、日本版とはまったく異なるブランディングと進化を遂げている。成長にフォーカスした結果、ロゴマーク、テーマカラーまでまったく違ったものになった。

出典:メルカリ

コロナ流行以降、オンラインサービスのWeb版が再燃する「Web回帰」の現象は、さまざまなIT業界関係者が言及し始めている。

ラーゲリン氏も、直近5月に実施したWeb版米国メルカリのリニューアルにからみ、質疑のなかでこう発言した。

「メルカリは常にモバイルファーストできたが、米国ではPCからWebを利用するケースも多い。実際にWebサイトの機能を強化すればするほど成果が出ている」

こうしたさまざまな施策を2年にわたり積み重ね、「ブランドマーケティングにも積極的に投資した結果、2020年の2月には認知度が1.8倍に高まった」とラーゲリン氏。

ここまでは、ある意味で「事業成長のための当たり前の改善」を続けてきたわけだ。

世界がコロナ禍に突入、米国の主要都市がロックダウンが実行され、在宅勤務が前提の社会(いわゆるWork From Home、WFH)となったのは、まさにそうしたタイミングだった。

ロックダウンが始まり、わずか数日で「数字が一気に変わった」

ジョン・ラーゲリン氏

Zoomでカリフォルニアと東京をつないで開かれたラウンドテーブルにて。

出典:オンラインラウンドテーブルの模様をキャプチャー

何が起こるかわからない……3月17日から全米で最も早く始まったサンフランシスコのロックダウン下で、慎重に状況を見ていたと言うラーゲリン氏。

「(当初は)コロナの影響はまったく予測できないと思っていた。また同時に全社員を在宅にしなければいけなかった」

厳戒態勢が始まった時期の混乱について「カオスな状況だった」とラーゲリン氏。ロックダウンに突入する混乱のなか、わずか数日のうちに利用者が急増しはじめたと、当時の状況を語った。

「数日間で、本当に数字が一気に変わった。本当にオーバーナイト(一晩の間に)というくらい(の変化があった)」

質疑に答える形で、WFH前後で取引あたりの平均単価は大きく変わらなかったことも、明らかにされた。それはつまり、月間GMV1億ドルの達成は、「利用者数」と「取引回数」の増加によって実現したことを意味する。

「このようなピンチのときに、多くの人に役立つ基盤となれたことを誇りに思う」とラーゲリン氏は、これまでの取り組みの成果に対し、自信をにじませた。

山田社長同様、米国CEOも「コンサバでいく」

しかし、米国にはebay(日本でいうヤフーオークションにあたる競合)を始めとする大手マーケットプレイス、売買広告サービス(クレイグスリストなど)など競合するプレイヤーが多い。WFHを経て伸びているのも、米国版メルカリだけではないだろう。

ラーゲリン氏は「メルカリには他社にない強みがある」と自信を見せながらも、厳しい競争環境に身を置く状況を冷静に見てもいるようだ。

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アメリカでの競合状況。ebayは日本でいうヤフーオークションのような大きなライバルだが、個人と個人が取引するC2Cにフォーカスしている点などが大きく異なると説明する。

出典:メルカリ

「月間GMV1億ドルという規模になって初めて黒字化のオプションも見えてきたが、競合の上場や合併など変化が激しく、コロナの影響もまだどうなるかわからない。

臨機応変に動けるように“コンサバ”で(状況を楽観視することなく)いたい。

今後も“新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る”というミッションに向けて、アメリカでの成長を進めていきたい」(ラーゲリン氏)

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不穏な兆候もある。アドビの調査によると、5月以降、アパレルEC関連の前年度成長比は5月をピークに現象。売上高についても、同様の傾向が見えている。この変化はC2Cに影響するのかしないのか。

出典:アドビ

アドビがこのほど取りまとめた「Digital Economy Index」では、米国市場の気になる動向がレポートされている。米国のオンライン消費(対前年比)は5月をピークに直近1月以降の天井を打ったというのだ。

オンラインへのシフトは確実に進む一方、リバウンド消費は鎮静化を始めている。

支出の切り詰めが進む中で、二次流通市場の成長がどの程度の水準に落ち着くのかは、まだ誰にもわからない。

米国メルカリはこの勢いで成長し続けられるのか。真価が問われるのはこれからだ。

(文・太田百合子、聞き手・伊藤有)

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