この夏、株式市場はアメリカを中心に絶好調ともいえる上昇基調が続いたが、バンク・オブ・アメリカはそれが終わりを告げる指標の動きを確認しているという。
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- バンク・オブ・アメリカのテクニカルアナリストによると、この夏、追跡している複数のテクニカル指標について、下降がみられるという。
- この指標の下降は主に、市場の幅が狭まっていること、あるいは一部銘柄への取り引きの集中が進んでいることを指す。
9月第1週、投資家たちは株価下落を伝えるうれしくもないアラートをくり返し受け取ったはずだ。
史上最速のケースに数えられる株式市場の回復は止まり、ダウ・ジョーンズ工業株30種平均とS&P500種株価指数は6月以来、最大の下げとなった。
先週の株価下落が起きる前から、一部の機関投資家は顧客に対して、この1年は何が起きるかわからない状況が続くことから、注意して強気の投資を控えるようアドバイスしてきた。
例えば、ブラックロックはパニック状態といってもいいような価格上昇を続ける先進国株式を、ややアンダーウェイト(=基準となる資産の配分比率より少なくする)とする戦略にシフトしている。
JPモルガンのアナリストもヘッジの必要性を忘れてはいない。株価の反発上昇をけん引するテック株は、投資家たちが考えているほど安泰ではないと警鐘を鳴らしている。
バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)のテクニカルアナリストたちも同様に、株式チャート画面の前から警告信号を発している。
下降トレンドに反転する予兆が
7月、バンカメはこの夏の株価上昇の勢いが鈍化するか、止まることを示すいくつかのテクニカル指標の変化をとらえた。
夏の終わりが近づくと、チーフテクニカルストラテジストのスティーブン・サットマイヤー率いるチームは、これらの指標が悪化の一途をたどっているとの警告を発した。
テクニカル指標の下降と株価の上昇が同時に起きる現象は、「ベアリッシュ・ダイバージェンス(弱気のかい離)」と呼ばれ、株価が下降トレンドに反転する予兆として知られる。しかも、9月はもともと株価下落が起きやすいシーズンなので、先行きが心配だ。
「米国株にとっては地合いが強い夏だったものの、各指標にベアリッシュ・ダイバージェンスがみられ、そのままの状態で、1年で最も株価が下がりやすい9月を迎えている」
そうした季節要因や後述するテクニカル指標の動きのほかにも、結果の見通せない大統領選挙が控えており、投資家たちに困難な数週間を強いる不確実性の源泉となっている。
実際、大統領選挙が行われた年の平均月次リターン(S&P500種株価指数)を1950年以降のデータで確認してみると、選挙前の9月、10月はいずれもマイナスとなっている。
さらに、大統領選挙のあるなしを問わず、1950年以降では9月の平均月次リターンが最も低い(いずれも米LPLファイナンシャル調べ)。
巨大テック企業に資金が集中する現状
新型コロナ感染拡大による閉鎖を経て再開した米ニューヨーク証券取引所(NYSE)。11月の大統領選挙を前に、不透明なムードが漂う。
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投資家たちを待ち受けているのは、過去のデータが教えてくれる以上の危機かもしれない。
バンカメのサットマイヤーは、この夏、株価は破竹の上昇を続けたにもかかわらず、いくつかのテクニカル指標は改善されなかったと指摘する。
レポートによれば、これらの指標は市場の幅、あるいは広範な株価上昇トレンドにおける個人投資家の参加率と関係していて、サットマイヤーは近況を「ガス欠状態」だと表現する。
その理由を読み解くのは全然難しいことではない。
ソーシャル・ディスタンシングが続くことで、巨大テック企業のプロダクトへの需要は今後も維持されると投資家たちは考えている。それゆえ市場の集中度が高まり、市場全体が生み出すリターンの大半が巨大テック企業に片寄る形になっているからだ。
このように、少数の巨大テック企業が市場の方向性をがっちり握っている状況においては、投資家は「より見えづらい変化」に目を向ける必要がある。サットマイヤーはこれまでもそうしてきた。以下がその変化の詳細だ。
- 株価の10日、50日、200日移動平均線は、市場が最近顕著な下落を経験した6月を下回っている。バンカメのテクニカルアナリストたちは、ある株式のスポット価格がこれらの長期移動平均線を下回るとき、下降トレンドと判断する。
- ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場している株式の累計出来高(=市場に出入りする資金量を示す)は6月を下回っている。
- S&P500種については、累計出来高がわずかに増加している。しかし、6月前半から8月後半については、依然としてベアリッシュ・ダイバージェンスがみられる。
- 金融市場と連動し、投資家が企業のバランスシートの健全性を判断する基準にしている2つの上場投資信託(ETF)「iシェアーズ iBoxx ハイイールド社債ETF」「iシェアーズ iBoxx 米ドル建て投資適格社債ETF」は8月、「より安い高値(lower highs)」をつけている。
ただ、(下降トレンドに反転する予兆とされる)ベアリッシュ・ダイバージェンスがみられる現状を踏まえつつも、サットマイヤーは強気を示すある指標に注目する。
それは、S&P500種株価指数の上昇を上回る速さで取り引きを行うため、投資家たちが金融機関から旺盛な借り入れを行っていることだ。
その残高を示す、いわゆる「マージン・デット(margin debt、証拠金債務)」の拡大は、投資家がレバレッジを効かせた取り引きを行うのに十分な強い地合いを感じていることの証左であり、それは同時に、株価上昇をさらに押し進める原資を生み出している。
とはいえ、マージン・デットの増大は、これまでの強気の相場のピークで起きた株価急上昇の帰結であって、それがまた次なる株価上昇の触媒になるかというと、限界があるだろう。
(翻訳・編集:川村力)